6-2 2人の出会い
1年ちょっと前、俺は別の街で、ソロで9級冒険者をやっていた。
当時、俺は体格から「え!? 魔法士!?」とか驚かれるのが嫌で、剣士として登録してたが。
まぁ、師匠に魔法の才能を見出されるまでは、剣士になろうと思って訓練してたわけだし、我流でしかないが、剣もそこそこ使える。この体も、元はと言えば剣士になるために鍛えたわけだしな。
ある日、8級昇級のための試験ということで、ギルドに呼び出された。
そこには、一緒に試験を受ける9級冒険者が他に4人集められていた。全員剣士だってことだったが、その中に、俺と同じ赤毛の小男がいた。とても剣士には見えない体格だ。
正直、俺も魔法士とは思えないような体格だが、ちっこい奴が剣士というのは、それ以上に違和感がある。
体力があって魔法士をするより、腕力ない奴が剣士をする方が難しそうだしな。
髪の色が似てることに親近感を覚えた俺は、ちょっと声を掛けてみた。
「よぉ、ご同輩。お前さんも昇級試験かい?」
小男は、気の強そうな目つきで睨み上げて
「見てわかんないの? ここに集められてんのは、昇級試験受ける剣士だって聞いてるはずだろ」
と噛みついてきた。気の強いチビだ。
どうやらこいつは、小柄で剣士ってことでかなりからかわれてるな。
まぁ、冒険者なんて、向こうっ気が強くなけりゃやってられないからな。これ以上
試験官に連れられて、街の近くにある洞窟に来た俺達は、5人だけで中に入るよう言われた。
試験内容は、この洞窟の奥にいる洞窟コウモリ5匹を殺して持ち帰ること。
ソロの剣士にとって、空を飛べる敵を自力で倒すのは結構骨だからな。試験としちゃ妥当っぽい。
制限時間は1日、5人それぞれ単独で挑むもよし、複数で組むもよし、ただし他者への妨害は禁止、と言われて俺達は洞窟に入った。
戦いぶりは評価の対象外ということで、試験官は洞窟の外で待っている。
試験官が一緒に来ないなんて手抜きっぽいと思ったが、よく考えてみりゃ暗い洞窟ん中で5人がバラバラで動くわけだから、見てるなんて無理ってことらしい。
イマイチ釈然としないが、まぁわからなくもないってとこか。
俺としちゃ、魔法を使えば相手が飛んでようが知ったこっちゃないからな。1人で十分だ。魔法使うとこ見られると面倒だから、さっさと先に行っちまおう。
と思ってたんだが、俺とチビ以外の3人はさっさと走って行っちまった。おうおう、血の気の多いこって。
「よぉ、お前さんは走ってかねぇのか?」
チビに声を掛けてみると、
「別に。急ぐといいことあんの?」
と素っ気ない返事が返ってきた。
自信がないわけじゃなさそうだから、余裕ってことかね。ま、ちっこいってことはすばしっこいってことだろうからな。
連れだってってこともないがそのまま並んで歩いていると、奥の方から魔力の気配がした。
魔法士はいなかったはずだ。
目に力を込めると、奥の方で風の魔力が吹き荒れている。
「おい…」
チビの方を見ると、全身がうっすらと光っていた。そうか、身体強化か!
「お前さん、魔法士だったのか!?」
「奥になんかいる。逃げた方がいいよ」
俺の質問には答えず、チビは俺に逃げるように言ってきた。やはり、奥で何か起きてることにきづいてるんだろう。
「お前さんは?」
「ああ、もう遅い」
チビが言い終わるか終わらないうちに、奥から大きな火の玉が飛んできた。
慌てて通路の端に伏せると、飛んできた火の玉は洞窟の天井に当たって爆発した。こんなとこで爆裂系かよ!
パラパラと飛んで来る破片もなくなった頃顔を上げると、通路反対側の端にチビがいた。
「無事みたいだな。どういうこった、これは?」
答えはあまり期待していなかったが、チビは立ち上がると剣を抜いた。また
「逃げ道ふさがれた、か」
口ぶりからすると、敵が誰かわかってるらしい。
「なんか知らねぇが、とりあえずここ出るまで手ぇ組まないか?」
「…足、引っ張んないでよ」
一応、了承されたらしい。
とりあえず、敵が何者なのか調べるため、魔素を探る。奥に5つ…人間だとしたら5人、反応があった。先に走ってった3人は、さっきの風で殺されたかな。
「人らしいのが5人いる。何人が敵だ?」
「全部」
「わかった。俺、後衛でいいか?」
「僕を撃つなよ」
「わかってる」
5人の姿が見えた。
剣士4,魔法士1か。まずは魔法士を無力化だな。魔素をこっちに引き寄せて、魔法士の周りからなくす。魔法を使えず慌てた隙に、氷の矢を5本、魔法士に集中させて倒す。魔法士の攻撃は怖いからな。
剣士達は、チビのところに3人、残りの1人が俺んとこに向かってきた。
「なんで魔法士がいるんだ!!」
そりゃ、こうやって不意を突けるからだよ。そいつの進む足下に穴を作り、バランスを崩したところに風の刃で首筋を狙うと、うまい具合に3分の1くらいスッパリ切れた。これだけ血が出りゃ、こいつは終わりだな。
チビの方はと見ると、1人倒したところだった。
やっぱ身体強化か。いや、それにしたって鎧着た相手を細剣で真っ二つってなんだ?
よく見ると、剣が魔力で輝いてるみたいだ。強力な付与系の魔力か。珍しいもん使う奴だ。
感心してる間に、チビの切り結んでない方に、氷の矢を飛ばして牽制する。
しっかし、すごい身体強化だな。見てると、チビの体に魔素がぐんぐん吸われてく。
周囲の魔素が残り僅かだ。出口を塞いで密閉したからだな。魔法で使った分が魔素に戻るまで、少し時間が掛かる。チビの周りに魔素を集中させてやろう。
チビの剣が、2人目を斬り裂いた。だが、もう魔素も使い切ったぞ。俺も魔法を使えない。こんなことなら、魔法をもっと効率的に使っとくんだった。
チビの体の輝きが薄くなり、押され始めた。
しゃあない、魔法が使えないなら…。
俺の全力の一閃はあっさり剣で受け止められて、俺の剣は折れちまった。
ちくしょう。
その時、光を取り戻したチビの剣が最後の1人を斬り裂いた。
男が倒れ込むと同時に、チビも座り込む。
なんとか生き延びたらしい。
チビの方を見ると、髪が銀色になっていた。
「おい、お前…」
よく見ると、目は金色だわ、耳の先は尖ってるわで、まるで別人だ。顔そのものは変わってないのに、まるで印象が違う。
「お前、人間じゃないのか?」
「人間だよ。少なくとも半分は。
どうして僕を助けた?」
「あいつらが何者か知らないが、俺を殺そうとしてたのは間違いないだろ? それに、とりあえずお前は今、俺の相棒だろ。相棒を助けるのは当然だ。俺が助かるためでもある」
「バッカじゃないの? 今日初めて会った僕がどうして相棒なのさ」
「俺は孤児で、家族を知らないんでね。
信用できる仲間ってのがどんなに大事か知ってるんだ。
お前は俺を逃がそうとした。信用できる相棒だろ」
「…バッカじゃないの」
話してるうちに、チビが元の赤髪に戻っていく。耳も普通になった。ああ、魔素が戻り始めたのか。
「それ、幻覚魔法か?」
「…触ってみたら?」
「いいのか?」
「じゃあ、触るな」
「わかったわかった。触るぞ」
耳を触ってみても、何の変哲もない耳だ。
「どうなってんだ?」
「変化の魔法さ。形が実際に変わるから、バレる心配はないよ」
「お前の体が魔力を帯びてたのは、それが理由か」
「やっぱり魔力が見えるんだね。
体が魔力を帯びてるのは身体強化のせいさ。君みたいなのに見られても変化を悟られないようにね」
「最後の一撃ん時、変化で使ってる分の魔力をつぎ込んだってわけか。
で、俺をどうする? 孫ができるまでは死なない予定なんだが」
「バッカじゃないの? それじゃ永遠に死ねないじゃないか。
ま、君は色々と手助けしてくれたし、魔素使いも上手いからね。僕の秘密を守って、今後も僕の手助けをしてくれると助かるかな」
「剣士を狙ってってことのようだが、心当たりは?」
「ないけど、剣士ならだまし討ちされる手口だよね。
洞窟に閉じ込めて襲撃。さっきの連中は捨て駒か、それとも君が殺した魔法士が道を作って出るつもりだったか」
「んじゃ、魔素も戻り始めたし、穴開けて出るか」
「任せるよ。さっき塞がれたとこに穴開けてくれる? あ、その前に金だけは貰っていこう」
レイルと手分けして、刺客と、奥で殺されてた9級冒険者達の懐から、金を抜き出してから、道を塞いでいた岩を魔法でどかして脱出した。
外に、試験官はいなかった。
「人を呼びに行ったか、あるいは…」
「あいつもグルだったか。
とりあえず、ここはもう一度塞いで。
僕らが無事だとわかると、また襲ってくるかも」
「ああ」
「さて、と。試験官が敵だったにしろ違ったにしろ、僕らは死んだことになってるだろうね。
今回の5人の預金は、全部ギルドのものになる。それが狙いって感じかな?
僕は、よその街に行って新しく冒険者登録するけど、君も来ないか?」
「金奪ってきたのはそのためか。
試験官も敵だった場合、あの街に戻れば狙われるんだろ。
俺もお前さんと行くさ。一緒に生死をくぐり抜けた相棒だからな」
「そう。僕はレイル。レイル・ラン。
レイルとだけ呼んで」
「わかった。俺はフォルスだ。
よろしくな、レイル」
これが、レイルとの出会いだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます