第112話 泣く女3

 「ワンピ水着蒼汰。盾」


 地面に尻もちをついて、両手で半身を起こした姿勢で琴音が叫んだ。


 ワンピ水着蒼汰が明日香の前に走って盾を矢に突き出した。女将の口を飛び出した矢がすごい音を立てて盾にぶつかった。反動でワンピ水着蒼汰が後ろにひっくり返った。土煙が上がって小石が舞った。盾に跳ね返された矢が大きな放物線を描いて空中を飛んだ。そして、ゆっくりと地面に突き刺さった。どすっという重い音がした。


 「パンスト蒼汰。剣でかかれ」


 もう一度、琴音の声が飛んだ。


 その声に合わせて、パンスト蒼汰が剣を両手で持って頭上に高く振り上げた。上段の構えだ。そのままの姿勢で足で地面を大きく蹴ると、女将の頭上に飛んだ。全身の力を込めて剣を女将の頭上に振り下ろした。剣が空気を切り裂いた。


 女将の首が大きく回転した。そのまま、首が剣を振り下ろすパンスト蒼汰にぶつかった。剣が女将の髪に触れる寸前に、パンスト蒼汰の身体が宙に舞った。明日香の頭上を飛んだ。そして、パンスト蒼汰の身体は、明日香のはるか後方の地面にたたきつけられた。


 蒼汰は女将に肩を押さえつけられたまま、動けなかった。女将の首がまた回転した。今度は女将の頭が蒼汰の眼の前にきた。勝利を確信した女将がにやりと笑った。鋭い歯を持った口が蒼汰の首筋めがけて飛んだ。蒼汰は眼をつむった。


 このとき、蒼汰の横から影が飛び出した。影が太刀を女将の首の根元に深々と突き立てた。


 「ギャアアアアア」


 この世のものとは思われない声がひびきわたった。女将の首が一回転して、首の根元に刺さった太刀を口にくわえて引き抜いた。太刀を地面に吐き出すと、女将の顔が影をにらみつけた。


 影は小野おのの仏童丸ほとけのわらべまるだった。女将の顔が怒気で真っ赤だ。耳まで裂けた口から声が出た。


「おのれ。仏童丸ほとけのわらべまる。またしても邪魔をするか。覚えておれ」


 そして、女将が消えた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る