20-2 5つの魔素溜まり

 翌朝、朝飯の時、絶対レイルにからかわれると思って身構えてたが、レイルは


 「やっと結婚する覚悟できたんだ。おめでとう」


と言っただけだった。

 いつものニヤニヤ笑いじゃなくて、心の底から嬉しいような言い方で、毒気を抜かれた感じだ。

 いや、からかわれたいわけじゃないし、いいことなんだが、違和感というかなんというか…。


 「あ、そうだ」


 レイルが、さも“今思いついた”って顔でこっちを見た。あぁ、ここでくるのか。


 「君らが結婚しようが子供作ろうが好きにしていいけど、冒険者としての君の相棒は僕だけだからね。引越するなら、僕の部屋も用意してよね」


 言われた言葉は、なんか妙にズレた内容だった。


 「そりゃ、仕事の方は今までどおりだろ。

  どっかよその街に行くにしても、お前とのコンビを解消する気はねぇよ」


 「わかってればいいよ。

  そこさえ守ってくれれば、僕としても君らの幸せは喜ばしいことだからね。

  で? 今後は寝室も1つにするの?」


 「いや、俺がいないこともあるし、今までどおりでいいんじゃねぇか」


 「わ、私はどちらでも」


 セシリアが赤くなってやがる。あのお堅い女がこんなに表情豊かになるとはなぁ…。





 支部長のところに顔を出すと、難しい顔をして待ってた。

 なんか面倒なことが起きたって雰囲気だ。


 「すまないな、呼び出して。

  予想しているだろうが、面倒ごとだ」


 おいおい、いきなりそれかよ。


 「リアンの支部長のフリードが失踪した」


 「は?」


 なんだよ、そりゃ。

 セシリアの報告書なんか、まだ本部に届いて何日も経ってないだろ。


 「リアンには、今回の監査に合わせて、監視員が派遣されていたそうだ。

  気が付いていたかもしれんが、監査室の天井裏に潜んで、君達を襲う者がいないか監視していたそうだ」


 なんだ、じゃあ、リアンの方で用意した監視役は、本棚の陰に隠れてた奴だけだったのか。


 「その監視員は、君達が街を離れた後もリアンで張っていたんだが、君達が街を離れた3日後、フリードが姿を消した。

  門を通らずに街を抜け出たと思われる」


 「それって、やっぱ俺達が刺客を返り討ちにしたからですかね?」


 1日経っても刺客が戻らないから見に行ったら死んでたんで逃げた、と考えれば、まぁ、日数は合うな。


 「おそらくそうだろうな。

  そして、こうなると、例の魔素溜まりがフリードかその関係者によって造られた可能性が高くなってくる」


 リアンの支部長が、魔素溜まりを?

 なんでまた。


 「目的はわかってんですか?」


 ダメ元で訊いてみた。


 「それがわかれば苦労はない。

  が、近いうちにこの街に現れるだろう」


 「なんでです?」


 「あくまで予想だが、お前達がリアンで見付けた魔素溜まりは、この街周辺にできた魔素溜まりのための実験だったように思える」


 「なんでそう思うんです?」


 「今、この街の周辺には、5つの魔素溜まりができていて、それぞれの魔素溜まりは、この街からほぼ同じ距離に等間隔に並んでいる。

  つまり、なんらかの意図をもって、正確に5か所を選び、魔素溜まりを造った、ということだ」


 支部長は、街周辺の地図を出し、そこにそれぞれの魔素溜まりを書き込んでいく。

 北の魔狼の森、西の岩の巨人、南西の牙猪の森、南東の魔法陣の洞窟、東の一ツ目の洞窟…。

 それぞれが、この街から同じくらいの距離で、魔素溜まり同士も同じ距離だ。


 「だから、北の森の魔素溜まりの場所がわかったってわけですか」


 念のために確認してみると、支部長は頷いた。


 「気付いていたか」


 「いえ、闇雲に探したにしちゃ早いんで、何か心当たりがあるんだろうとは思ってました。

  いつから気付いてたんです?」


 「ギガントが出た時だったか。

  この辺にいないはずの魔獣が5か所に現れ、それぞれの位置関係が計ったように絶妙となると、そこに何かあると思うだろう」


 「なるほど。ってことは、この五角形は魔法陣かなんかってことですか?」


 「鋭いな。そうだろうと思うが、今のところ、突起が5つの魔法陣は見付かっていない。調べさせてはいるが、まだ色よい答えはない」


 「でも、支部長は何かあると思ってるわけですね」


 たしかに、こんなに綺麗に並ばれれば、何かありそうではあるけどな。

 このおっさん、レイルの読みどおり、えらく鋭いぞ。


 「五角形の中心であるこの街を狙ってのこと、だろう。

  この街が110年前にジークによって作られた街だということは知っているか?」


 「ジークって、勇者って呼ばれた伝説の冒険者ですか!?」

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