16-3 必殺技

 突っ込んだレイルに対して、一ツ目は右の下の腕で迎え撃った。

 右下の拳を止められた一ツ目は、すぐに左上の拳を振り下ろしてきたが、レイルはすかさず下がってかわす。

 レイルの剣が一ツ目の拳を半分くらい斬り裂き、小指と薬指の2本がプラプラしている。

 多分、レイルはある程度力比べになることを見越して、斬れ味より力を強化しているんだろう。

 レイルはこちらを見ずに左手を上げて指を1本立てた。もう1回試すってことか。

 一ツ目の右側に回り込んで、傷つけた右下の腕を狙うようだ。

 前腕に振り下ろされた剣は、骨で止まった。

 一ツ目は、筋肉を締めて剣を抑えて左下の拳で殴ろうとしたようだが、レイルは斬れ味を上げたのか剣を引き抜いてかわした。

 楽勝とはいかないようだな。


 今度はレイルも合図をしてこないから、一ツ目の周りから魔素をどかす。なるべくレイルの周りに集めてやろう。

 魔素をなくしても、一ツ目の様子は変わらない。

 深手を負った右下の腕を庇って左下と右上の拳で殴りかかっているが、レイルはちまちまと傷を与えている。

 ん? 左下の腕が斬り飛ばされたな。

 今までより弱くなったか?

 レイルは右下の腕を落とし、左足を半分ほど斬りと、いい感じだ。

 ここから見ている分には、そんなに大きく変わっていないようだが、レイルの剣が与える傷は徐々に大きくなってるようにも見える。

 レイルは魔素のあるところまで下がっては、また突っ込むって動き方だから、あんま違いがわからねぇんだよな。

 って! おい! みゃあまで飛びかかってるじゃねぇか! いつの間にあんなとこに。

 

 左足潰した後は、もう一方的だった。

 結局、膝をついた一ツ目の首をレイルが斬り飛ばして勝負は着いた。

 例によって、横倒しになった一ツ目の胸にみゃあが飛びついて、胸を引っ掻きまくってやがる。子猫の爪で魔石が掘り出せるわけないだろうに。


 「レイル、どうだ、変わったか?」


 剣についた血を払っているレイルに声を掛けると、笑って答えてきた。


 「ばっちりだね。

  多分、身体強化してるんだよ。力も弱くなってたし、斬れやすくなってたし。

  今度から、面倒な奴の時はこの手でいこう」


 「素早くなけりゃな」


 魔狼みたいに速い奴だと、すぐに魔素のあるところに逃げられちまうだろうが、オーガとか一ツ目こいつみたいな重量級なら十分いけそうだ。

 頭に状態保存の魔法を掛けて麻袋に詰めると、みゃあの方は魔石を舐めていた。

 おいおい、自分で掘り出しちまったのかよ!?


 「おいレイル、どうすんだよ、あれ」


 レイルに声を掛けると、魔石ごとみゃあを抱き上げた。


 「減るもんじゃなし、いいじゃんか。

  さ、魔素溜まりを探そうか」




 中腹にさしかかる頃には、みゃあも魔石を舐めるのをやめたので、魔石も麻袋に詰めてみゃあを下ろす。


 「んじゃ、魔素溜まり探し、頼んだぞ」

 「よろしくね、みゃあ」


 声を掛けたら、まるで言葉がわかってるみたいに駆けだした。


 「見付けたみたいだね。さすがみゃあ」


 レイルと一緒に追い掛けると、みゃあは洞窟の前にいた。


 「ここらしいな」


 俺達が来るのを待ってたみたいに、みゃあが洞窟に入っていく。

 奥には、やはり魔素溜まりがあった。


 「やっぱ魔素を吸収してんな」


 本当に、ここにも魔素を吸収する魔素溜まりがあった。


 「やっぱり北の森にまた行くことになりそうだね」


 「魔素溜まりから魔狼が出てきたってか? んなことあんのかねぇ」


 「人間吸い込んで魔物にするなんてことがあるんだから、あったっておかしくないんじゃない?」


 「んなこと言ったって、ありゃ魔法陣だろが。

  魔素溜まりとは違うだろ」


 「支部長は、魔法陣が魔素溜まりに変わるって考えてるっぽいけどね」


 そりゃまぁ、絶対にないとは言えねぇけどよ。


 「んなことあんのかねぇ…」


 とにかく、報告に戻るか。

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