5-4 夜襲

 街に帰る途中で野営し、いつものように結界を張って寝ていたら、反応があって起こされた。

 単なる野生動物の可能性もあるから、とりあえずはレイルを起こさないように静かに起きて、結界の反応を細かく見てみた。

 数は2、この大きさと動きは…人間か?

 武器の類は構えてないようだ。

 こんな夜更けに移動するなんて、普通じゃない。

 街からも離れてるから、夜の狩りが趣味ってこともないだろう。

 野盗の類か?

 商人の護衛中とかってんでもない限り、冒険者を襲ってもメリットは少ない。

 大金持って歩いてる冒険者なんざ、滅多にいるもんじゃないから、当たり前だ。

 大抵の冒険者は、多少の手持ち現金のほかはギルドに預けてるし、預かり証は本人以外には引き出せない決まりだ。

 予め本人が、何かあった時には家族に、ってな登録でもしておかない限り、本人の死=預かり金の没収だ。

 受取人に冒険者やギルド職員を指定することはできないようになっている。

 つまり、冒険者を狙うのは、野盗より他の冒険者であることが多いんだ。

 目的は、恨みか、恨みを持った誰かに個人的に依頼されたか、ギルドから抹殺指令が出たか、依頼の関係で持っている何かを奪うためってとこだ。

 例えば、この前の魔狼の魔石でも持っていれば、横取り目的で襲われることは十分ある。

 そう考えると、今俺達が狙われる理由はちょっと思いつかないんだが。

 まぁ、思いつかないからって、理由がないとは限らないか。

 レイルに彼女を寝取られた男が逆恨みして、とか、レイルに弄ばれた女が恨んで、とかなら、あってもおかしくない。

 それだと、あながち無体ってこともないかもしれないが、かといって殺されてやる気もない。

 どんな理由であれ、俺達の敵だってんなら死んでもらうだけだ。




 この闇の中、足運びに躊躇いがない。

 暗視の魔法を使ってるな。てことは、少なくとも片方は魔法士か。

 暗視の魔法を掛けっ放しで一晩中歩くなんてマネができるのは、レイルくらいのもんだ。普通ならすぐにダウンする。

 先を急ぐあまり夜っぴいて歩くせっかちな冒険者ってことはないな。

 …踏み込んだ、な。誰であれ、こいつは敵だ。

 んじゃ、先制攻撃だ。

 手早く魔力を練り、2人の侵入者の進む先に沼地を作る。…片方が足を取られて倒れた。すかさず沼地を土に戻す。転んだ奴は、半分土に埋まってるはずだ。

 ちょっと頭の回る奴なら、魔法士の遠隔攻撃だと気付いて引き返すだろう。

 敵でなく、なんらかの理由でここを通ってるだけの奴なら、何者かが潜んでると知れば道を変える。

 それでも進んでくるなら、明確に俺達に敵意を持ってる奴ってことだ。次は、確実に殺せる攻撃を仕掛ける。

 …2人は、離れていった。

 何者だったにしろ、今、俺達と戦う意思はないようだ。よかった。

 俺は、結界はそのままに、また眠りに就いた。




 朝、レイルに起こされた。


 「お疲れ。どんな奴だった?」


 やっぱ気が付いてたのか。


 「どんなのかは知らんが、2人組だ。

  足を掛けたら逃げてった」


 「ふうん。ま、消えたんならいいや。

  また来そう?」


 「俺の方が訊きたいくらいだ」


 「頼りにならない相棒だなあ」


 「悪かったな、頼りにならなくて」




 街に帰ったら、いつものとおりセシリアのところに顔を出す。


 「牙猪の一家がいた。つがいっぽいのと仔が7頭だ。全部潰してきた。これ、首な。

  肉もあるぞ。魔石も」


 「お疲れ様でした。

  それで、原因はわかりそうですか?」


 「原因かどうかはわからんが、魔素溜まりを見付けた。場所は、一応この図面に描いておいた。

  詳しい調査は任せていいな?

  俺達にできるのは、ここまでだ」


 「魔素溜まりですか…。

  わかりました、支部長にお伝えしておきます。

  お疲れ様でした。

  ごゆっくりお休みください」




 夕べの2人組が少し気になったんで、浴場で湯に浸かりながら、レイルに釘を刺しておいた。


 「俺達に恨みのある奴なんて、この街じゃ思い当たらないんだがな、一応、1人の時は気をつけとけよ。

  どうせ、この後、外で引っ掛けるんだろ?」


 「大丈夫、いつでも対応できるよ。知ってるだろ。

  フォルスこそ、買収されたお姉さんに刺されないようにね」


 娼婦を買収してまで闇討ちするなんざ、相当な恨みだぞ、おい。

 まぁ、あっちの奴らが来てるなら、あってもおかしくない…のか?


 「気ぃ付けとくよ」





次回予告

 今度の依頼は、洞窟で見付かった不思議な円板の調査。

 だが、レイルは気が乗らない。

 洞窟は、レイルの弱点だった。

 次回「ごつひょろ」6話「洞窟の円板」

 話は、2人の出会いに遡る。

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