23話 侵入者

23-1 結界モドキ

 レイルは、亜人じゃなくて魔獣と人の間の子だった。

 なんでも、本来なら人間の男との間に子供なんてできないはずなのに、どうやってか能力を完全に封じられて、レイルができたらしい。

 なにしろレイル自身が産まれる前のことだから、詳しいことはわからないんだとか。

 ただ、本来餌でしかないはずの人間の子を産んだということで、レイルの母親は、同族からずいぶんとバカにされてたらしい。

 当然、そのアオリを食らったレイルは、たまたま使えるようになった身体強化で、バカにしてきた奴らを半殺しにして故郷──というか縄張りを捨てて、人間のふりをして冒険者になったらしい。

 父親ってのが何者かは知らねぇが、何かの目的があってレイルを産ませたことは間違いないだろう。

 ただ、レイルが知ってるのは、母親の妊娠がわかると、それまで捕らえられていたのを解放されたってことくらいだった。

 そのまま受け取ると、淫魔を妊娠させられるか実験をした──魔獣の力を抑えられるか実験したってことなのかもしれないな。




 レイルとは、あれからも普通に接している。

 なんか煙に巻かれたような気もするが、俺とセシリアの仲を取り持ったのがあいつってことを考えると、邪魔されるわけでもないし、いいんじゃねぇかって気がしてくるから不思議だ。

 つうか、まさかレイルが女だったとは思わなかった。

 初めて変化が解けて素顔を見た時、なんで気が付かなかったんだろう。…鎧着けてたからか?




 今んとこ、セシリアには何も言ってない。

 俺のこたぁともかく、レイルのことについては、隠してることがあってもしゃあねぇしな。

 元々、レイルが純粋な人間じゃないってことも教えてなかったんだ、今更だろう。

 セシリアの心身に害がないってんなら、うるさいことを言う必要もない。



 そんなこんなで、今日もレイルと街の外を見てるわけだ。

 魔法陣の方は、特に変わったことはない。

 心なしか魔力が通るのが早くなったような気がしなくもないが、きっちり数えてるわけじゃねぇからなぁ。

 待ってる間が暇なんで、魔法陣の実験をやってみてる。

 今は、いつも使ってる明かりの魔法陣の外に、明かりの魔法陣を5つ置いてみるって実験だ。

 もし、封印が魔法陣を使ってたとして、五角の魔法陣で囲むことで効果を打ち消せるとしたらって考えたからだ。

 明かりの魔法陣で試してんのは、その方が暴走してヤバいことになる心配がないからなんだが、どうも何も起こりそうにない。

 そもそも魔素溜まりじゃないって時点で駄目な気もするが…。

 よし、次は外側だけの魔法陣で囲んでみるか。


 …わかっちゃいたが、やっぱり何も起こらない。

 次は、魔力を多めにぶつけてみよう。

 以前、明かりの魔法陣の内側に魔力を大量にぶつけてみた時は、普段よりも明るかったはずだ。

 外側だけの魔法陣5つに、魔力を大量にぶつけてみるが、結局5つとも燃えてしまった。

 次は、内側でやってみるか。

 内側の陣だけで囲み、ぐるりと周りながら、1つずつ魔力を送る。

 明るいから魔法陣が光ることはないが、魔力が溜まっていってるはずだ。

 注意して見てると、一番最初に魔力を送った魔法陣から魔力の線が走った。

 魔力の線は、1つ置いて隣の魔法陣へと走り、魔素溜まりの魔法陣と同じ、内側に逆の五角形がある魔法陣ができあがった。


 「…できたな」


 「できたんだ」


 「魔力の過剰供給が5つ揃うと、魔法陣になるってことか?

  そうすると、内側はどうなるんだ?」


 魔力を送るのをやめても、五角の魔法陣はなくならない。

 むしろ段々、魔力の線が走る間隔が短くなってきた。

 最初は上から左下に、左下から右上に、と2か所を繋ぎながら、1本の線が次々動いている感じだったのに、今は同時に5本走ってる。

 完全に線が繋がると、内側の逆五角形の中から、魔素も魔力も感じられなくなった。


 「…おい、レイル」


 「試してみようか」


 レイルも、魔力が消えたことを感じたらしい。懐から出した魔石を、逆五角形の中に放り入れると、魔石に籠められてた魔力がみるみる吸い出されてくのがわかる。


 「んじゃ、これはどうだ」


 小さな炎の玉を作って、逆五角形の中心を通り抜けるように撃ち出すと、逆五角形の中に入った途端に小さくなって消えちまった。もう少し大きいので試すと、小さくはなったが逆五角形を通り抜けて飛んでった。


 「じゃあ、これは?」

 今度はレイルが、剣に炎を纏わせて逆五角形に突っ込む。

 剣が纏った炎は、全く変わらなかった。


 「剣に籠めた魔力は影響を受けないってことか」


 「じゃあ、魔石も手で持ってれば大丈夫かな」


 さっきレイルが放り投げた魔石を拾って魔法陣の外で魔力を籠め直し、右手に握ったまま逆五角形に突っ込んだ。魔石の魔力はやっぱり抜けてくが、さっきよりずっとゆっくりだ。よく見ると、握った手からはみ出したところから魔力が抜けてくのがわかる。

 この魔石の魔力を使って、逆五角形に入ってない左手から炎の玉を出すこともできた。逆五角形の中だと、炎の玉を作った途端に消える。

 逆五角形の中に突っ込んだまま、魔石に魔力を籠めることもできた。

 まぁ、籠めるそばから抜けてくんだが。

 試しに、魔力を練りながら逆五角形の中に入ってみた。全身が入っても練ってた魔力はなくならないが、炎の玉を出しても、次の瞬間には消えちまう。練った魔力を使い切った後は、もう魔力を練ることもできなかった。魔素がないんだから、当たり前だな。


 逆五角形から出て、レイルに


 「もし、結界術がこれと同じ効果だってんなら、結界に閉じ込められたら魔石も役に立たねぇってことだな」


と言うと、


 「魔石がからになる前に、さっさと勝負着けなきゃならないね」


と答えてきた。


 「俺のやり方が可愛く見えるな。

  んじゃ、次はこの魔法陣の壊し方だが」


 外側に置いた魔法陣の1つに、炎の玉を飛ばしてみると、あっさり吸収されちまった。

 軽く蹴ってもみたが、魔力の線で固定でもされてるみたいにびくともしない。

 たかが紙っぺら1枚が、だ。


 「剣ならどうかな」


 レイルがまた剣に魔力を纏わせて斬ると、今度は斬れた。そして、角の1つを失った魔法陣は、魔力の線も消えて、ただの紙になった。

 中心に置いてた魔法陣は、魔力がどうなったか確認するために持って帰ろう。


 「偶然だが、いい実験になったな」


 「本物は、きっともっとえげつないよね」


 「魔素溜まりもお前の剣で斬れりゃいいんだがなぁ」


 「そんな悠長なこと言ってていいの? 街の外の魔法陣も同じものなら、完成したら街中まちじゅうで魔法が使えなくなるんだよ」


 レイルの言うとおりだ。あのバカでかい魔法陣の中の逆五角形は、街全体を覆ってるんだ。


 「急いで支部長に報告だな」





 俺達が門に着くと、門番に詰め所に連れてかれ、そこにはセシリアが待っていた。

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