4-2 10級の3人
翌朝、指定された時間に1人でギルドに出向くと、セシリアから今回相手をする新人3人を紹介された。
「こちら、今回の試験官のフォルスさんです」
「フォルスだ。まぁ、見慣れない大男がいるとやりにくいかもしれんが、そういうのの対処も含めて試験だから、諦めてくれ」
「よろしくお願いします」
新人3人は、揃って頭を下げた。なるほど、あまりスレてないんだな。しかし、男1人に女2人か。女が混じってるとは思わなかった。
レイルに釘刺しとかないとな。
3人とも、今日は街の外に出るわけじゃないから普通の服を着ていて、役割分担がわからない。
と思っていたら、自己紹介してくれた。
「僕はイリス、剣士です。一応、パーティーのリーダーをやってます」
「サンドラ、剣士です」
「私はミュージィ、弓士ですが短剣も使えます」
イリスはくすんだ金髪に青い目、すらりとしているがそれなりに鍛えていそうだ。
サンドラは赤い短髪に赤い目、女にしてはかなり鍛えている感じ、ミュージィは青灰色で肩までの髪と灰色の目、細っこい。
剣士2人に弓士が1人か。前衛2、後衛1、魔法士がいないパーティーとしちゃ、悪くない組み合わせだ。
「おう、よろしく頼む。俺んとこは、もう1人レイルってのと2人組だ。レイルは街を出る時に顔を出すから、紹介はそん時にな。
んじゃ、早速試験内容を確認してくれ。
俺達に何か聞きたいことがあれば聞いてくれていいが、試験に関することだと報告せにゃならんから、そのつもりでな」
「はい」
3人に、セシリアから、試験内容が依頼という形で伝えられた。
「皆さんには、ミツバ草30株の採取をお願いします。採取場所はどこでも構いませんから、できるだけ良い状態で持ってきてください。期限は今日から6日間です」
内容を告げたセシリアが立ち去ると、3人は相談を始めた。
軽く耳をそばだてていると
「ミツバ草ってなんだ?」
「聞いたことない」
なんて声が聞こえてくる。
しばらくすると、ミュージィが受付に行って資料室の使用許可を願い出ていた。
ほうほう、まぁ、知らないから調べるってのは、基本だが、意外とそうしない奴は多いから、いい対応だな。
俺の顔色を窺いながら動かれるとまずいので、俺は少し離れて連中の動きだけを見てる。
資料室に入ると、3人は手分けして調べ始めた。普段からやり慣れてる雰囲気が見える。
イリスは1人で資料を漁り、サンドラとミュージィは2人で組んで動いてる。サンドラが机まで資料を運び、ミュージィが読むって分担になってるらしい。この辺も慣れを感じる。
しばらくすると、ミュージィとイリスが何か話し合った後、俺のところに来た。
「調べ終わったので、明日出発したいんですが」
「おう、わかった。ああ、行き先は聞かないから、往復何日かかる予定かだけ教えてくれ。俺達の分の食事も寝床も気にしなくていい。君達だけで動くつもりでやってくれ。
その代わり、不寝番もやらないから」
「はい。えっと、往復で3日の予定です。
開門に合わせて出ようかと…」
「わかった。開門前に門に行く。
じゃあ、また明日な」
宿に戻った俺は、飯を食いながらレイルと打ち合わせをした。
「剣士2、弓士1の3人パーティー。剣士の男と、女2人だ。たぶん15、6だろう。同じ村の出身で、一緒に出てきて冒険者になったらしい。
依頼を聞いて、まず資料を探しに行くあたり、前途有望かな。組みあわせも悪くない。魔法士はいないが、下手に誰か入れてもバランス崩すかもしれないからな」
「ふうん。で、その女の子2人って、お手つきっぽい?」
最初に訊くのがそれか…。
「俺の見たとろ、それはなさそうだ。
ミュージィが…あー、弓士の子が男に惚れてるかもしれないが、もう1人の方は、そういう感じじゃないな。
女の子2人が姉妹みたいな関係なんだろう。
幼なじみって言ってたから、本当の姉妹じゃないが。
…おい。手ぇ出すなよ。一応、試験官ってことで俺達が預かることになるんだからな」
一応釘を刺すと、レイルはさも心外という顔で俺を見てきた。おい、なんで呆れたような顔してんだ。当然の心配だろうが。
「あのさ、フォルス。
なんで僕が15、6の小娘に手を出すと思ってるのさ。
僕には選ぶ権利があるんだよ?」
おかしい。なんで俺が変なことを言ったみたいな流れになるんだ?
まぁいい、手を出す気がないってんなら、好都合だ。
「手を出さないなら、いい。
あと、そういう意味以外でも、よほど危なくならない限り手も口も出すなよ。まぁ、お前なら、言わなくても大丈夫だろうが」
「当然だね。
新人のお守りは君の仕事だよ。
僕は、みゃあとの旅を楽しませてもらうから」
おいおい、丸投げかよ。
って、おい!
「あの猫、連れてくつもりか!?」
「今更何言ってんの?
みゃあは連れて歩くって、最初に言ったじゃない」
「新人連れてくのに、猫連れか? 試験官の威厳ってもんがあるだろが!」
「君のその体だけで、十分威厳あるから大丈夫。
僕に威厳なんて、あるわけないじゃんか。
さすがに死なせるわけにはいかないけど、ギリギリまでは助けなくていいんだろ。ちゃんとやるよ」
なんだか不安だが、大人しくしていてくれるなら、それでもいいか。
「頼むぞ、おい」
翌朝、門に行くと、イリス達はもう来ていた。
「おはようございます、フォルスさん。
よろしくお願いします」
「ああ、よろしくな。
こいつが、相棒のレイルだ。
レイル、剣士のサンドラ、イリス、弓士のミュージィだ」
「僕らのことは気にしないで、自分達だけだと思って動いて」
「そうだな。俺達はあくまで君達の行動記録のためについていくだけだ。よほど危なければ手助けするが、そんなことになるようなら、評価は恐らくとんでもないことになるからな」
レイルがあまりにも素っ気ないから、フォローを入れるハメになった。
移動は、イリス達3人が歩く少し後ろを俺達がついていく形になるから、当然というか、それぞれの間に会話はない。
出発前に聞いたが、目的地は、以前俺達が同様の試験を受けた時と同じだった。つまり、目的地選択については合格ということだ。
昼の休憩と食事、野営場所の選択と食事、不寝番の割り当て、いずれも基本に乗っ取った堅実なもので、文句のつけようがない。
いちいち俺達に気を遣って「一緒に…」と誘ってくるのはどうかと思うが、それも親切心からだろう。裏は感じない。
さて、問題は、俺達が不寝番を立てたことにするかどうかだ。
イリス達がいる以上、いつものように結界を張って、でもいいが、説明するのはよくない。緊張感を失わせかねない。かといって、10級の3人に不寝番を任せて寝ていたと思われるのも癪だ。
「あのさフォルス、僕らはあいつらの目につかないところで寝ればいいんじゃない?
僕らが対応できる最小限の結界を張っておけば、僕らは大丈夫だし、あいつらが血迷っても返り討ちにできるしさ」
「血迷ってって、まったくお前は…。試験官に牙剥くやつがどこにいるよ」
「わからないよ。僕らに恨みを持ってる奴から頼まれてるかもしれないし」
「恨みね…。ま、少なくともあいつらは違うな」
「どうでもいいよ。僕は寝るから、結界張っといてよね」
言うなり、レイルはさっさと寝てしまった。
確かに、なんだかんだ言っても、やることは変わらない。俺は、結界を張った。
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