11-4 なし崩し

 さっぱり意味がわからないが、セシリアが抱きついて離れない。


 「フォルスさん、抱いてください」


 妙なことまで口走りだした。

 なんでいきなり、こんな…そうか!

 一角馬は、媚薬みたいなものを出して女から魔力みたいなもんを吸い出す。そして、女は寝室に入って子作りするんだった!

 つまりあれか? 一角馬の側にいた女は、男に抱かれたくなった状態で残されるってことか!

 レイルの覗かない云々は、そういうことだったのか。

 あいつ、気付いてやがったな。

 そりゃ、あいつはセシリア嫌ってるし、俺に押しつけるよなぁ。

 どうすんだよ、これ。

 セシリアの奴、すっかりできあがってやがんぞ。


 「正気に戻れよ、おい!

  あんま挑発されっと、俺も抑えきれなくなる。おい、セシリア!」


 セシリアの両肩を掴んで揺さぶってみる。どうせこんなんで正気に戻るほど簡単じゃないんだろうが、やらないよりゃマシだろう。

 セシリアは、肩に置いた手を掴んで、俺を見上げてきた。


 「好きだったんです、フォルスさん。

  こうなることは覚悟してきたんです。どうか…」


 いつも冷静な目が濡れてて、妙に色っぽい。どこまで本気で言ってんのかわからないが、俺だって男だ、こんなん言われたら抑えが利かなくなっちまうだろうが。


 「後悔してもおせぇぞ」


 広げたマントの上にセシリアを寝かせ、服を脱がせる。

 まるでこのためだったかのように脱がしやすい造りで、セシリアはあっという間に裸になった。


 「フォルスさん…」


 ああ、もう、なるようになれだ。




 ことが終わると、セシリアは正気に戻った。

 恨み言の1つくらい言ってくるかと思ったが、手早く服を着て、「お待たせしました。レイルさんはどちらに?」なんて訊いてくる。

 顔が赤いとこ見ると、わざと触れないようにしてるんだろう。なら、俺もつつく必要はない。


 「レイルは森の外だ。歩けるか?」


 「一応は」


 歩けるとは言ったものの、セシリアの足下は覚束ない。

 レイルが言ってたとおり処女だったから、まだ痛むんだろう。仕方ない。


 「セシリア、おぶされ。少し急ぐ」


 この辺りには、脅威となるような動物や魔獣はいないはずだが、早いとこレイルと合流した方がいい。

 俺はセシリアをおぶって、レイルの方に急いだ。




 「やあ、思ってたより早かったね」


 合流すると、レイルは悪びれもせず言った。

 セシリアは、俺の背中で寝ちまってたから、とりあえず下ろして寝かせている。


 「ったく、ああなるってわかってたんなら、先に言えよ」


 「話聞いてたら、わかることじゃない。

  なに? ホントに気付かなかったの? それはちょっと鈍すぎるんじゃない?」


 「鈍くて悪かったな!」


 「言っとくけど、セシリアこいつは絶対最初からわかってたよ。

  こうなることを見越してついてきたんだから、同情とかいらないからね。支部長もわかっててこいつ連れてけって言ったんだから」


 セシリアもそんなこと言ってたな。ほんとかよ。


 「おい、気付いてたって…」


 「一角馬を誘き出すのに囮がいるって時点で、囮がその後どうなるかくらいわかりきってるんだよ。

  だから、あの新人使うのだったんだ。後が面倒なの目に見えてる。

  そいつは、前からフォルスに色目使ってたからね。こうなることを狙ってついてきたのさ」


 「だって、支部長の指示で来たんだろが」


 「いやだなあ。こいつが嫌だって断りゃすむ話じゃないさ。

  多少断りにくいだろうけど、貞操が掛かってるんだから、断れないってことはないよ」


 じゃあ、さっきセシリアが言ってたことは…。


 「ここぞとばかりに色々言いたかったことぶちまけたんじゃないの?」


 「見てたわけじゃないよな?」


 なんでそこまでわかるんだ。

 大当たりじゃないか。普段のセシリアとあんまり違うから、譫言うわごとの類だと思ってたんだが。


 「だからさ、見なくたって、こいつが言いそうなことくらいわかるんだって。

  フォルスは気付いてなかったみたいだけど、こいつが君を見る目は、他とは違ってたからね。

  僕はずっと言ってたはずだよ。君に色目使ってるって」


 確かに言ってたが。


 「え? なんだ、本当だったのか?」


 「君は、僕の言うことをなんだと思って聞いてたのさ」


 「いや、だって、あのセシリアだぞ?」


 「好きだの抱いてだの、散々言われたんだろ」


 ほんとに見てたみたいに言うな、こいつは。


 「一角馬に発情させられての言葉だからな。本気になんてできないって。

  埒明かないし、のったけどよ」


 「くっくっくっ…。

  それ、本人に言ってやんなよ。

  きっと楽しいことになるから」


 レイルがこんなに面白そうに笑ってるってことは、言ったら最後、かなり面倒なことになるんだろう。

 …セシリアが俺を、ねぇ。そんなタマじゃないと思うがなぁ。


 「今夜は、一角馬も満足したし大丈夫だろうけど、明日、もう一泊するようだと、またセシリアえさやんないと駄目かなあ」


 餌ってのは、セシリアのことか。…男の匂い、すんじゃねぇのか?


 それにしても、レイルの奴、セシリアを連れてくるってこういうことだったとは。

 セシリアのあれが本心からなら、セシリアにも損はない…のか? 本当のところはどうなんだ? あ~、女心なんてわかんねぇって。




 結局、なんとか翌日中に俺達は街に戻れた。

 例によって浴場には行ったが、なんか娼館に行く気にならない。

 いや、まぁ、昨日セシリア抱いたばっかだし、いいっちゃいいんだが。


 「で、フォルスは、またいつものとこ、行くの?」


 「いや、やめとく」


 言うと、レイルがにやぁ、と笑った。


 「へえ? セシリアあいつに義理立て?」


 ちっ。からかう気満々でやがる。


 「そうじゃねぇよ。昨日セシリア抱いちまったし、今日女抱くって感じじゃねぇだろ」


 「ふうん? まあ、いいや。僕はいつもどおり適当に遊んでくるからね」


 そりゃ、お前は何もしてないからな。


 「好きにしてくれ」


 「うん、好きにさせてもらうよ」


 いつになく、レイルの顔が楽しそうだ。しばらくからかわれそうだな。

 それにしても、これからセシリアと顔合わせんの、気まずいな。あいつの言ってたことが本当なら、どうにかしなきゃならないんだろうし、嬉しくないわけでもないんだが…、俺は宿屋住まいだし、結婚とかできるような状況じゃない。なにより、俺が家族を持つ? そんなことできんのか…?





次回予告

 思いがけずセシリアを抱いてしまったフォルス。

 セシリアに会うのが気まずいフォルスは、ギルドに顔を出せずにいた。

 久しぶりに会ったセシリアは、フォルスに意外な申し出をした。

 次回「ごつひょろ」12話「自主的休業中」

 一歩前進。

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