292 - 「黄金のガチョウのダンジョン6―乱入者」
(
一部始終を見ていたチョウジが、マサトの戦闘力の高さに唖然とする。
(いや、もしかしたらあの黒い杖が相当強力な
そう分析するも、
それを装備して使いこなしている時点で、その人物の評価は大きく変わる。
(まともにやりあったら、さすがの自分でも危ないッスね……黒髪の姐さんはべらぼうに強いし。攻撃に関してはうちの姐さん以上かも……)
チョウジが眉間にシワを寄せながら考え込んでいると、アシダカが遠方の空を指した。
さきほど水柱が豪快に噴き上がった方角だ。
「
黒い樹木の上に、巨大なカニの頭が覗いている。
「マジッスか……ってことは、ここからはまだ見えないだけで、硬くて物騒な
アシダカが冷や汗を浮かべ、チョウジが呆れかけていると、ヴァートが聞いた。
「ものすごく大きいけど、やっぱ強いの?」
アシダカが答える。
「はい、
「あんな大きいのに自分を回復する能力ももってるんだ」
「はい……とはいえ、
「げぇ……」
ヴァートも難しい顔をする。
黄金のガチョウのダンジョンでは、皇帝ミオトラグス・オクトが最初の難所として、
この2体に限っては、一定水準以上の攻撃力を備えたパーティでなければ攻略が不可能だからだ。
すると、目を凝らしていたチョウジが何か違和感に気付いた。
「ちょ、ちょっとタンマ! あのカニの背中……何か咲いてないスか……?」
「まさか……!!」
アシダカが細い目を見開き、叫んだ。
「
「よりによって魔法が効かない変異カニッスか……」
「ま、魔法が効かないだって?」
チョウジが頭を抱え、ヴァートが聞き直すと、冷や汗を流し始めたアシダカが答えた。
「はい、
「そんな凄いやつが出てきたんだ……でも大丈夫だよ。父ちゃんや師匠がいるし」
話を聞いて驚くも、大丈夫だと自信満々に言い切ったヴァートに、アシダカがハッとなる。
「そうでした。マサト様とパークス様がいらっしゃるなら、何も心配することはありませんでした。私たちは目の前の皇帝ミオトラグス・オクトに集中するとしましょう」
「ああ! おれたちも負けてらんないよ! やってやろう!」
そう言うや否や、ヴァートが勢いよく柏手を打った。
何事かとチョウジがヴァートを見るも、ヴァートはそのまま地面へ両手を付け、詠唱を開始。
「冥界に君臨せし不遜なる混沌の王よ、終焉を望む我が血と
地面に発現した魔法陣が、黒い煙とともに紫色の光を放つ。
「眷属召喚!
詠唱が完了すると同時に、魔法陣の上を光と黒い煙の放流が起こり、その直後、勢い良く弾けた。
突風が駆け抜け、獣の遠吠えが響く。
――オォォオオオオオン!!
漆黒の身体に黒炎を身に纏った大狼が、鋭い牙を剥き出しにしながら姿を現す。
(なっ!? こんな少年が召喚魔法!? しかも
チョウジが口を開けて驚くと、その反応を見て少し浮かれた表情に変わったヴァートが話を続ける。
「じゃあ、おれが影で壁を作って敵の足止めをしてみるから、アシダカさんとチョウジさんは、
「承知しました」
「お、おうッス」
ふたりの返事に頷いたヴァートが黒い靄を纏って空に飛び上がる。
(召喚魔法だけじゃなく、飛行魔法まで……まだ若いのに、ちと優秀過ぎやしないスか……)
チョウジが感心していると、近くで禍々しいオーラを察知し、一瞬身体が強張った。
(な、なんスか!?)
気配がした方角に振り向く。
「んなッ!?」
あまりの驚きに、思わず短い悲鳴をあげたチョウジ。
その視線の先には、立派な角を生やした、漆黒の翼をもつ大型の
それも1体ではなく、3体も。
(あの威圧感、まさか
チョウジが一歩後退ったのと、2体の
「は、
チョウジが攻撃態勢に移ろうとする。
だが、それをアシダカが慌てて止めた。
「よく見てください! あれは味方です! シャルル様が召喚された眷属です!」
「しょ、召喚……? ど、どういう……」
そこまで言葉を発し、マサトがシャルルに
その時はあり得ない内容過ぎて理解できなかったが、その言葉の通りだったのだとようやく理解が追いつく。
「あの姐さんまで召喚魔法が使えるんスか……しかも
ほんまもんの化け物だと、チョウジがシャルルの評価を更に数段階引き上げていると、ヴァートが叫んだ。
「ふたりとも何してるの! 早く!」
「すみません、ヴァート様。今向かいますので」
「あ、ああ、わりぃッス」
ふたりが走る頭上を、大きな翼を広げた
(これはわざわざ死ななくてもこのフロアから脱出できるんじゃ……)
◇◇◇
(シャルルはまだ召喚してたのか……)
どうやら、
3体の
その先の空では、先に召喚した数体の
群がる
(この調子なら、
その考えは正しいように思えたが、既にシャルルと
仲間を増やす能力をもったモンスターは早めに仕留めておいた方がいい。
ヴァートたちは50階層守護者である皇帝ミオトラグス・オクトへと既に動き出している。
巨大な山羊のような獣の群れが、幹が黒く染まった木々を問答無用でなぎ倒して突進してくる様子は、何者にも彼らの突進を止めることができないと錯覚させるほどの力強さを感じたが、2体の
すると、パークスが向かった方角から大型の竜巻が発生した。
パークスは60階層守護者、泥棒王メガ・クロオウチュウの対処へと向かっていたはずで、敵をまとめて一掃するためにパークスが放ったものだろう。
(向こうも始まったか)
続々と戦いの火蓋が切られていく。
一通りマナの回収を終えると、目の前にシステムメッセージが表示された。
『
『
【R】
【UC】
X呪文の召喚カードと守護者、両方のカードドロップに喜ぶ。
(よし、ついてる。一度、ヴァートたちの加勢に向かうか、それとも――)
遠くに出現した巨大なカニは、動きが遅いのか一向に近付いてくる気配はない。
だが、それはそれで気になった。
攻めてくるモンスターであれば迎え撃てばいいが、守りを固めていくタイプのモンスターであれば、時間の経過とともに不利になるのはこちら側だ。
(先にあれを片付けるか)
マサトが巨大カニへ向かって飛行速度をあげる。
(でかいな……)
遠くからでもその大きさは認識していたが、接近したことでその大きさがより鮮明になる。
サッカーコートほどの広さがありそうな背中には、菫色の花が無数に咲いており、それがカニの背中だとは思えないほどに美しい花畑になっていた。
よくよく目を凝らして見てみれば、その花畑には赤い色の蝶のような生き物が無数に舞っている。
そして、周囲一面が水場だと錯覚するほどの青いカニで溢れており、巨大なカニの足にも大量の青いカニがびっしりとくっついていた。
どうやら予想が当たったようだ。
(ここで兵士となるカニを量産していたから動かなかったのか。早いうちに片付けておこう)
黒杖を翳し、再び積乱雲を作り出そうとしたその時――。
マサトと巨大カニのちょうど中間地点に、上空から光の柱が地上へと伸びた。
(なんだ……?)
光の柱はすぐに消えた。
男女ふたりの冒険者を残して。
凛とした装いの女が周囲を見渡しながら口を開く。
「なに……ここ……?」
同じく、周囲を見渡していた男が続く。
「どうやらワープポイントに細工されたようだな」
「だとしても、こんな不気味な巨大フロア聞いたこともないわ」
女は驚いているようだったが、すぐ目先の巨大なカニに気付くと、声を荒げた。
「
「いや、あれは
「変異種!? よりによってこんな時に!?」
「偶然ならいいが、そういうフロアに意図的に飛ばされたとなれば、話が変わってくるな。時間稼ぎが目的か、あるいは……」
別の気配に気付いたのか、ふたりが同時にマサトの方へ振り向く。
動揺した気配はなく、真剣な表情だ。
「待ち伏せされているか、だ」
男がそう話すと、女が剣を抜いた。
「
――――――――――――――――――――
▼おまけ
【C】 コオイムシの幼虫、0/1、(緑)、「モンスター ― 昆虫」、[(緑×2)(X):
「良く火を通せば煎餅感覚で食べれる。味も悪くない――パラベドの日記」
【UC】
「菫色のモンスターハウス、攻略1日目。通常階層の出現時よりも大きい気がするが、気の所為だろうか。少し手間取ったが討伐に成功する。強い泥の臭みはあるが、非常食として食えないほどではない――パラベドの日記」
【C】
「菫色のモンスターハウス、攻略2日目。こいつらが夜な夜な襲ってくるせいで、満足に仮眠すら取れなかったが、奴らは土や水の中であれば攻撃してこれないことが分かった。これで少しは眠れそうだ――パラベドの日記」
【UC】
「菫色のモンスターハウス、攻略3日目。ようやく
【R】
「菫色のモンスターハウス、攻略4日目。疲労が溜まってきている状況下で、
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