茶月大和は少女漫画のような恋がしたい!

栗原カラト

バレンタイン編


☆☆☆


2月14日。俺にとってこの日は、チョコなどの贈り物を自分の様々な想い―例えば日頃の感謝や自分の好意や愛を伝えるなど―を贈る日だ。告白に関しては相手と気持ちを通い合わせて成功したり、うまくいかず儚くその想いを散らしたりなど様々なドラマが繰り広げられるだろう。

いつかは俺も…と昔からそんな夢を見ている俺は、もちろんこの日を楽しみにしていた。しかし2月14日の朝、俺は部室の着替え途中に重く大きなため息をつくのだった。


「あ~モテたい…」

「はあ?」


ため息と共に漏れ出た言葉は、隣で同様に練習着から制服に着替えていた親友、楠実直樹の耳に届いたらしい。楠実は、俺の言葉に顔を顰めると、最後のネクタイを締め終え、未だ残っている先輩たちに「お疲れ様でした」と言い、さっさと部室から出る。俺はそんな楠実の様子に慌てて「お疲れ様でした!」と言いながら続いて部室を出る。

部室を出ると、少し先に楠実がいたので小走りで追いつくと俺は少し声を荒げる。


「置いてくなよ!なあ今の俺の言葉聞こえたんだよな?だったら話聞いてくれよ~」

「確かにおまえの悲壮感あふれる呟きは聞こえたけど、聞く意味なくないか?」

「どういうことだよ。俺の切実な悩みだぞ?」

「ハァ…で?おまえなんでまた急に」


「昇降口につくまでなら聞いてやる」と、やっと聞く気になってくれた楠実に俺の悩みを口に出す。幸い部室から本校舎までは長い。たっぷりと話す時間はある。


「俺はさ、モテたい訳よ」

「ほう」

「だってさ、高校生だぜ?高校生と言えばまさに青春!勉強に部活、行事…。ほら楠実、後は何だと思う?」

「…恋人とか?」

「正解!」


俺はそこから自分の理想を口にする。自分の幼い頃からの夢を。


「恋人ができれば、一緒に勉強会をしたり、部活に応援に来てくれたり、一緒に行事を楽しんだりさ!他にもデートしたり、手をつないだり…キスしたり。そうやって甘酸っぱい青春を過ごすのが俺の夢なんだ」

「へ~で?気になる子でもいるの?」

「うっ…それは残念ながらいない。そもそもなぜモテたいというかというとこれが原因ともいえるんだ」


俺はテンションが先程と比べて急激に落ちていくのを感じながら話していく。


「そもそも女子があまり話しかけてこないんだよなぁ~。俺、怖い感じとかあるか?」

「いや、別に」

「だよな。しかも俺自分で言うのもアレだが結構優良物件だとおもうだが。部活も二軍ではあるが来年には恐らくベンチ入り、成績も順位は毎回1桁台だし行事も常に中心的役割を果たしているし、容姿だって父母に似た整った顔!…ほら、何がいけない?!」

「自己肯定感高すぎ。そういう少し性格が残念な所じゃないか?」


「ま、おまえが高スペックなのは事実だけど」楠実が言うと、ちょうど昇降口に着く。

もう少し話を聞いて欲しいのに…!そう俺は思うが、昇降口までとの約束だったし、なにより流石に声が響き渡るような構造の廊下や昇降口ではモテたいという俺の相談事は他の人にも聞かれてしまいそうでとても続けられない。

せめて教室で続きを聞いてもらうか…と思いながら楠実とは同じクラスの為、そのまま一緒に同じように靴箱に向かうと、楠実はチラリとこちらを見て呟く。


「まぁ、後理由をあげるとしたら…」

「や〜ま〜と〜!」

「グハッ!」


楠実の言葉の途中、ドダダダダ…とどんどんと近づく足音は俺の目の前…いや、俺の胸の中で収まった。そう、勢いよく抱きついてきたのだった。

思わず倒れそうになるが、飛び込んできた者の体重が軽かった為衝撃が少なかったことと持ち前の体幹と背筋によりそれは阻止する事はできた。

そして、自分の胸辺りに視線を寄越すとそこには満面の笑みを浮かべる女がいるのだった。


「おっはよ〜!大和♪後、楠実くんもおはよう!」

「おはよう相浦さん」

「おはよう万梨花…。お前から言っているが、せめて抱きつくのは公共の場以外でしてくれ…てか、お前、朝練はどうした?」


俺の問いかけに一瞬キョトンと元々大きな目を更に大きくしてみる女、俺の幼なじみである相浦万梨花は俺に抱きついたまま顔だけこちらに向け、ニコニコと効果音が着きそうな笑顔で答えた。


「朝練ね、今日は早く終わったんだよ!だから、朝1番に大和に逢いに来たんだ〜」

「あぁ、そう。ありがとう…って楠実?!おい、置いてくなよ!」


万梨花と会話をしていると楠実はいつの間にか靴を履き替え、教室へと向かっていた。

俺が声をあげるとヒラリと手を振るだけで待ってくれる気はないらしい。

しかし、追いかけようにも目の前にはいまだに抱きついたままの万梨花。追いかけられないし、普段から万梨花から抱き着かれていしかも一男子高生として、女子に抱きつかれているこの状況は周りに見られると少し恥ずかしい。…まぁ、幸い今は誰もいないが。


「あ〜、万梨花?楠実行っちまったし離れてくれない?後、普通に靴履き替えたい」

「はーい」


言えばしっかり言うこと聞いてくれる万梨花はパッと手を離す。それにホッとすると俺は自分の上履きを出すために靴箱の扉を開けた。すると…


「…おっ!?見ろ万梨花。俺の靴箱に何かある!…恥ずかしがり屋な女子からの贈り物か…!」

「…わぁ、良かったね!大和、ずっと憧れてたもんね♪そういうシチュ」

「あぁ!…誰から当てだ?」


上履きの手前にはピンクのリボンがかけられたラッピングされた箱。俺はそれを取り出すと少し顔がニヤけるのを万梨花の手前、我慢しながらその箱を見つめた。

まるで既製品のようだが、少し歪なラッピングにこれは手作りなのかと推測する。頑張ってやった感があってとても可愛らしい。しかし、箱の表も裏も眺めるがそこには宛名が一切書かれていない。

お返しはどうすればいいんだと思っていると靴箱に何やら紙が置いてあるのに気づいた。どうやら箱の下敷きにされていたらしい。

もしかして、このチョコの持ち主からか?と紙を取り出し読んでみると…『大和へ♡万梨花より』と書かれていた。


「…ってお前からかよ!ありがとな!てか、どうしてわざわざ靴箱に?」


バレンタインになると毎回律儀にチョコをくれるが、例年は普通にチョコを渡してくれていた。なぜ今年はこんなわざわざ靴箱に…?そう疑問を持ちながら万梨花のほうを向くと、万梨花はいたずらが成功した時の子供のような笑みを浮かべた。


「…さぁね♪あ、もうHR始まっちゃう、じゃーね、大和!」

「え、あ、おう…」


俺の疑問は残念ながら解決されないず、俺はHRが始まるチャイムが鳴るまでポカンとしてしまっていたのだった。


☆☆☆


「いや〜、やはり来たな俺のモテ期!」


時は少し経ち、2月14日の昼休み。俺は中庭へと来ていた。

何故中庭にいるのかというと、それはHR後の休み時間に遡る…


☆☆


「あ〜先生遅くて良かった…間に合った…」

「遅かったな。何?相浦さんとイチャイチャでもしてたの?」

「は?万梨花と?ないない。…ん?なんか机の中に入ってる」


楠実と会話しながらこれから使う教科書をいれようとすると机の中からカサリと何か紙が擦れるような音がした。


「珍しいな。置き勉?」

「いや、置き勉はいつもしないけど…」


机の中に手を突っ込むとそこには紙が1枚。それを見た瞬間、俺は自分の顔が輝くのがわかった。


「これは…!!見ろ楠実!」

「どうしたの」

「どうしたじゃない!…これはきっとラブレター!いや、もしかしたらバレンタインチョコの為の呼び出し?!」

「おー、良かったな」


塩対応である楠実は置いといて俺の頭の中は今自分の手元にある紙…いや、手紙でいっぱいだった。

この子はどんな思いで俺に手紙を書いてくれたんだろう…!ちゃんと答えねば…!

そんな気持ちでいっぱいであった俺はじっ…とこちらを見ている楠実に気づかないのであった。


☆☆


「…てか、ここで大丈夫だよな?ちょっと不安になってきた」


ちょっと朝の出来事を回想していたら昼休みが始まってから10分経ち、少し不安を覚えてしまう。手紙の内容は少し角張った字で『今日の昼休み、中庭で』のみだった。中庭は1つしかないし、そこまで広い場所ではないから自分の事は直ぐに分かると思う(何なら中庭で一番でかい木の下にいる)何か用事でも出来たのか…?と少し不安を覚えているとフワリと何やら背中から暖かく柔らかい存在が抱きついてきた。


「大和」

「あ、里花。…というか、万梨花にも言ったが公共の場では抱きつくな。てか、どうしてここに?」

後ろから声と共にひょっこりと顔を出したのは万梨花と同様、幼なじみである相浦里花であった。里花は、俺の疑問に俺の腹に回していた手を離し、改めて俺の正面に回ると少し恥ずかしそうにしながら、言葉を紡いだ。


「だってここに大和呼んだの私だもん」

「お前かい!」


思わず大きな声で突っ込む。万梨花同様、今年はなんなんだ。急に渡し方に趣向を変え始めたのか?朝からの疑問をさらに膨らませていると里花は万梨花と同じ顔で少し頬を膨らませながらきっと俺を睨んできた。


「何?不満?憧れのシチュでしょ?」

「いや、別に不満じゃないし、確かに夢に見た事あるシチュエーションだけど…で、なんの用事だよ?」

「ん、これ」

まだ少し怒っているような顔をしたまま突き出してきたのは黄緑色のリボンがかけられたとても既視感のある箱であった。


「あ、これ…」

「…これ渡したかっただけ。じゃ」

「え、それだけ?!てか、早っ!」


ポカンとチョコを眺めている間に里花はいなくなってしまう。朝といい今といい、本当に謎が深まるばかりで、


「今日はなんなんだ…?」


思わず誰もいない中庭でそうポツンと呟いてしまうのだった。


☆☆☆


「はぁ…結局アイツら以外からのチョコはなしか〜…いや、でもこの放課後の呼び出しはワンチャン…!」

そういい、屋上に向かう階段を急ぎ足で登るのには理由があった。


帰りのHRが終わり、机の中の教科書を片付けよう。そう思い教科書を取り出すと、ハラリと紙が落ちる音がした。プリント類をそのままにする俺ではないので少し疑問に思いながらその紙を拾うとそれはまたもや手紙。急いで俺は中身を確認するとそこには丸っこい可愛らしい字で『放課後、屋上で待ってます』と書いてあった。俺はそれを見て、直ぐに楠実に「悪い!ちょっと屋上行ってくる。部活始まる前には戻る!筈!!」と楠実の返事も聞かずに飛び出した…という訳だ。


そうこう回想しているうちに屋上への扉へと到着。1度深呼吸をし、少し髪を整えるとその扉を開けるのだった。


「あ、大和おっそーい」

「…ですよね。絶対ここまで来たら透花だよな。分かってたわ」


屋上に居る人物、俺の最後の幼なじみである相浦透花を見て思わず俺の身体の力は一気に抜けてしまった。説明をしていなかったが(いや、もしかしたら薄々察している人はいるかもしれないが)万梨花・里花、そして今目の前にいる透花は俺の幼なじみの3つ子である。そりゃまあ、万梨花と里花からだけチョコな訳ないとは思っていたが予想どうり過ぎて脱力してしまった。


「せっかくの屋上呼び出しシチュなのになんでガッカリしてんのさ〜。もっと喜んで?」


そう言うと透花は、俺の腕に自らの腕を絡ませて上目遣い&小首を傾げる。あざとい透花のいつもどうりの様子にはぁ…とため息をつく。


「透花もこういう場では抱きつくな。いや、嬉しいけどさ〜。…で?なんの用だよ?」

「ふっふーん♪…じゃーん!大和の為のチョコレートだよ!」


少し得意げに俺の方に渡してきたのは水色のリボンをかけた今日見るの3回目のラッピングの箱であった。


「おぉ…ありがとうな」

「じゃ、私はこれで」

「早っ!?」


里花と同様本当に渡す為だけに俺を呼び出したらしい。透花はすっと絡ませていた腕を解き、屋上の扉へと向かった。


「だって、部活あるし。大和だって部活あるでしょ?早く行かないと遅れるよ?じゃーね!」

「え、ああ、うん。じゃあ、透花後でな」


タッタッタッと軽やかな階段を降りる音を聞きながら俺も部活に向かう為階段を降りていくのだった。


☆☆☆


「はぁ…結局貰えたのは3つだけか…」

「3つも貰えたならいいんじゃない?よ、モテ男」

「3つといえどこれはあの3つ子から貰ったやつだぞ?小さい時から毎年貰ってるし…もはや母さんと同じ身内枠だよ」

「ふーんそう」


部活終わり。朝と同様、ロッカーで着替えている際に俺と楠実はそんな会話をする。そして今日一日の出来事を話すと楠実は適当に返事をしながら何故か時折、こちらをチラチラ見ていた。それに少し疑問を抱くが結局それを問うことはないまま2人そろって部室を出た。


部室を出ると、俺は裏門の方に向かう。


「あ、じゃあ俺こっちだから」

「え?…あぁ、今日月曜か」


一瞬びっくりしたような顔をする楠実だが、すぐさま納得した顔をする。

そう、普段は楠実と正門を通って帰るのだが、毎週月曜は3つ子の部活、吹奏楽部と部活終了時間が被る為、3つ子の家に近い裏門から一緒に帰るのだ。

じゃ、と別れようとすると普段は直ぐに正門へと向かう楠実だったが今日は何故かじっとこちらを見ている。それもまるで何か言いたげな表情で。


「…?楠実?どうかしたか?」

「あー…それにしてもお前本当に3つ子大好きだよな」

「え?まぁ、好きだな。小さい時からずっと一緒だし、姉…いや、妹だな。みたいなもんだし」

「本当にそれだけか?」

「え?」


急な楠実からの質問に俺は一瞬言葉を失う。3つ子は、親同士の仲が良い為、本当に小さい頃から、それこそ生まれた時から一緒なのだ。一緒に遊んだり、飯を食ったり、風呂入ったり、寝たり…一人っ子の俺には兄妹というものが実際はどんなものかわからない。だけど、本当に兄妹のように3つ子の事は大事に思っている。


俺がそんな事を考えていると、楠実ははぁ…とこめかみに手を当てながらため息をつく。


「…ま、お前はそれだけか。いや、気にすんな。じゃあな、また明日」

「あ、おい!」


楠実はそう言うだけ言って正門へと歩きだした。俺が声をかけても手を振るだけで振り返りはしなかった。


☆☆☆


「あ、大和〜♪」

「待ちくたびれた」

「早くかーえろっ!」

「あぁ、うん」


裏門で待っていた3つ子と3つ子の家までの家路を歩く。少し薄暗い道の中、3つ子は俺の一歩前を歩き、俺にかまう事なくやれ今日に数学は難しかった、部活で顧問がこんなに面白かったなど話している。普段の俺は、そんな会話に参加しているが、今俺の頭の中には楠実との会話が反芻している。

俺はあいつらの事を妹として以外に思うこと…?そう考えていると、ふと今日一日ずっと考えていた疑問を思い出す。そして、その疑問と楠実との会話で俺は、ある一つの仮説を立てた。


「…なぁ、ちょっと聞いていいか?」

「ん?どうしたの?」


3つ子は一斉に振り返る。俺達は近くの公園に寄ると、俺は話し始める。


「今日さ、なんでいつもみたいに手渡しじゃないんだ?」

「私とトーカは手渡ししたけど」

「いやでもさ、何故か呼び出しくらったし…いつもは普通に渡してくるだろ」

「えーっと…」


俺の疑問に3つ子はそれぞれどこかに視線をさまよわせて、どう答えようか考えているらしい。そこで俺は、自分の立てた仮説を口に出す。


「なぁ、もしかしてさ…。里花も透花も万梨花も俺の事…」

「その!大和の憧れやってみたかったからだよ!」

「…ハイ?」


俺の言葉を遮るように万梨花は大きな声で話す。その内容に思わずすっとんきょうな声を出す俺を置いといて、焦ったように透花、里花、万梨花の順で話し出す。


「だって、大好きじゃん!少女漫画」

「そうそう、それに高校生になって校内にチョコ持ち込みOKだし」

「モテない大和の為に私達がやってあげたんだよ〜」

「「「ね~」」」

「そっか…」


まるで親に怒られないように言い訳する子供のような3つ子にフッ笑う。


…そうか、仮説が当たっていなくて良かった。


「…確かに憧れだったけどさ〜、アレは片思い中の子が胸をドキドキ緊張させながら『受け取ってもらえるかな』『好きってちゃんと伝えられるかな』とか思いながらやるもんだって昔から言ってるだろうが。それを俺をからかうためだけにやるなっての」

「あ、うん。ごめんね…」

「次は気をつけるわ…」

「反省します…」


そう謝罪する3つ子は顔を下に向けている為、顔が見えない。きつく言い過ぎただろうかと少し心配になるが、3人の誰からともなく「帰ろっか」という言葉に俺たちは公園をでた。

道草を食ったせいで日は完全に落ち、辺りは街灯のみが照らし、少しもの寂しい雰囲気だ。しかも、先程の賑やかな雰囲気と比べ、今はまるでお通夜のような状態。

この雰囲気にしたのは確かに俺だが、それにしても空気が重い。俺は場違いのような明るい声を出す。


「いや~、でもお前達は可愛いからな!今回みたいなシチュはきっとどんな男子でも意識するだろうし、イチコロだろうな!」


そんな言葉に相変わらず一歩前をいく3つ子は、同時にピタリと止まる。


「…ほんとは大和が…だからやったのに…」

「…他の男の為になんてやるわけないのに…」

「…少しは意識して欲しいからやったのに…」

「え?なんか言ったか?」


呟くように何かを話す3つ子の声は残念ながら俺の耳には届かなかった。そして、聞き返すと3つ子はくるりと振り返った。3人とも顔を真っ赤にして涙を溜めながら。


「もう!大和のバカ!」

「鈍感!」

「いじられキャラ!」

「はぁ?3人とも急に怒り出してどうしたんだよ。てか、万里花お前地味に気にしている事を…!」

「ふーんだ。もう知らないもん!」

「大和なんて一生モテないままでいればいい!」


そう言うと3つ子は走り出す。そして数十メートル先の自分の家へと駆け込んだ。

俺は急に怒鳴られて(しかも少し泣かせていて)どうすればと『相浦』と書かれた表札の門前で立ち尽くしていると、ドアがガチャリと開く。


「さっさとこれ持って帰れ!」

「うわっ、…おっとと」


里花によって投げられたそれを顔面にぶつかる前にキャッチする。投げられたそれは甘い匂いの漂う紙袋。

俺がキャッチしたのを確認すると3つ子は、怒鳴って勢いよくドアを閉めるのだった。


「「「じゃあね!また明日!!」」」

「あ、うんまた明日…」


律儀に挨拶してくる所は3つ子らしい。

俺もちゃんと挨拶を返したが、おそらく聞こえていないだろうな。

そう思いながら、帰ろうとするとカチャリと控えめに扉が開く音がした。見るとそこには綺麗な女性、いや3つ子の母親である初音さんがいた。


「あ、お久しぶりです」

「こんにちは、大和くん。ごめんね、うちの子が」

「ああいえ、こちらこそすいません。…知らない間に泣かせてしまったみたいで」

「それは全然平気よ。むしろ気にしないで。きっと明日にはけろりとしているわ。あ、さっきりっちゃんから渡されたと思うけど、それは私からと響ちゃんからね」

「ありがとうございます。父さんと一緒に食べますね」

「あら、まりちゃん達からのは雷太さんと食べないの?」

「あー…」


チラリと初音さんの方を見ると、ニコリと笑っている。

そんな様子に俺はため息をつく。


…ああ、この人には気づかれている。


「いじわるですね」

「大和くんもうちの子と一緒で素直になっちゃえばいいのに」

「…」

「…あ、もう夕飯作らなきゃ。じゃあ、大和くんこれからもあの子たちをよろしくね」

「はい、もちろん」


初音さんは、にこやかに手を振りながら扉の中へと姿を消す。


俺は今度こそ自分の家へと歩みを進めるのだった。





おまけ

「ねぇ、パパ!大和ったら酷いんだよ!私達の気持ち全然気づかないの!」

「まぁ、でも私達も結局ちゃんと大和に好きって言ってないし…」

「今思えば一方的に怒っちゃったし明日謝らないとだな〜…」

「ハハハッ!お前達は本当に大和大好きだな!こうなると大和は親に似なくて良かったな!」

「「「え?どういう事?」」」

「大和の父ちゃんも母ちゃんもめちゃくちゃモテてたんだぞ〜。もし、そこまで遺伝してたらお前達大変だったな!」

(((…本当に似なくて良かった!)))

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