301 - 「黄金のガチョウのダンジョン15―敵の味方」


 黄色の全身甲冑に身を包んだ者たちが、菫色の空に光の線を描く。


 光の線は、また別の光を放ち、それらが再び無数の細かい線となって空を飛び交う。


 線が重なる度、鼓膜を震わせるほどの爆発が立て続けに起こり、いつの間にか空からは魔力マナの残滓らしき光の煌めきが舞い落ちてきていた。



(なんだ……? 何が起きてる……?)



 一見、ヴィリングハウゼン組合の一方的な集中砲火が続いているように思えたが、マサトは目の前の光景に違和感を感じていた。


 時折、目の前の光景が急に切り替わる瞬間があるのだ。



(まさか……)



 マサトの脳裏に、時魔法という単語が浮かぶ。



菫色の四ツ葉ヴァイオレット・クローバーは、時系統の能力なのか?)



 魔法系統として、紛れもなく頂点に位置するといわれる『時系統』。


 時の流れに身を委ねる生物全てにとって抗うことができないその系統魔法は、MEでも多くの禁止カードを生み出すきっかけとなってきた能力のひとつである。



(十分あり得るな……幸運の四ツ葉ラッキー・クローバーシリーズなら尚更。だが、どうする……?)



 時を止めることができる相手に、対策がない状態で挑むには相当なリスクが伴う。


 だが、手がないというわけではなかった。


 時系統は強力ゆえ、カード設計上、マナ消費が相当激しくなるように設定されるというのが常識だったからだ。



(いくら相手が神クラス相応の世界主ワールド・ロードだとしても、連発していたらすぐに消耗するはず……)



 ヴィリングハウゼン組合の者たちが対応できているのは、事前に時魔法に対する魔導具アーティファクトか何かで対策してきたからだろう。


 いくら最強と名高い時魔法でも、対策されれば無力になる。


 すると、空で一際大きな爆発が起こった。


 直後、モンスターの咆哮が轟き、衝撃波が周囲の爆煙とともに甲冑の戦士たちを吹き飛ばしたのが見える。


 だが、そこまで大きなダメージはないようで、距離を取らされた甲冑の戦士たちが、再び突撃の構えを見せたところで、マサトは妙な感覚に襲われた。



(今度はなんだ……?)



 その違和感に気付くのに、そう時間はかからなかった。



(時が……止まっている……?)



 空に浮かぶ戦士たちはその場から動いていない。


 雲も、衝撃波で宙に舞った草木までも、まるで静止画のようにその場で停止していた。



「どういうことだ……?」



 だが、マサトは動けた。


 周囲を見渡すと、チョウジやアシダカだけでなく、シャルルやヴァート、パークスまでも微動だにしていない。


 ふと視線を感じ、上空へと顔を向けると、黄色に輝く戦士たちに包囲された菫色のモンスター、その胸部に視線が吸い寄せられた。


 モンスターの胸部には、菫色の長い髪を風に靡かせた少女の上半身が生えている。


 マサトが目を凝らすと、少女の金色の瞳と合った気がした。


 少女は、懇願するような表情だった。


 すると、不意に頭の中に声が響いた。


 少女の声だ。



『お願いです。どうか、私に力を貸してください。どうか……』


「……なぜ?」



 なぜ力を貸さなければいけないのか。


 なぜ助けを求めてきたのか。


 なぜ俺なのか。


 多くの疑問が一度に押し寄せてきた結果、思わず簡潔な質問となって口を出る。


 マサトの問いに、少女は意味深な答えを返した。



『私は、あなたを知っています。あなたの魔力マナは、とても特別で、あの人と同じだから……』


「あの人……? 誰のことだ……?」



 その時、少女を包囲していた甲冑の戦士たちが次々に輝き始めた。



『もう時間が……どうか、助けて……ジェイ……』



 その名前を聞き、衝撃が身体を駆け巡った。



「まさか……兄」



 ジェイとは、兄がよくMEで好んで使っていたハンドルネームのひとつだ。


 正式にはJ・エースという名を使い、仲間内からはジェイと呼ばれていた。


 新たな疑問が複数生まれるが、少女に問いかける時間はなく、急に時が戻る。


 地上を突風が駆け抜け、空では光に包まれた甲冑の戦士たちが再び一斉攻撃を仕掛けようと動いていた。



「クソッ!!」



 予期せぬ事態に、思わず悪態が口に出ると、隣にいたチョウジがぎょっとした。



「い、いきなりどうしたんスか?」


「やるしかないのか……」


「な、なにをッスか?」



 タコスとは、このダンジョン攻略の後に、この世界やベルについて詳しく話す約束をした。


 今、少女とその母体となるモンスターを助けることは、そのタコスを裏切ることに繋がる。


 モンスターとタコス、どちらが信用できるのかと問われれば、どちらもマサトにとっては初対面であり、大差はない。


 だが、情報の重要性は、少女が齎した情報の方が明らかに上であり、何よりも、マサト自身、ここで少女を見捨ててはいけないような胸騒ぎがしていた。



(よりによってこのタイミングで……クソッ……)



 心のなかでも悪態をつきつつも、腹を決める。


 この世界に来る原因となった兄に関する情報は、マサトにとっては最優先事項だった。



「全員聞け! 今から俺たちはあの少女の声の主を助ける!!」



 当然、チョウジやアシダカが驚愕しつつ聞き返してきた。



「ぃえ!? いきなり!? なぜそうなるんスか!?」


「マ、マサト様!?」


「チョウジは自由にしろ! だが邪魔はするな! 邪魔すれば命の保証はできない!」


「そ、そんな!? わ、分かったッス! なんかよく分かんないけど、大人しくしてるッス!!」


「アシダカ、パークス、ヴァート。理由は後で説明する。今は俺に従ってくれ」


「しょ、承知しました!」


「やれやれ、まさかの展開ですね。ダンジョン攻略のはずが、ダンジョンの主を助けることになるなんて」


「父ちゃん、分かったよ! あのドラゴンを助ければいいんだよね!?」



 疑問は大いにあるだろうが、無条件で無理な方針転換を受け入れてくれる3人に、申し訳ない気持ちが湧きつつも、その信頼感が同時に頼もしく感じ、嬉しい気持ちになる。



「ああ、だが、無理はするな。ヴァートは自分の身を守ることを最優先してくれればいい。シャルル、今回は俺に力を貸してくれ」


「仰せのままに」


「ヴィリングハウゼン組合も必死に抵抗してくるだろう。命の取り合いになることは覚悟してほしい」



 その言葉に、全員が真剣な表情で頷く。



「シャルル、行くぞ!!」


「はい、旦那様」



 そう告げ、炎の翼ウィングス・オブ・フレイムを展開すると、目の前に複数の人影が立ちはだかった。


 腐敗の運び手ロット・ライダーの荒くれ者どもだ。


 先頭に立った一際体格の大きい男――ジャコ・シャ・コが首に手を当てながら口を開く。



「オレの聞き間違いならいいんだがよぉ、お前らまさかヴィリングハウゼン組合とやり合うつもりか?」



 だが、マサトは鬱陶しいとばかりに、手に持っていた黒杖を水平に振った。



「邪魔だ」



 黒杖の先から放たれた複数の雷撃が、宙を不規則に飛び交い、地面や荒くれ者たちを穿つと、その衝撃で爆発が起き、地面ごと荒くれ者たちを吹き飛ばした。



「うわぁああ!?」

「ぎぃやぁああ!?」



 爆発の衝撃を受けて吹き飛ばされた男たちから悲鳴があがる。


 間一髪、その場から退避に成功したジャコが敵意を剥き出しにしつつ吠えた。



「チィッ! やりやがったなッ!?」



 だが、マサトは気にせずパークスに後を託した。



「パークス、後は任せる」


「はぁ、人使いの荒さは黒崖クロガケと大差ないですね。類は友を呼ぶということでしょうか。いや、この場合は似た者夫婦という方が合ってますかね」


「ヴァートを頼んだぞ」


「あなたに言われなくとも、私の弟子は、この程度のことで死ぬような軟弱な鍛え方はしていませんよ」


「なら安心だ」



 背中から炎を噴射し、急加速で上昇。


 ジャコもそれに合わせて動こうとしたが、パークスが真空の刃を放って牽制し、ジャコの追従を阻止してみせた。


 ジャコはそのままパークスと対峙することになり、シャルルはしっかりと付かず離れずの距離で追従してきている。


 上級悪魔ハイ・デーモンは引き続きヴァートの護衛に付けたままだが、複数の中級悪魔ミドル・デーモンはこちらの援軍として向かわせるよう指示を出した。


 混戦になった時に、敵の注意をうまく引き付けてくれるだろう。


 問題は、タコスたちの実力だ。


 動きの速さからして、全員、相当な手練であることは間違いなく、厄介な魔導具アーティファクトを所持している可能性も高い。


 当然、一対多の状況はできる限り避けるべきである。



(もう少し手数が必要か)



 左手でマナを練り、そのまま召喚を行使。



舞い踊る人面鳥の群れダンシング・ハーピーズ、召喚」


【R】 舞い踊る人面鳥の群れダンシング・ハーピーズ、(青×2)(黒×2)(1)(X)、「ソーサリー ― ハーピー」、[X:舞い踊る人面鳥ダンシング・ハーピー召喚X。舞い踊る人面鳥ダンシング・ハーピーは、[飛行] をもつ2/1のハーピーとして扱う]



 マサトの左手から青と黒の光の粒子が迸り、空中に翼の生えた人形を作り出す。


 40階層守護者である夜想曲を奏でる人面鳥ノクターン・ハーピーが引き連れていたハーピーの手下だ。


 光の粒子で形取られたハーピーが続々と出来上がっていくと、暫くして左腕に鋭い痛みとともに、バチバチと白い稲妻が走った。



「クッ……これ以上は無理か……」



 左腕に走った鋭い痛みに顔を顰めつつも、召喚に成功した舞い踊る人面鳥ダンシング・ハーピーに命令を下す。


 その数、約60体。



「散れ」



――キィィイイ! キィィイイ!



 ハーピーの甲高い鳴き声が響く。


 突如現れたモンスターの群れと、急接近してきたマサトに、後方部隊と思わしき者たちが振り向き、即座に空中で陣形を組み直した。


 恐らく、予め想定された動きなのだろう。


 その様子からも、軍隊として相当な練度の高さが窺える。


 交戦中のタコスたち主力部隊とはまだ距離があるため、戦いを中断させるには、まずはこの部隊を突破する必要があった。


 すると、隊長格らしき1人が前に出てきて告げた。



「そこで止まりなさい! 私は第五班隊長のサヤよ! この戦いは手出し無用だと、あなたとは既に合意が取れているはず!!」



 女性の声だった。


 顔は兜で半分以上隠れているため、口元しか見えないが、兜からはワンテールにした白磁色はくじいろの三編みが覗いており、それがタコスの横にいた側近らしき女性だと気付く。

 


「至急、タコスさんに伝えてほしい。今すぐ戦いを止めるようにと」


「なんですって……!? 理由はなんですか!?」


「その少女の声の主に関わることだ。だから今すぐ攻撃を止めてほしい」



 サヤは一瞬迷った様子だったが、すぐに結論を出した。



「それはできません。今攻撃の手を緩めれば、今度はこちらが危険になります。それに、約束をすぐ反故にするような方の要望は、この緊急時では到底聞き入れられません」



 最もな理由だ。


 そもそも、この場であったばかりで身元がはっきりとしない流浪の冒険者の言葉を信用しろという方が難しい。


 それでも彼女に一瞬答えを悩ませたのは、マサトが上級悪魔ハイ・デーモンを引き連れた実力者だと判断しているからだろう。



(仕方ないか……)



 説得が無理なら、力尽くで止めさせるしかない。



「肉裂きファージ、召喚」


【R】 肉裂きファージ、4/4、(黒×3)、「モンスター ― ファージ」、[飛行] [毎ターン:ライフ消失Lv5] [与ダメージX:稚児ファージ0/1召喚X]


 

 マサトの左手から溢れた黒い光の粒子が、ひとつの球体を作る。


 それは徐々に大きくなり、瞬く間に数メートルはある大きな球体に膨れ上がると、中で何かが蠢き始めた。


 これには、相対していたサヤも警戒心を最大まで高める。



「また召喚!? あなたは一体何をするつもりですか!? 今すぐそれを止めないと、敵と見なしますよ!?」



 全身甲冑に身を包んだヴィリングハウゼン組合の者たちが武器を構え直し、サヤのすぐ後方に、新たに2人ほど付いた。


 サヤの援護にすぐ回れるであろう良いポジションだ。


 おそらく、副隊長クラスか、サヤの側近か、何かだろう。


 隊長格であるサヤには劣るが、周囲にいる者たちよりも少し甲冑が豪華で、纏っている気迫や発せられる圧も強い。



(俺にとっては突破し難い、嫌な配置だな……)



 双方の間に張り詰めた空気が流れる。


 その間も、黒い球体はもごもごと何かが中で蠢いていた。



『シャルル、ファージの咆哮を合図に突撃するぞ』


『はい、旦那様』



 シャルルに念で指示を出し、その瞬間を待つ。


 すぐ返答がないことを不審に思ったサヤが、マサトへ警告しようとした刹那――黒い球体が弾け、中から首の先が大きな口となっている異形のモンスターが姿を現した。



――キシャァアアアアアアアアア!!



 同時に耳を劈く奇声。


 翼と凶悪な鉤爪を持った、頭部のない異形のモンスター――肉裂きファージによる超音波声バインドボイスだ。



「ぐっ……」



 突然の超音波声バインドボイスに、サヤ含めヴィリングハウゼン組合の者たちの動きが一瞬止まる。


 その隙に、マサトが黒杖から強力な雷撃を放つと、シャルルが闇魔法攻撃で他の者たちの命を刈り取りにかかった。



「ぃッッッッ!?」



 出力を高めた強力な雷撃が命中し、サヤが声にならない絶叫をあげる。


 マサトはそのまま黒杖を巧みに振り回し、サヤの後方に控えていた者たちへも雷撃を命中させた。



「ぐぅああッ!?」

「あがぁあッ!?」



 雷撃の尾が消えると、感電状態が解除されたサヤとその側近ふたりが、甲冑の隙間から黒い煙の尾を引きながら、力なく落下し始めた。


 だが、落下途中で意識を取り戻したのか、サヤの手足がぎこちなく動く。


 身体が痺れているのか、体勢を立て直すまでにはいたらないが、落下速度は明らかに減速していた。



(あれを耐えるか……黒杖の雷撃は雷魔法攻撃Lv5だが、それよりも防御力が上か、それとも、あの鎧の魔法抵抗がかなり強いだけか……)



 黒杖の雷魔法を耐えたサヤの評価を改めつつも、マサトはすかさず黒杖から雷撃を次々に放ち、障害となる者たちを撃ち落としていく。


 そうして相手の陣形を突破するのに成功したマサトは、そのままタコスたちが交戦している方へ加速。


 シャルルもマサトの後に続いた。


 マサトたちに突破された者たちが、この不測の事態に焦る。



「な、なんてことだ……サヤ隊長がやられたぞ!」

「魔笛を鳴らせ! 緊急事態だ!」

「なんだあの黒い怪物は……!?」

「くっ、気を付けろ! ハーピーの群れだ!」

「これ以上突破されるな! 応戦しろ!!」



 司令塔がやられた上に、続けざまに肉裂きファージとハーピーの群れに強襲されたことで、統率を欠き始めたようだ。


 そのお陰で、マサトとシャルルの後を追おうとした者たちも、その場での応戦を余儀なくされていた。



(後少し……)



 少女の声の主と交戦中の場所へ近付く。


 主戦場となった空では、絶えず黄色の光の線が四方を舞っており、今も激しい攻防が繰り広げられている。


 すると、周囲を大きく包囲していた者たちが、急接近してきたマサトを警戒するように陣形を組み始めた。


 その中のひとりが叫ぶ。



「そこで止まれ! でないと攻撃する!!」



 攻撃される前に先制しようと、マサトが黒杖を向けると、その間に大きな光が割って入ってきた。


 光が空中で停止すると、それが目に見えるほどの濃厚な魔力マナの粒子を纏った、全身甲冑姿の大男だと分かった。


 その大男が口を開く。



「これは、一体どういうことですかな……? マサト殿」



 怒りを押し殺したような声が響く。


 その大男は、ヴィリングハウゼン組合の首領、タコスだった。


 マサトが答える。



「約束を破ることになってしまい、申し訳ない。こちらにも、引けない理由ができました。今回は手を引いてくれませんか?」



 駄目元で聞くも、返ってきた答えは予想通り、怒りを滲ませた言葉だけだ。



「その程度の説明で、我輩たちが承知できるとでも……?」



 兜の隙間から覗く、獲物を射殺すほどに鋭いタコスの視線。


 その視線と圧を正面から受けたマサトだったが、マサトは表情ひとつ変えずに淡々と答えた。



「であれば、せめて少しだけ話をさせてください。あの声の主と」



 猛烈な圧を受けても尚、余裕を崩さないマサトに、タコスが探るような目で問いかける。


 タコスとしても、マサトの実力をはかりかねていたのだ。



「さては、あの声に誑かされましたな?」


「その可能性は否定しません。それを確かめるために話を……」



 可能な限り戦闘を避けようと努力したマサトだったが、一度外れた歯車は、そう簡単には元に戻すことが出来なかった。


 マサトと、すぐ後ろに待機していたシャルルを囲うように、地上から光の柱が迸ったのだ。



「これは……」



 マサトの疑問に、タコスが答える。



「これが答えですな。マサト殿はあの声の主がどういう存在か分かっておらんのです。あれは人の存在など歯牙にも掛けない高次元の精霊ですぞ? 我輩たちを不意打ちしてきたのが何よりの証拠。マサト殿の処遇は後ほど決めるゆえ、今はそこで大人しくしていてくだされ」



 そう告げると、マサトの返事を待たずに踵を返した。


 こうしてマサトと話している間も、少女の声の主と、ヴィリングハウゼン組合の主力部隊と思わしき者たちとの戦いは続いている。


 タコスもその戦いに戻るつもりなのだろう。



(このまま背中を見せるということは、余程自信のある拘束系の魔導具アーティファクトか何かということか……)



 光の柱を見てマサトがそう判断する。


 試しに、タコスの背中へ向けて、黒杖から雷撃を放ってみるも、光の柱から発せられた光に阻まれて霧散してしまった。


 それを見たヴィリングハウゼン組合のひとりが笑う。



「無理無理。これはあの世界主ワールド・ロードを捕らえるために持ってきた貴重な代物なんだぜ〜? まさかこれを人に使うことになるとは思わなかったけど」



 すると、その発言者の近くにいた者が慌てて会話を遮った。



「カ、カシ隊長! 対象との会話はご法度ですよ!」


「おっと、ごめ。つい」



 笑った者は、どうやら隊長格のようだ。


 よく見れば、苦言を呈した者よりも甲冑が豪華だった。



(これが魔導具アーティファクトなら……)



 マサトが周囲を見渡す。



(あれが母体か……?)



 3本の光の柱の中に、それぞれ白い水晶のようなものを見つける。


 マサトはその水晶へと左手を向けると、魔法を行使した。

 


遺物腐敗デコンポジション


【UC】 遺物腐敗デコンポジション、(黒)、「エンチャント ― アーティファクト」、[魔導具破壊Lv3] [腐敗Lv1]



 マサトの左手から黒い光の粒子が舞い上がると、同じタイミングで、対象の水晶も黒い光の粒子に包まれた。


 黒い光の粒子に侵食されるように、白い光を放っていた水晶が黒く変色していくと、無数のひびが入り始める。



「……え? 一体何を……」



 異変に気付いたカシが、水晶とマサトを交互に見る。


 その直後、水晶が音を立てて弾け飛び、マサトとシャルルを囲んでいた3本の光の柱の1つが霧散した。



「ま、まさか……そんな馬鹿な……遮断する白いプリズムホワイトプリズムアレイがこんな簡単に壊されるなんて……」



 驚愕するカシに向けて、マサトが黒杖を向ける。



「想定外だったか?」


「冗談だろ……ありえないって……」



 マサトが光を放っていた水晶体を破壊してみせたことが納得できないのか、口元を引きつらせながらぶつぶつと独り言を呟くカシへ向けて、マサトは容赦なく雷撃を放った。



――――――――――――――――――――

▼おまけ


【UR】 無気力のカシ、1/2、(4)、「モンスター ― 人族」、[魔導具操作魔法Lv4] [魔導具からのダメージ軽減Lv4] [魔導具装備コスト軽減Lv4] [魔導具使用コスト軽減Lv1] [魔導具の異次元収納容量3]

「ヴィリングハウゼン組合の第六班隊長。魔導具の扱いに長けており、その分野にかけての才能は帝国一だとか。ただ、基本的にやる気がないため、部隊員から無気力のカシと呼ばれているらしい。でも、「無気力」とついた本来の由来は別にあるのかも……?要調査――冒険者ギルド受付嬢オミオの手帳」



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