315 - 「世界喰らいの紋章」

『南部が氷の世界に変貌したのは、世界級ワールズ魔導具アーティファクト――凍結の宝珠フリーズンオーブが使われたせいよ』

『私の情報が確かなら、あれはニニーヴ・リーヴェが持っていたはず』

『つまり、凍結の宝珠フリーズンオーブを南部でぶっ放したイカレ野郎は、アリス教の教祖リデル・オブ・マーリンの愛弟子にして愛人とも言われている大魔導師アークメイジの老婆ってことさ』



 マサトは、人払いを済ませた個室で、青の天眼ブルーヘブンリィアイズのリーダーであり、占術に長けた仙女族だと自称したセンリの言葉を反芻しつつ、自身の記憶を辿っていた。



「ニニーヴ・リーヴェ……マーリンの愛人……マーリン……」



 聞き覚えのある単語を繰り返すと、埃を被った記憶が輝きを取り戻し始める。


 マーリンは、アーサー王伝説の登場人物として有名な魔術師の名だ。


 それ故に、現代の創作物においては、大魔術師の代名詞として使われることが多い。


 例に洩れず、このMEの世界でも強者設定だろう。



(そのマーリンの愛人ということは、ニニーヴは湖の乙女が由来の人物か……)



 湖の乙女もまた、アーサー王伝説に登場する主要人物のひとりだ。


 アーサー王にエクスカリバーを渡した水の妖精であり、美しく高貴な魔法使いとも言われている彼女は、言い寄ってきたマーリンに魔術の全てを教わった後、マーリンを騙して森に封印し、最強の魔術師の座を手に入れた。


 その後は、マーリンに代わってアーサーたちの運命を導くことになるという、マーリンに匹敵する強者である。


 元ネタの影響をどこまで受けているかは不明だが、警戒すべき相手であることは間違いない。



(ここへきて次から次へと)



 明るみになる強者の存在に若干の鬱陶しさを抱きつつも、マサトは口元に薄っすらと笑みを浮かべた。


 この非現実的な異世界の旅における強者の登場が、目指すべき目的地へ近付いてきているような――言い換えるなら、RPGの物語終盤に駒を進めたような、そんな感覚を感じたからだ。



(この山場を超えれば、きっと過去に戻れる。今は目の前のことに集中しよう。帝都の守りが硬いというなら、自身を更に強化すればいいだけだ)



 マサトには確実に成長するための手段が残っている。


 マナ喰らいの紋章の進化だ。


 大量に貯まったマナの数値をウィンドウで確認した後、紋章の進化と念じる。


 すると、目の前にメッセージが表示された。



『20000マナで、マナ喰らいの紋章を、世界喰らいの紋章へ進化しますか? はい/いいえ』



 躊躇うことなく頭の中で即答する。



(はい)



 その瞬間、身体から光の粒子が溢れ出した。


 光は自分を中心に渦を作り、やがて部屋一面を眩いばかりの光で埋め尽くす。



(凄い演出だな……部屋には誰も立ち入るなと釘を刺しておいて良かった)



 そうでなければ、驚いた皆が部屋に雪崩れ込んでいたことだろう。


 そんなことを考えていると、真っ白に染まった世界に、黒い透過背景に金縁でデザインされたシステムウィンドウが表示された。



『世界喰らいの紋章へ進化が完了しました』

『世界喰らいの紋章効果により、滅亡させた世界を取り込むことが可能になりました』



(滅亡させた世界を、取り込む……?)



 衝撃的なメッセージに、一瞬思考が停止する。


 シンプルに考えれば、死んだ生物の魔力マナを吸収できる能力をもつ『マナ喰らいの紋章』が進化したことで、死んだ世界をも吸収できる能力をもつ『世界喰らいの紋章』になったのだと考えれば、そこまで違和感はない。


 だが、マサトが引っ掛かりを覚えた問題点はそこではなかった。



(これは、世界を破壊しろってことなのか……?)



 滅亡した世界が運良く落ちていることなどないだろう。


 ゲーム的解釈をするのであれば、世界を取り込めるようになったということは、即ちその力を利用して成長しろという意味になる。


 マナ喰らいマジックイーターとして、奪った命を糧に新たな命を作り出す序盤ステージはこれで終わり。


 これからは、滅ぼした世界を糧に新たな世界を創造する世界喰らいワールドイーターたちの新ステージということになる。



(……上等だ)



 マサトが不敵に笑う。


 その黒い瞳には、このMEの世界に飛ばされた当初から抱いていた迷いや葛藤の揺らぎはなかった。



 再びシステムウィンドウが表示される。



『紋章進化により、基礎ステータスが上昇します』


『召喚コスト上限が1あがりました』

『攻撃力が2あがりました』

『防御力が2あがりました』

『ライフ上限が10あがりました』



 遂に召喚コスト上限が16まで上がり、手持ちのカードの中で唯一召喚できない『獄神タルタロスの鎖腕輪』の召喚コスト18まで残り2となった。


 再び紋章レベルの育成が可能になるのであれば、上限18解放もそのうち達成できるだろう。



(これで基礎ステータスは7/7。一つ目の浮島巨人兵ギガス・サイクロプスが4/6だから、遂に素殴りでも巨人を倒せるレベルにまできたか)



 純粋な成長に喜ぶも、ふと首領タコスが8/8だったことを思い出し苦笑する。



(いや、まだまだだな)



 少し間があった後、また新たなシステムウィンドウが表示される。



『あなたはグリムワールドで初の偉業を達成しました。追加の恩恵を獲得できます』


『XF確定ガチャチケットを1枚獲得しました』



(!!!!????)



 あまりの驚きに言葉を失う。


 XFとは、『エックスファクター』と呼ばれている特殊レアリティの略称だ。


 XFは、場に1枚しか出せないURユニークレアと違い、存在そのものがユニークという限定カードを指す。


 限定カードを示すレアリティには、XF以外にも "期間や数量での限定カード" を指す『LE:リミテッドエディション』や、"店舗や地域指定での限定カード" を指す『EX:エクスクルーシブ』が存在する。


 だが、LEやEXがイベントの報酬などに利用される傾向が強いのに対し、XFはその意味の通り、勝利する上で必要不可欠とまで言われるほどに強力なカード群である。


 云わば、公式が明確に最強カードを作る目的で作ったチートカードというのが、XFシリーズの実態だ。


 MEの世界ランカーは少なくとも1枚は所持しており、それが各選手の特徴となることも多い。



(本当にあのXFカードが手に入るのか……?)



 現実世界では、それこそ数千億もの大金を積むか、公式公認の世界大会などで好成績を残さないと獲得する機会は得られない。


 逆に言えば、世界ランカークラスになると、1枚以上のXFカードを警戒しながら戦わないといけなくなるということでもある。


 これは、デッキや戦術の効率化や固定化が、将来的なゲームのマンネリ、衰退を招くと判断した運営が、ゲームの花形である世界ランカーたちが個性――視聴者に伝わりやすいヒーロー性や二つ名を持てるように配慮した結果だとも言われている。


 量産型デッキを使い、持ち前のPSプレイヤースキルの腕だけで世界ランカーとして活躍する選手も存在するが、それは極少数派だ。


 普通は、XF未獲得者のみが参加を許された世界大会で優勝し、まずは1枚のXFカードを入手するというのが世界ランカーになる登竜門となっている。



(つまりは、これが世界と戦うためのスタートラインってことか)



 急に、今までがチュートリアルだったのではないかという気持ちになるも、そんな馬鹿なと余計な考えを振り払う。


 すると、紋章進化の演出が完了したのか、周囲の光が霧散し始めた。


 自分自身の身体の内側から溢れてくる新たな力を感じる以外に、周囲の変化は見られない。



(さっそくXFガチャチケットを使ってみるか……)



 先ほど手にいれたチケットを表示させ、一呼吸置く。



「ふぅ……」



 今までのガチャと違って、今回のXFガチャは、XFという最高の当たりが確定している。


 だが、XFカードも全てが強カードというわけではなく、現実世界でも当然のように当たり外れ――価値の高いカードとそうでないカードがあった。


 それは、バトル主体のMEにおいて、バトルに使うにしてはあまりにも実用性に欠けるカードの存在だ。


 実際は、RPGモードを想定して先行実装された生産系カードなどが主だったが、主戦場を対人戦の世界大会に絞って生計を立てていた選手層にとっては、絶望を運んでくる死神とまで呼ばれるほどに嫌われていた。


 その1枚で、選手としての伸び代が決まるのであれば、当然とも言える。


 もちろん、一攫千金を目的にXFカード獲得を目指す者も多く、そういう者たちにとっても生産系カードは換金額の低いハズレカードでしかなかった。


 RPGモードが実装されるまでは――。



(このMEの世界なら、どんなカードでも活用できると思うが……今、必要としているのは強者との戦いを優位に進められるカードだ)



 バトルとはまた違った緊張感を抱きつつも、先程手に入れたばかりのXF確定ガチャチケットを使う。



『XF確定ガチャチケットを1枚消費しました』



 そのシステムメッセージが表示された瞬間、目の前が真っ暗になり、身体が浮遊感に包まれる。



「うおっ!? なんだ!?」



 突然、真っ暗闇の無重力空間に投げ出されたと感じたマサトが、手足をばたつかせながら周囲を見渡す。



(う、宇宙空間か……?)



 360度全方位に広がる空間の先には、色とりどりの星々が輝いている。



「これは……凄いな……」



 今までのガチャ演出とは一線を画していると、自然と期待値もあがっていく。


 時折、左右へと光の軌跡を残して去っていく流れ星を目で追っていると、そのうちの1つが軌道を変えたのが分かった。



(こっちに……向かって来る……)



 急速に接近してくる流れ星。


 その迫力に、無意識に恐怖心を感じて顔が引き攣る。



(くっ……落ち着け。あれは演出だ)



 流れ星は、マサトに接近してくる途中で眩い光を放ちながら弾け飛んだ。


 6つに分かれた光の玉が、それぞれ不規則な軌道を描きながら接近してくる。



(流れ星じゃ……ないのか?)



 星だと思っていたものを凝視すると、カタカナの『コ』の形に曲がった白い板状の何かが、青い光の粒子を噴出しながら飛んでいるのが見えた。



(何かの飛行兵器?)



 数秒間、マサトの目の前を不規則な軌道で飛行したそれが、一斉に軌道を変える。


 その軌道の先にいるのはマサトだ。



「うっ……!?」



 再びマサトが身構えるも、その物体はマサトに衝突することなく、6つの物体がそれぞれ混ざり合い、眩い光を発しながら1つのカードへと姿を変えた。


 ゲーム的なサウンドエフェクトが鳴り響く。



「クソ……これも演出か」



 意地の悪い演出にハラハラさせられながらも、成り行きを静かに見守る。


 カードは裏面を向け、虹色の光の粒子を放ちながら暫し停止。


 少しの余韻を残した後、ゆっくりとカードが回転し始める。


 時より見える表面のイラストには、先程飛び交っていた物体と同じものが描かれているように見えた。



(さっきの演出と関係があるカードか)



 そう推測しつつ、少しずつ距離を縮めてくるカードをじっと見つめる。


 カードはマサトの目の前まで接近すると、イラスト面を向けてぴたりと止まった。



「これは……」



『零一型フィン・ネルを獲得しました』


【XF】 零一型フィン・ネル、(16)、「アーティファクト ― 装備品、兵器、特殊魔法合金ネル」、[高速飛行] [光学迷彩] [形状変化] [(X):一時ネル活性化LvX、上限96] [質量変化、上限X(Xは、ネル活性化Lvに等しい)] [自己修復LvX] [自動防御フィン・ネルシールドLv8+X] [自動追尾型の物理攻撃フィン・ネルソードLv3+X] [(1):月光(フィン・ネルへの魔法攻撃一時無効化)] [(2):複製、上限6] [(3)(X):零コ型月光加速式マナ粒子砲Lv4+X] [耐久Lv8+X]



「……フィン? ◯ァンネル?」



 一瞬、白いロボットが使う遠隔兵器が脳裏を過る。


 コ型の形状で飛び回る姿がまさにそれだったからだ。


 だが、性能は似て非なるものだった。



(自動防御に高速飛行。光学迷彩から形状変化、自己修復までついてるのか。対象へ飛ばして直接本体で物理攻撃もできる上に、最大6基まで複製して、遠隔射撃もできると。更には魔法攻撃無効化の盾としても使える。耐久もLv8と、ベースがかなり高いので、解呪ディスペルに対しても安心感があるし、いざとなれば強化もできる。一度に全て破壊されない限り、自己修復と複製能力で数を元に戻せるなら、それだけで無限に遠隔攻撃可能だ。ネル活性化からのマナ粒子砲で雑魚敵の一掃や、光学迷彩と形状変化、それに質量変化で本体を隠し、奇襲や暗器として使うことも……)



 ざっと考えただけでも、かなりの使い道が思い浮かぶ。



「これがXFカードの性能か……」



 あまりの強さにマサトが唸る。


 召喚コストは16とかなり重いが、それがあるのとないのでは戦術が一変するくらいの強力な武器だ。


 強い反面、戦闘でのマナ消費も相応に激しいものになると予想されるが、マナ保有量が3000を超えている状態であれば、マナを得られない状況で連戦さえしなければ大丈夫だろう。


 例えマナが枯渇している状況だとしても、自身の周りを高速で飛行しつつ、敵の攻撃から自動で身を守ってくれる盾として機能してくれる。


 それだけでも十分有用な装備なのは間違いない。



「召喚しておいて損はないな――零一型フィン・ネル、召喚」



 マサトが召喚を行使すると、一瞬縦に強い光の線が発現し、白く細長い六角形の物体が姿を現した。


 長さは1mくらいで、ゆっくりとプロペラのように回転しながらその場に浮遊している。



「取り合えず、6基に増やしてみるか」



 再び強い光の発光があり、その度に白く細長い六角形の物体が出現する。


 6基に増えた白い物体は、3基単位でまとまり、それぞれ先端の一面同士をくっつけて翼に似た形状になった。

 


(これは……ダブルフィン◯ァンネルにしか見えないんだが……これで宇宙戦争でもしろというのか?)



 そこまで考えて、MEにも次元を跨いだ宇宙空間での戦争シリーズが存在していたことを思い出す。



(そのうち宇宙戦艦と操作ユニットも手に入りそうだな)



 既に飛空艇スカイシップと魔導兵は身近に存在するため、宇宙空間でも稼働可能にすることさえできれば、再現は可能なのかもしれない。



(問題はこいつをどうするか、か。光学迷彩で隠したところで気付かれる気もするが……)



 一つ一つはそこまでの大きさではないが、レベルアップの恩恵か、微かな音の振動の変化ですら違和感を感じられるようになった今では、光の屈折率を変えてフィン・ネルを見えなくしたとしても、そこに何かが存在していると分かる。


 1基ですら違和感を感じるのに、それが6基も集まると圧を感じるほどに存在感も増す。


 もはや隠すのは不可能に思えた。



(一応、質量変化で小型化して収納すれば隠せるとは思うが……それだと自動防御を活かせず、宝の持ち腐れになりそうだ。いっそのこと形状変化させて身に付けられるか試すか)



 物は試しと、籠手をイメージする。


 すると、2基がそれぞれ形状を変えて両腕に巻き付き、イメージした通りの形へと変化した。



(よし、これだ)



 手応えを感じたマサトは、残りの4基を、胸当と脛当にそれぞれ変化させる。


 程なくして白い簡易防具が出来上がった。



(まずまずだな。この状態で光学迷彩を使って見えなくすれば、多少はカモフラージュできるだろう)



 その後、マサトはフィン・ネルを防具として身に着けた状態で、フィン・ネルのもつ飛行性能を試した。


 部屋の中ではできることは限られているが、想像した通りに身体を浮かせることができた。


 両腕、両足、胸部。


 それぞれに装備したフィン・ネルに体重を載せて浮いたに過ぎないが、炎の翼と併用すれば、よりアクロバティックな高速飛行も可能になるだろう。



(タコスとの一戦で壊れた月食の双剣ハティ・ファング以上の強力な武器が手に入ったのは幸運だった。遠距離攻撃手段が増えたのは大きい)



 結果に満足していると、ドア越しにマサトを呼ぶ声が聞こえた。



「と、父ちゃん、い、今大丈夫??」



 少し緊張した声色でそう声をあげたのは、黒死病の魔女ペストウィッチと呼ばれていたヴァーヴァとマサトとの間にできた実の息子、ヴァートだ。



「どうした? 何かあったのか?」



 そう返しながらドアを開けると、焦った様子のヴァートが、白眼をちらちらとマサトに向けながら答えた。



「マーティンって人が、早くここを離れた方がいいって……」



 ヴァートの後方に視線を向けると、祝福された庭師ブレスト・ガーデナーのクランリーダーであり、世界主ワールド・ロードだったエヴァーと先代から血の契約を交わしていたガーデナー家の三代目――マーティンが、神妙な面持ちで立っていた。


 マーティンと行動を共にしていた勝気な女性剣士――ランスロット・ブラウンは見当たらない。


 どうやら1人でマサトに会いに来たようだ。


 マーティンが口を開く。



「南部の異変を察知した帝国軍が、金色の鷲獅子騎士団グライフスヴァルトの大隊をこちらに向かわせたと情報が入った」



 それ以上、マーティンは告げなかったが、マサトは、マーティンが「これ以上、この都市に問題を持ち込まないでくれ」と言っているように感じた。



「心配せずとも、ここを拠点に応戦しようなんて考えはない。用事があって立ち寄っただけだ。その用事も片付いた今、長居する必要もなくなった」


「すまない……」



 心底申し訳なさそうに頭を下げるマーティン。


 マサトはその姿を一瞥すると、落ち着かない様子で2人のことを窺っていたヴァートへ声をかけた。



「ヴァート、皆に出発すると伝えて」


「わ、分かった!」



 ヴァートが小走りで去って行くのを見届けた後、マサトも頭を下げたままのマーティンの横を通り過ぎようとする。


 すると、マーティンが口を開いた。



「これを、持って行ってくれ……」



 そう告げて差し出された手には、何かの紋章が刻まれた緑色の宝石があった。


 マサトが視線を宝石からマーティンの顔へ移す。


 マーティンは顔を伏せたまま、話を続けた。



「これは、ガーデナー家に代々伝わる家宝だ。当主の証でもある」


「なぜそれを俺に?」



 マサトの問いに、マーティンは変わらず顔を伏せたまま、一瞬だけ顔を歪める。


 その後、ゆっくりを顔をあげ、マサトを覗き見るようにして視線を合わせた。



「俺には、これを持つ資格がないからだ……」



 そう告げたマーティンの顔は、初対面の時とは別人のように生気を失っていた。


 契約主であるエヴァーが死んだことで、その力の恩恵を受けていたマーティンにも少なからず何か変化があったのだろう。



「物を持つ資格なんてものは初めから存在しないと思うが。あるのは所有者かそうでないかという事実だけだろう」



 マサトが突き返すも、マーティンは力なく首を振った。



「だとしても、今の俺には、もうこれを扱える力すら……いや、この力は元々世界主ワールド・ロードのものだ。だから、それを持ち主に返すだけだ」



 マーティンの虚ろな瞳がマサトを見据える。



(エヴァーが死んだ時に、何か見たのか……?)



 マーティンの変わりように、マサトはそんな疑問を抱くも、深入りするほどの情はないと、これ以上の詮索は止めることにした。



「そこまで言うなら受け取ろう」



 マーティンの手から緑色の宝石を受取り、横を通り過ぎる。


 マサトが数歩進んだところで、マーティンが独り言のように話始めた。



「もし、君が再び俺に会う日が来たら……俺に伝えてほしい」



(急に何を……)



「地下に隠されていた日記に書いてあったことは真実だと。それだけ言えば分かるはずだ」



(そうか……)



 マーティンの言葉に、マサトはマーティンがエヴァーとの繋がりを通して何かを見たのだと確信した。


 その何かは、ガーデナー家の先代の記憶なのか、はたまた、マサトの記憶か、その両方か。


 それはマーティン本人しか分からない。


 だが、マサトはこれがマーティンの依頼であり、その依頼を達成するために必要なアイテムが、この緑色の宝石なのだと解釈した。



「覚えていれば、な」



 それだけ告げて、その場から立ち去るマサト。


 マサトの言葉が意外だったのか、驚いた表情のマーティンが、マサトの後ろ姿を見送る。


 そして、姿が見えなくなると、頭を下げ、マサトへの感謝と、死んでいった仲間たちへの謝罪を口にしたのだった。



「許してくれ……俺は……何も知らなかったんだ……何も……うぅ……うっ……」




――――

▼おまけ


【R】 無知という名の大罪、(X)(黒)、「ソーサリー」、[Xターン後に、弱体化-X/-X ALL]

「クランの意向に反発する者が出て悩んでいるのか。そうか。それなら、一度その者達とで、クランの方向性を賭けて互いに汗を流すといい。正々堂々と競い合えば、お前の実力も認められて、わだかまりも減るだろう。私が手配しておくから、皆で黄金のガチョウのダンジョンにでも行ってきなさい――マーティンに助言する二代目ローリー・ガーデナー」


【SR】 ガーデナー家の紋章石、(2)、「アーティファクト ― マナ生成」、[マナ生成:(緑)] [生贄時:マナ生成(緑)(白)] [耐久Lv3]

「ガーデナー家の初代当主イーグレットが、次期当主のために残した遺物。ガーデナー家の紋章が刻まれた魔法石には、子孫繁栄を願うイーグレットの魂が宿っている――ルイスの見聞録、脚注七十二、没落したガーデナー家の遺産」


【XF】 零一型フィン・ネル、(16)、「アーティファクト ― 装備品、兵器、特殊魔法合金ネル」、[高速飛行] [光学迷彩] [形状変化] [(X):一時ネル活性化LvX、上限96] [質量変化、上限X(Xは、ネル活性化Lvに等しい)] [自己修復LvX] [自動防御フィン・ネルシールドLv8+X] [自動追尾型の物理攻撃フィン・ネルソードLv3+X] [(1):月光(フィン・ネルへの魔法攻撃一時無効化)] [(2):複製、上限6] [(3)(X):零コ型月光加速式マナ粒子砲Lv4+X] [耐久Lv8+X]

「宇宙空間にまで生活圏を広げた超科学文明に対抗するため、同じ銀河圏に存在していた魔法化学文明は、その英知を結集させ、知恵をもつ特殊魔法合金『ネル』を奇跡的に作り出すことに成功した。フィン・ネルは、その特殊魔法合金ネルによって生み出された魔導具アーティファクトのひとつである。これにより、魔法化学文明は、それまで不沈とされていた敵の大型戦艦を、大魔導師アークメイジ単独で撃破できるようになった。しかし、偉大な大魔導師アークメイジの力をもってしてもフィン・ネルを完全に掌握することができず、その奇跡の魔法合金は、長きに渡る激しい侵略戦争の中で失われてしまった――宇宙戦争の観測者ウェルズ」





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