日本にダンジョンができたと思ったら俺のじいちゃんは異世界人でした

若葉 冬雪

第1話 世界の始まり

この春、高校生になる予定の上杉 真一は、新潟県に住んでいる黒目黒髪のどこにでもいるような少年である。両親は交通事故ですでに他界し、現在は真一と祖父の二人で生活している。そんな一見普通の彼には、一つだけ普通ではないことがあった。


 それは、幼い頃から実践的な槍術や体術といった武芸を学んでいることである。祖父であり、師匠でもある上杉 景正の指導を受けていた。

 そんなある日こと、彼は日々鍛錬に励んでいた。


「今日は、一段と冷えるのぉ。3月中旬になったとはいえ、この寒さだと地面が凍ってるだろうから気をつけて行ってきなさい。」


「うん、わかった。じゃあ、行ってきます。」


 いつものようにじいちゃんからの注意を半分聞き流しながら、真一は家を出た。普段となにも変わらない日常をただ過ごしていた。

 今日も早朝から、彼はいつもと同じように家の近所をランニングしていた。


 「ふぁ〜。」


 眠い。いつもの日課であるが、眠くないわけではない。昨日は、気になるアニメを見ていて寝るのが遅くなってしまった。


 ここまでくるとサボりたいが、サボるとなぜか、じいちゃんにバレてしまう。

 GPSでも盗聴器でもない。過去に疑ってわざわざ新品の服で試したが、すぐにバレた。

 だから俺は今、こうして真面目にランニングしている。


 道端には、まだところどころ雪が積もっており、春の訪れが待ち遠しく感じられる。次第に太陽が照り出し、暖かくなるにつれて雪が溶け出し地面が濡れて水溜りができていった。


 遠くに見える山は、まだまだ白く雪に覆われて冬化粧が残っていた。その日は、何かの前触れかのように珍しく雲一つない快晴であった。


 「ほぉー。」


 吐く息が白い。

 春はすぐにくるといってもまだまだ寒かった。


 辺りには、水音と彼が吐く息や走ることでできた布ズレの音が静かに響き渡る自然豊かな道だ。

 今走っている道は、彼のお気に入りのランニングコースだ。 


「ここは、本当に静かで落ち着く道だな。」


 そんなことをぼんやり考えながら、ひたすらに足を動かしていた。


 しかし、そんな彼に突如として身体中に悪寒のようなものがはしった。決して寒さからくる物ではない。

 すると同時に、大きな地震に襲われた。それは、立っているのがやっとな程の大きな揺れであった。


 ズドドドーン‼︎という大きな音が鳴り響き、平地では地割れや建物の倒壊、山では土砂崩れに海辺では津波が起きていた。揺れは長く5分も続き、地震がよく起きる国である日本に住む真一であっても異常であることがよく分かる程であった。


 このとき、世界中で同じように地震や火山の噴火といった様々な大災害が起きていた。しかし、このことを知る人はまだいない。


 ようやく揺れが収まった。

 静かであったはずの田舎道は、鳥や猫といった動物たちの騒めく声が大きく響き渡る空間へと変わった。


「やけに大きな地震だったな。震源は近くか?」


「じいちゃん、大丈夫かな。早く、家に帰らないと。」


 揺れが収まると真一は、冷静に動き始めた。


 来た道を走って戻る。走っていると、家までの帰り道の途中にある石橋に差し掛かった。するとそこには、腰に布を巻き付けた緑の小人がいた。


 真一はその姿に見覚えがあった。そうその姿は、ゲームやアニメで言うところのゴブリンのようなモンスターであった。


 なんでここにゴブリンがいるんだ⁉︎


 真一の思考が停止しそうになるが、何とか耐えたたえた。ところがこの行動も無駄に終わる。そのモンスターの手には、小さなナイフが握られているのを見たことで。


「嘘だろ‼︎」


 恐怖からか思わず声が出てしまった。あまりに非現実的な状況に理解が追いつかなかった。


 しかし、そんな彼にお構いなしにゴブリンはゆっくり振り向くとニッコリと笑った。


『ミ・ツ・ケ・タ・』


 そう言わんばかりに走って彼に襲いかかってきた。


 あまりの恐怖に鳥肌が止まらなかった。

 そんな俺にゴブリンは考える間も与えず、ナイフを振り下ろした。ナイフが触れる寸前のところでかわすことができた。修行のお陰か、反射的に振り下ろされたゴブリンのナイフをかわしていたのだった。

 真一は、この時程、じいちゃんと修行していてよかったと思ったことはなかっただろう。


 そして、相手をよく見ながら深く深呼吸すると、気持ちを切り替えた。


「考えるのは後だ。まず、相手の武器を奪う。」


 こういう時は、逃げるのが最善であるだろうが周りは自然ばかりで逃げれる場所がなかった。ましてや、俺は走って来たばかりであり、少し息が少し上がっている。その上、路面が一部であるが凍って滑りやすくなっている。逃げきれるとは思えなかった。


 ゴブリンと戦うことを決めた俺は、腰を落とし素早く動けるように準備した。そして、相手の隙を探すために攻撃をかわすことに専念した。


 ゴブリンは単調にナイフを振り回して攻撃してきたが、冷静に回避していった。回避していくうちにだんだん相手の動きに慣れてきた。


 そのとき、真一に好機が訪れた。ゴブリンが足を滑らせて転んだのだ。さらに真一の幸運は続いた。ゴブリンは転んだ拍子に頭をぶつけてナイフを手から落としていたのだった。


「今だ‼︎」


 真一は、急いでナイフを拾うとゴブリンの首を素早く的確に切った。ゴブリンの首から青い血が飛び散った。真一の手に持つナイフからも青い血が滴り落ちていた。


 ゴブリンは転んだまま手足を大きく動かし暴れたが、やがて動かなくなった。最後には白い光を放って消えた。

 ゴブリンが消えた後を見ると真っ赤な丸い石があった。

 あれは夢だったのではないか。そう思う程に跡形もなく消えたのだった。


「はぁ、はぁ、、、、、」


「うっ、、、 うぇ。」



 危機が回避できたことで安心したのか、自分が人型のモンスターを殺したことに気付き、吐き気を催した。じいちゃんの修行で鶏を絞めたことのある真一であったが人型のものを殺したことに少なくない動揺を感じていた。


 しばらく呆然と立ち尽くして呼吸を整えていると何処からか不思議な声が聞こえてきた。


--------------


 個体名 上杉 真一 がレベルアップしました。

 これにより、ステータスを獲得しました。

 管理者セカイよりスキル「適応」が与えられます。

 管理者セカイより称号 先駆者が与えられます。

 また、先駆者 ボーナスとしてこれまでの経験から各種

 スキルが与えられます。


--------------


 驚いて動けないでいる真一の目の前ホログラムのようなものが出現した。

 おそらく、これが先程の声が言うステータスだろう。


--------------


個体名  上杉 真一

種族   人

年齢   15歳

性別   男

職業   学生

レベル  1

状態   正常

HP   100/100

MP    40/40


スキル  適応

     槍術

     体術

     馬術


称号   先駆者


--------------


 最初に気になるところは、職業が学生になっていることだ。まぁ、これは後でゆっくりと考えよう。


 次にステータスを見ると、おそらくHPが生死に、MPが魔法に、SPがスタミナに関係するのであらうことが想像できる。


 スキルは「適応」は管理者セカイから貰ったもので、それ以外は先程の声が言っていた先駆者ボーナスの経験から得られたスキルだと思われる。だが、槍術や体術は良いにしても馬術までスキルにする必要があるのだろうか?


 俺は、過去にじいちゃんに修行と称して馬術を習わされたことがあった。まさかこんなところで目にすることになるとは思わなかった。


 スキルの効果を確認するために「適応」を使用しようと試したが何も変化がなかった。どうやら、使用して発動するものではないらしい。


 そして、最後に目に付くのは称号の先駆者だ。さてさて、一体どんな意味があるのか非常に気になるところだ。









---------------------



 この日を境に、人類は世界が一変するような大事件に巻き込まれることとなった。後に人々は皆、その日のことを「世界の始まり」と呼んだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る