309 - 「黄金のガチョウのダンジョン23―首領タコス」

 ヴィリングハウゼン組合、第四班隊長のユージが最期に行使した大型魔法ソーサリー――蒼神の憤怒ハイドロゲン・エクスプロージョンの威力は絶大だった。


 強烈な光が一瞬だけ空を照らした直後に発生した衝撃波は、空にいた者たちを次々と飲み込むと、その灼熱の業火と爆風で、圧倒的な防御力を誇るルードヴィッヒの器ごと、その四肢を爆散させた。


 その強烈な魔法の閃光と爆音は、離れた場所にいたマサトだけでなく、タコスや地上にいたパークスたちにも届き、この戦いが終盤に入ったことを知らせたのだった。



(残るは首領ドンタコスだけか)



 マサトが、爆風に晒されながらも一直線に向かってくる、黄色に輝いたタコスに目を向ける。


 まだ距離はあるが、それも十数秒くらいの余裕しかないだろうと、高速で思考を巡らせた。



(数で封殺できるか……?)



 マサトは、支配した者たちへ、タコスへの一斉攻撃を命じる。


 その命令は一瞬で広まり、黄色に輝く者たちが、光の帯をひきながらタコスの進路上に立ちはだかった。


 ある者は火球を放ち、ある者は槍技や剣技でタコスへと立ち向かう。


 だが、タコスはそれらの攻撃に一切怯むことなく、攻撃の弾幕の中を強引に突破していった。


 火球がタコスにダメージを与えた様子はなく、近接を挑んだ者たちは軽々と弾き飛ばされていく。



(無理か……)



 少しも速度を落とすことなく突き進んでくるタコスのその気迫に、決死の覚悟を感じ取ったマサトは、軽く息を吐くと、支配した者たちを一時的に下がらせた。



(俺が決着をつけるしかないか)



 マサトも覚悟を決める。



影の憑依シェイドポゼッション


【C】 影の憑依シェイドポゼッション、(黒)(2)、「エンチャント ― モンスター」、[飛行] [(黒):一時能力補正+1/+0 ※上限3]



 黒い影がマサトの身体を覆う。


 飛行能力と、黒マナを込めることで、最大で+3/+0の力を得ることができる付与魔法エンチャントだ。


 だが、マサトはこれだけではまだ足りないと、続けざまに追加の付与魔法エンチャントを行使した。



神聖な力ホーリーストレンクス幻影の爪ファントムクロー


【C】 神聖な力ホーリーストレンクス、(白)、「エンチャント ― モンスター」、[能力補正+1/+2] [耐久Lv1]


【UC】 幻影の爪ファントムクロー、(青×2)、「エンチャント ― モンスター」、[能力補正+2/+0] [手札帰還] [耐久Lv1]



 湯気のような白い光が舞い上がると、身体の内側から力が溢れてきた。


 握った拳の感触と、その拳から発現させた透明色の爪を見て、これならいけると自信が湧き上がる。



(よし……)



 気合いを入れたところで、更に距離を縮めてきたタコスを見据える。


 正面からぶつかったところで、近接の技術も経験も相手の方が格段に上手。


 それはさきほどの一戦で痛感した。


 だからといって、有効な手段がないわけではない。



(上手くいくかどうかは賭けだな……)



 緊迫した状況ながらも、無意識に口端が上がる。



(やるか……)



 両手にそれぞれ白マナを込める。



またたきのスピリットブリンキング・スピリットッ!!」


【SR】 またたきのスピリットブリンキング・スピリット、1/1、(白×4)、「モンスター ― スピリット」、[飛行] [手札帰還] [精神攻撃Lv1]



 白い光の粒子が両手から舞い上がると、一瞬何かを形取り、光の残像を残してフッと消える。


 目で追えない程の速度で飛ぶそれは、不規則な光の線を空中に描きながらタコスへと向かった。


 それに合わせて、マサトも背中から炎を噴射し、タコス目掛けて加速した。




◇◇◇




「ぬッ!?」



 タコスが目を大きく見開く。


 マサトが何か仕掛けてきたことを察したのだ。



(また面妖なことを)



 タコスの集中力が極度まで高まる。


 その時、怪しげな光の線が、タコスの目前で一瞬だけその軌跡を残した。



「笑止ッ!!」



 タコスが吠えたと同時に、短い破裂音とともに光が瞬いた。


 あの一瞬で、タコスは目前に迫ったまたたきのスピリットブリンキング・スピリットを素手で叩き殺してみせたのだ。


 常人には到底捉えることすら不可能な速度で飛び交うまたたきのスピリットブリンキング・スピリット


 それをいとも簡単に仕留められる相手と対峙するのは、マサトとしても初だ。


 だが、マサトはそれすらも織り込んでいた。



(なにッ!?)



 再び出現した光の線。


 確かに仕留めた手応えを感じていたタコスが、意表を突かれたことで一瞬の隙が生まれる。


 その本の僅かな隙の間に、光がタコスの真横を通り過ぎたその時、タコスの表情が僅かに強張った。



「ぐぬッ!?」



 またたきのスピリットブリンキング・スピリットによる精神攻撃を受けたのだ。



(1体目は囮かッ! 最初から2体目を放っていたとはッ! やりおるッ!!)



 タコスが持ち前のメンタルで、精神攻撃を跳ね返そうと集中すると、今度はその僅かな隙を狙ったマサトが、次の一手を仕掛けた。



遺物腐敗デコンポジションッ!!」


【UC】 遺物腐敗デコンポジション、(黒)、「エンチャント ― アーティファクト」、[魔導具破壊Lv3] [腐敗Lv1]



 マサトが伸ばした左手から黒い光の粒子が舞い上がると、タコスはミシミシという不穏な音を拾った。



(今度はどんな小癪な手を……まさか)



 視線を下げると、黄色に輝くルードヴィッヒの器に、黒いシミが侵食していくのが見えた。



(これが狙いかッ!!)



 またしてもしてやられたとタコスは奥歯を噛みしめつつ、肉薄してくるマサトの右拳に、おぞましいほどの魔力マナが凝縮されていくのを感じて焦る。


 全ては次の一撃で確実に仕留めるための布石だと察したからだ。


 だが、連続で展開される精神攻撃により身体は一時的に機能不全に陥ってしまっており、復帰するにはあと数秒は必要だった。



(間に合わぬかッ!?)



 タコスの瞳に、炎を撒き散らしながら猛然と突っ込んでくるマサトが映る。


 状態異常が効かないタコスが不得手とする、数少ない攻撃手段である精神攻撃。


 その精神攻撃を足止めとして利用してからの、防具破壊と想像を遥かに超えた魔力マナが込められた強烈な一打。


 シンプルながらも、単独でここまでの戦術を可能にする手数の多さと、それだけで決着を決められるだけの攻撃力の高さをもつマサトに、タコスは追い込まれた立場ながら、込み上げる笑いを堪えられず、豪快に笑いながら叫んだ。



「ガハハハッ! 本当にやりおるッ! だが、まだまだこのままでは終わらせませんぞォオオオオッ!!」



 肉薄してくるマサトの攻撃を防ぐため、内なる魔力マナを爆発させたタコスの体が白く輝く。



白鋼超硬体ハクコウチョウコウタイィィイイッ!!」



 一時的に肉体を硬化させ、格段に防御力を高める防御技だ。


 その直後、マサトの光り輝く右拳がタコスの胸部に命中。


 目が眩むほどの閃光が迸った。




◇◇◇




「ちッ……」



 痺れる右拳に、マサトの表情が歪む。


 前方には、上半身裸の大男――タコスが、肩で息をした状態でこちらを見据えている。


 マサトが放った渾身の一撃は、遺物腐敗デコンポジションによって腐食させたルードヴィッヒの器を粉々に破壊することには成功したが、防御技を繰り出してきたタコスを仕留めるまでには至らなかった。



闇を育むものデザストルでも仕留められた一発でも駄目か……)



 マサトが次の一手を考える。


 だが、精神攻撃での足止めが2度も成功するとは思えず、かといって、他の方法も思いつかなかった。


 雷撃などの足止めは、状態異常無効の適性をもつタコスには効かないため、選択肢が限られるからだ。


 タコスの様子からして、相当消耗しているのは確実だが、相手の手札が見えない状態で乱打戦の賭けに持ち込むには不安が勝った。


 カシやユージなどの他の隊長格ですら、窮鼠猫を噛むが如く、死を覚悟した起死回生の一手を隠し持っていたからだ。


 タコスにも同様の大技があると考えた方が自然だろう。


 お互いが適度な距離を保ったまま、硬直状態が続く。


 先に沈黙を破ったのはタコスだ。



「次は我輩の手番ですな」



 そう告げると、大きく息を吸い込んだ。



白鶴ノ舞シラタズノマイ



 タコスの身体から白い光の粒子が舞い上がると、背中から放出された光の粒子が、白い翼のように広がった。


 そして、手を嘴のようにして構えるタコス。


 白い光の粒子を含む息を吐き出し、気を最大限まで高めたであろうタコスの瞳は、白眼となり、神々しい光を放っていた。


 嫌な気配を察知したマサトが、すかさず付近にいた悪魔デーモンとハーピーを囮として強襲させる。


 すると、タコスが残像を残しながら舞うようにして、次々と襲いかかってくる悪魔デーモンたちの攻撃を躱し始めた。


 そのまま距離を詰めてくるタコスの動きを凝視するマサト。


 不規則な動きのため、狙いは付け難いが、見失わないように集中した。


 すると、そのタコスの背後に、光の線が発現。


 悪魔デーモンたちを目眩ましとして紛れ込ませていたまたたきのスピリットブリンキング・スピリットだ。


 だが、不敵に笑ったタコスが、流れる動作の中で背後へ向けて、嘴のようにした手を向けると、その指先から光が伸びた。



白啄拳ハクチュウケン



 高速で絶え間なく移動しているはずのまたたきのスピリットブリンキング・スピリットが、タコスの手から伸びたふたつの光に啄まれ、弾けた。



(くっ……駄目か)



 白い光の粒子となって霧散したまたたきのスピリットブリンキング・スピリットに、マサトが悔やむ。



(やはり2度同じ手は通用しなかったか)



 早々に次の一手に切り替えようとしたマサトだったが、既にタコスの攻撃は始まっていた。


 またたきのスピリットブリンキング・スピリットを仕留めたタコスよりも、更にマサトに近い位置に、別のタコスが突然現れたのだ。



(なにッ!? 分身ッ!?)



 咄嗟に雷喰いの円盾ライトニングイーターシールドを発現させて構えつつ、新たに現れたタコスとの間にハーピーを割り込ませる。


 だが、不敵に笑うタコスの表情は変わらない。


 白眼となったタコスの瞳が強い光を放つ。



白鶴嘴拳ハクカクシケンッ! 一鶴一啄イッカクイッチュウゥゥウウウッ!!」



 嘴のように指を伸ばした手をマサトへ向けて突き出す。


 その指の先から鋭い光が猛然と伸びると、ハーピーを容易に貫いた。


 そしてそれは、瞬く間にマサトへと到達。


 構えていた雷喰いの円盾ライトニングイーターシールドごと、マサトの身体を貫いた。



「ぐふッ!?」



 マレフィセントとの戦いから酷使し続けてきた雷喰いの円盾ライトニングイーターシールドが、タコスの攻撃に耐えられず割れる。


 それと同時に、マサトの胸を貫いていた光も消えたが、タコスの攻撃はそれだけでは終わらなかった。


 両手を嘴の形にしながら構え直したタコスが、再び吠える。



「奥義、乱殺嘴ランサツシ白鳳千鶴ハクホウセンカクッ!!」



 タコスの背中から広がっていた光の翼が、細い光の線一本一本に細かく分離。


 上空に向かって伸びていた光が屈折し、その矛先をマサトへ向けた。


 そして急激に伸びる無数の光の線。



(くッ! あれ全てを受けるのは不味いッ!!)



 今の防御力の高さをもってしても、容易に貫いてくる攻撃だ。


 蜂の巣にされれば、さすがにライフが保たないと、マサトが顔を引き攣らせる。


 マサトの危機を察知し、タコスへと攻撃を仕掛ける戦士や悪魔デーモンたち。


 だが、タコスの背中から伸びた光は、迫る者たちへも矛先を向けると、迫る悪魔デーモンや戦士の身体を貫いた。


 そして、大量の光がマサトへと肉薄。


 マサトの瞳に、自身へと飛来する光の束が写り込んだ。




◇◇◇




(これで終わりですぞッ!!!!)



 タコスが勝負の決着を確信する。


 高い防御力を誇る相手でも、容易にその装甲を貫き、致命傷を与えることができる攻撃技――白鶴嘴拳ハクカクシケン


 その奥義となる白鳳千鶴ハクホウセンカクは、敵の大軍を制しつつも、対象の退路にも必殺の一撃を弾幕として放てる攻防一帯の大技だ。


 その威力は、対象の個体が小さければ小さいほど相対的に上がる、まさに対人向けの究極奥義でもある。


 万が一、白鳳千鶴ハクホウセンカクの弾幕を敵が耐え抜いたとしても、その後には更に威力をあげた二鶴両翼ニカクリョウヨクが追撃技として控えている。


 既に詰みの状態は変えられないと確信していた。



 ――胸から突き出た、自分の血で染まった透明な何かを見るまでは。



「ぐふぅッ!!??」



 大量の血を吐く。


 あまりに唐突すぎて、思考が追いつかず、目を泳がせるタコス。



「なぜ……これは……どういう……」



 混乱しつつも、視線を動かす。


 左肩から胸までを大きく斬り裂かれ、そこから大量の血が噴き出し、地上へと流れ落ちていっている。


 目前にいたはずのマサトはおらず、なぜかすぐ背後にその気配を感じた。


 自分だけが時を切り取られたような違和感に、ようやく状況を理解する。



「なるほど……このために器の破壊を優先したのですな……」



 詰んでいたのは自分の方だったと気付き、乾いた笑いが口から溢れる。


 マサトとの戦いに集中するあまり、時を止めるという最も警戒するべき能力をもつ世界主ワールド・ロードへの注意を疎かにしてしまったのだと、今更ながら気付いたのだ。


 直前まで、時魔法干渉能力をもつルードヴィッヒの器が健在だったことも、油断した原因のひとつだろう。


 身体を流れていく大量の血とともに、タコスの魔力マナも急速に萎んでいく。


 もはや、起死回生の一打を繰り出す力すらタコスには残されていなかった。



「やれやれ……こりゃ完敗ですな……」



 そう呟くと、胸から生えていた透明な何かが消えた。




◇◇◇




 タコスがゆっくりと下降していく。


 恐らく、飛行状態を維持するだけの余力すらももはやないのだろう。


 背中から放出されていた光だけでなく、タコスの身体から溢れていた白い光の粒子も消え去った。


 マサトは世界主ワールド・ロードのエヴァーと、周囲に影を展開し、即追撃できる態勢に入っていたシャルルに待機を伝えると、タコスの前へと移動した。



「ぐふぅッ」



 タコスが咽るようにして、再び大量の血を吐く。


 傷口からは大量の血が流れ落ち、それに伴って顔色も赤から青へと変化していくのが分かった。


 痛みを自覚しているのか、その表情はとても苦しげだ。


 さすがのタコスでも、これ以上の回復手段はもっていないようで、ゆっくりと目を瞑りながら顔を左右に振ると、身体に僅かに纏っていた覇気を完全に霧散させた。


 マサトには、それが降参の合図に見えた。



(ようやく、決着……か)



 呼吸を整えたタコスが、再び目を開ける。


 その瞳に、先程までの修羅の如き鋭い光は見られない。


 どちらかといえば、初対面の時に見せた、人当たりの良さそうな柔和な表情に戻っていた。


 タコスがマサトを見上げる。


 そしてマサトと目が合うと「フッ」と笑った。



「もしや、後悔してるのですかな?」



 マサトは自分がどんな表情をしているのか分かっていた。


 一度味方側だと認識した者との、大義のない殺し合い。


 その経験は、少なからずマサトの心に衝撃を与えていたのだ。


 まだ自分にも苦しむ心が残っていたのだと驚いたマサトだったが、それが顔に出ていたのだろう。


 正直な気持ちを告げる。



「……ああ、後悔してる」



 タコスとは不思議と馬が合った。


 それだけに、この手で殺さないといけない事態になったことで感じた動揺も大きかった。


 それでも割り切って進まなければいけない世界にいるのだと理解はしていたが、別のやり方があったのではないか、と考えずにはいられなかった。


 そして答えのない思考のループに嵌り、後悔の記憶だけが強く残る。


 いつものことだ。


 あの時、ああすれば良かった。


 あの時、こうすれば、こんな未来にはならなかった。


 そんな風に夜な夜な考えては、発狂しそうになる衝動を必死に堪える日々。


 マサトは自分の失敗に囚われていた。


 大宮忠との敗北、その時からずっと――。



「自分の選択が正しかったと思えることの方が少ない」



 そう吐き捨てたマサトに、タコスは笑って答えた。



「それは羨ましい限りですな」


「皮肉か?」



 タコスにとってマサトは、自分の部隊を壊滅させた相手だ。


 皮肉のひとつもつきたくなるだろうと、マサトは気にした素振りもなく言葉を返したが、それに対するタコスの回答は、マサトにとって意外な内容だった。



「まさか。そのような意図など微塵もありませんぞ」



 ゆっくりと息を整えながらも、タコスはまっすぐマサトの目を見て、優しい口調で話を続けた。



「良いですかな? 後悔が多いということは、それだけ大きな決断を迫られた際の選択肢が多く、選ぶ自由が十分にあったということですぞ。そして、その自由があった事実こそが、豊かで、恵まれた人生を歩んできたという証明になる、ということになりませんかな?」


「後悔が多いことが……恵まれた人生に? 俺には、解らないな」



 顔を顰めたマサトに、タコスが微笑む。



「フッフ、それもまた然り。人生の価値観など千差万別。自分に合った考えを持てればそれで十分」



 そう頷いた上で、少しの間をおき、話を続けた。



「ですが、これだけは言えますな」


「なんだ?」


「神に見放された者は、その自由すら持ち得ないと。選択肢なき行動には、後悔の念すら抱かんのです」



 タコスが遠い目を向けながらそう告げると、途端に目を瞑り、苦しそうに血を吐いた。



「グフッ……」



 最期が近いのだろう。


 当然だ。


 幻想の爪はタコスの左上半身を半分まで斬り裂いていたのだから。


 即死でないのが不思議なくらいの重傷だ。


 この隙にとどめを刺せば、再び起死回生の一手を警戒する必要もなくなるが、マサトはタコスの呼吸が整うのを待った。


 いつの間にか、タコスとマサトは地上へと降り立っていた。


 片膝をつくようにして身を丸くし、痛みを堪えつつ息を整えるタコスと、それを見守るマサト。


 ふたりの間には、少しずつタコスから流れた血溜まりができ始めていた。



「フゥー……そろそろ我輩にもお迎えが来ましたかな」



 タコスが苦しそうに息を吐きながら口を開く。


 ゆっくりと開いた瞳には、先ほどまでの力強さは微塵も感じられなかった。


 そのまま顔を上げ、再びマサトの顔を見る。


 だが、タコスは、まるで老人が過ぎ去った青春を懐かしむような、そんな哀愁すら感じさせる弱々しい表情で、マサトを通してどこか遠くを見つめていた。


 もしかしたら、もう既に自分が見えていないのかもしれないとマサトは思ったが、何も言わずタコスの言葉を待った。


 タコスが口元に優しい笑みを作る。



「我輩の最期に相応しい名勝負でしたな。感謝しておりますぞ。どうか、お主の進む道に幸あれ」



 タコスの瞳に灯っていた最後の光が消える。



「ああ、いい勝負だった」



 マサトはタコスの亡骸にそう告げると、空を見上げ、手をかざした。



「マナよ……」



 マサトの呼び声に応じて、空気中に発現し始める色とりどりの光の粒子。


 それはふたりの名勝負を讃えるように、マサトとタコスの亡骸を囲いながら舞い上がった。




『特殊条件を満たしたため、新たな称号を解放しました』



『称号、器を打ち砕く者ベセル・スマッシャーを獲得しました』


『称号、尊ぶべき絆を弄ぶ者ボンド・マニピュレーターを獲得しました』


『称号、死地を好む者デアデビルを獲得しました』


『称号、憎悪と慈悲の断罪者ヘイトリッド・マーシーを獲得しました』




『特殊条件を満たしたため、新たなセットデッキを解放しました』





『ヴィリングハウゼン組合の首領ドンデッキを獲得しました』




――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

▼おまけ


【SR】 器を打ち砕く者ベセル・スマッシャー、(無×3)、「称号 ― マジックイーター」、[防具破壊攻撃Lv3]

「ルードヴィッヒの器を素手で打ち砕いた生粋の武人に与えられし称号。その武人の拳は、防具だけでなく、その防具に込められた名匠の魂すらも容赦なく打ち砕く」


【SR】 尊ぶべき絆を弄ぶ者ボンド・マニピュレーター、(黒×3)、「称号 ― マジックイーター」、[洗脳強化Lv3] [支配モンスターへの洗脳耐性Lv3]

「裏切り、洗脳し、操り、絆で結ばれた者たちを同士討ちさせ、数多の命を奪った者に与えられし称号。その悪魔が如く所業の末に、失ったものがあることに、その者が気付くことはない」


【SR】 死地を好む者デアデビル、(黒×3)、「称号 ― マジックイーター」、[不死Lv1]

「命のやり取りを好み、自ら死地へと赴き、幾度となく生還した者に与えられし称号。死地を乗り越え続けることで、存在が神格化し、その肉体は不死へ変化していく」


【SR】 憎悪と慈悲の断罪者ヘイトリッド・マーシー、(黒×3)(白×3)、「称号 ― マジックイーター」、[能力補正+3/+3] [攻撃魔法強化Lv3] [回復魔法強化Lv3]

「憎悪をもって敵を討ち、慈悲をもって敵を看取る。その両方の感情をもち、大戦で成果をあげた者に与えられし称号。その者の姿は、悪を断罪する大天使が如く」


【UR】 ヴィリングハウゼン組合の首領ドンタコス、8/8、(白×5)(3)、「モンスター ― 人族」、[状態異常無効] [体術Lv8] [超人化(一時能力補正:+4/+4)] [(白×4):超回復Lv4] [不屈の精神(即死攻撃を1度のみライフ1で耐える)]

首領ドンタコス。クローバー領を統治するルードヴィッヒ卿が抱える最強の軍隊、ヴィリングハウゼン組合を指揮する最強の軍人。スキンヘッドと、白い立派な口髭がトレードマーク。謎多き人物なものの、噂では死にゆく定めだったところを、ルートヴィヒ卿に保護されたことが始まりだとか。蓮生やしの巨大ガニロータス・ジャイアントクラブを素手で殴り殺すことができる正真正銘の怪物――冒険者ギルド受付嬢オミオの手帳」




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これからも更新続けていきますので、よろしければ「いいね」「ブクマ」「評価」のほど、よろしくお願いいたします。

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