20-3 勇者と呼ばれた男
勇者ジーク。
100年以上前の、伝説の冒険者。
強力な魔獣を相手に、たった1人で立ち向かって討伐する無敵の男。
最終的には、貴族になったとか言われてたよな。嘘かホントか知らないけどよ。
「この街を勇者ジークが作ったんですか?
じゃあ、ここの領主だったとか?」
「いや、正確には、この辺りを縄張りにしていた魔獣を倒して、この領域を手に入れたという意味だ。
当時、ジークには、ルードというパートナーがいたので、2人の名前を合わせて街の名が“ジールダ”になったんだそうだ」
「パートナー? ジークはソロだったんじゃないんですか?」
「後にソロになったが、当初は2人組だったそうだ。
それでな、この間話した結界術なんだが、ルードがその使い手だったらしい。
まだ紋様はわからないままだが、ルードが魔法陣で魔獣を魔素のない結界に閉じ込め、その魔素を魔力に変えてジークの剣や鎧などに与える、という戦い方だったそうだ。
ジークの剣や鎧には、魔力を受けるための魔法陣が彫られているらしい」
魔法陣で得た魔素を使って魔力を練り、それを剣に飛ばすってのか?
「魔法陣と魔法陣の間で、魔力を飛ばせるんですか?」
「できるのだろう、実際にやっていたのだから。
複数の魔法陣で結界を作り、結界内にあるジークの装備の魔法陣に魔力を送る、言うなれば結界自体も魔法陣のような…」
しゃべりながら、支部長が固まった。
なんだ? 何か考え込んでいた支部長が、いきなり叫んだ。
「そうか! 魔法陣を組み合わせて、大きな魔法陣が作れるのか!」
1人でうんうん頷いてる支部長に声を掛けてみる。
「魔法陣の組み合わせがどうしたんです?」
「ルードの結界は、おそらくそれ自体が魔法陣だったのだろう。
いくつかの魔法陣を基点として、大きな目に見えない魔法陣を作っていたんだ」
魔法陣が基点? つまり、魔法陣の6つの突起がそれぞれ魔法陣でできてるってことか。そりゃまた複雑な…。
って、そうか!
「5つの魔素溜まりが、それぞれ魔法陣の突起!」
「そういうことだ!」
じゃあ、この街は魔法陣の中に入ってるってことじゃねぇか!
さっきの五角形の話は、ここに繋がってるのか!
「じゃあ、奴ら、その魔法陣でいったい何をする気なんです!?」
「…“魔神”の復活ではないかと睨んでいる」
「魔神?」
「さっき話した、かつてこの辺りを縄張りにしていた魔獣のことだ。
これも、つい先日わかったことだが、110年前、この辺りは巨大な魔狼の亜種の縄張りになっていたそうだ。
魔狼より二回りほど大きく銀色に光る体、強力な氷の魔法を使う恐ろしい魔獣で、ついた呼び名が“魔神”だった。
多くの冒険者が討伐に訪れ、敗れ去ったという。
ジークは、その噂を聞いて、魔神討伐のためにやってきた。
そして、ルードと協力して魔神を結界に閉じ込めて戦ったものの、倒すには至らなかった。
それでも深手を負わせ、封印に成功した。
そうして、魔神の縄張りの一部に作られたのが、このジールダの街だ」
「封印ってなぁ、なんです?」
「わからん。
封印の方法も、封印された場所も、資料が残っていない。
正確には、あるかもしれんが見付かってはいないのだ」
「それじゃ、何もわからねぇってことじゃないですか」
「だが、ジークは魔法を使えないから、封印したのはルードのはずだ。おそらくは、魔法陣で何かしたのだろう。
魔法陣による魔法は、通常の魔法とはかなり毛色が違うからな」
あの魔素溜まりが魔法陣の突起だったとして、魔力の流れは見えるか? でかすぎて無理だよなぁ。
「あの魔素溜まりを造った奴らって、どこで魔法陣の作り方覚えたんだろうね?」
それまで黙ってたレイルが口を挟んだ。
「あ? 作り方?」
一瞬、何を言ってるのかわからず聞き返すと、
「だからさ、僕らが魔法陣のこと知ったのって、洞窟のアレ見たからでしょ?
それでフォルスが気が付くまで、魔法陣が魔素吸って動くこと、誰も知らなかったんだよね。
じゃあ、あの洞窟の魔法陣作った奴らって、誰に作り方習ったのさ?」
…そうか。
魔法陣の研究なんて、ロクに進んでなかったはずなのに、誰も知らなかった魔法陣を作れた奴がいるんだ。
「リアンの支部長なら」
「なんだ?」
ふと思いついた言葉を、支部長が聞き咎めた。
「リアンにも、魔素溜まりがありました。
あれにリアンの支部長が関わってたなら、支部長の周囲を探せば資料が見付かるかも」
「なるほど。そいつはいい。ちょうどフリードの周辺は捜索中だし、リアンの魔素溜まりを造ったのがフリードかもしれないという報告も上げてある。
資料が見付かれば、回収されるはずだ。
あと、こっちでできることと言えば、フリードの関係者が街に入っていないか探すことと、魔神の封印場所を探すくらいだが…。
どちらも現実的とは言えんな」
たしかになぁ。
「五角形の中心を探してみるくらいですかね」
「支部長、門を出入りしたよその街の冒険者を捜してみてはいかがでしょう」
セシリアが珍しく意見を言ってきた。
門か。ギルドには顔を出さなくても、門の出入りにギルド手帳を見せれば、よそ者だとわかる。よそ者を捜せば、当たりを引く可能性もあるか。
「この話は、当面極秘扱いとする。
すまんがフォルス達には、しばらくこっち専属で動いてもらいたい。それなりの報酬は出す」
「嫌だと言っても無駄なんでしょう?」
「よくわかってるじゃないか。よろしく頼む。
セシリアも、2人の専属として、こちらとの連絡係を頼んだぞ。家の中は、むしろ安心して報告できるだろう」
恐ろしく面倒な話に巻き込まれた。
魔狼よりでかくて強いって、どういう冗談だよ。
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