時を見守る者

 公園を走り抜けてアウトレットパークに隣接する南町田駅付近に賢士が戻ると、東急ストア前の休憩スペースで手を振っている女性がいた。


 早坂怜奈レイナ、去年のクリスマスに別れた女性である。ベンチから立ち上がり、空に浮かび上がりそうな感じで爪先立ちをして明るい笑顔を振り撒いている。


「おはよう。ケンジ」


 ピンクのシャツにダルメシアン柄のロングスカート。早坂玲奈はこの春に吉祥寺にある大学に入学し、久しぶりに賢士に会いに来た。


 賢士がゆっくりと近寄って微妙な距離で止まり、「おはよう」と手を上げて挨拶して微笑むが、眼差しはクールで戸惑いは隠せない。


 去年のクリスマスに別れ、怜奈からメールが一度あったが、別れる前に連絡すると約束した大学合格の報告であり、賢士も「おめでとう」と返信しただけで終わっている。


「レイナ、なんかあった?」


「ごめん。どうしても会いたくなって、早起きして来ちゃった。でも遠くで走っているの見て、話さずに帰るつもりだったんだよ」


 怜奈は気まずそうに肩を竦めて言い訳をし、賢士は風に乗って東急ストアのカフェの屋根に着地した、金髪の天使を視界の端に捉えて心の奥底で自問自答する。


『なぜだ……?天使はタイムリープが起きた時に現れる筈。時のバランスが崩れたのか?』


 賢士は幼い頃に不思議な体験をし、天使が視える事がバレると危険が生じると考えていた。


 金髪の天使は背中の白い翼を閉じて屋根に腰掛け、左腕のクラシックウォッチ・ブレゲで時間を確認してから、足をぶらぶらさせて頬に手を当てて、賢士と怜奈が話しているのを見下ろす。


『怜奈が来たのは時間通り。しかも賢士に話しかけて時の流れは変化した』


 天使は時を見守り、運命を導く存在。三日間時を戻した影響で時を壊れないよう監視し、危険性があれは修正して、最悪の場合はリロードしなければならない。

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