天使への哀願

 霊体の悠太が救急車の後部席の端に座り、自分の遺体と一緒に病院に着くと、途方に暮れてフロアを彷徨い、休憩室に入って壁側の椅子に腰掛け、入院患者と一緒に事故現場を中継するテレビニュースを観る。


「事故の原因は認知症による暴走運転と思われますが、暴走する直前に降車した若者がいたらしく、今も警察は調査を進めていると……」


 悠太はニュースキャスターの声を聴きながら、他に空席があるのに隣に座に着く、ラフなジャケットにエンジェルスのキャップを被った金髪の青年を横目で見る。


「災難だったな」とテレビに顔を向けたまま呟き、ブルーに輝く瞳を悠太に向けたので、思い切って質問した。


「君、僕が見えるのか?」

「もちろんです」


 金髪の青年は複雑な笑みを浮かべて頷き、横に置いた革の四角い鞄を開け、中の白い翼を悠太に見せてくれた。


「天使なのか?」


 休憩室に驚愕の声が響き渡るが、普通の人間には聞こえず、金髪の青年は否定も肯定もせずに世間話でもするように喋り始めた。


「君はともかく、彼女は間違いで今日死んでしまった。と言っても、一日早まっただけなんだけどな」

「何かのミスって事ですか?それなら、マリアの時間を何日か前に戻してくれませんか?」

「お前、変わってんな?普通の人間は自分のことを願うんだよ」

「僕はいい。でも、マリアは死んじゃいけない人だ。めぐり逢うべき男性がいたんだよ。君が天使なら、お願いだ。三日間でいいから、マリアに時間を与えてやってくれ」


 悠太が前に立って頭を深々と下げて頼むと、天使は少し考えてから悪戯っぽく微笑み、右手を上げて人差し指を天に向けた。


「明日は復活祭だったな。特別に聞いてやってもいいぜ。どうなるかは約束できないけどな」

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