204 - 「プレイヤー2」
プレイヤーの死体を
魔法抵抗の効果を持つとされる魔法金庫から、布の小袋にしまってあった時の秘宝を取り出し、青く輝くその宝石を眺めながら思考に耽る。
(これで時を戻せる。もう一度やり直せれば、きっとフロンとシュビラを死なせずに済む。でも、これの使い方は……)
あいつはMEプレイヤーなら常識みたいに言っていたが、俺は知らない。
俺は根っからのMEプレイヤーという訳ではないので、例えそれが有名なカードでも知らないこともある。
それ自体に不思議はないのだが……
(使い方を知っているのはあいつだけか…… 問題はどうやって聞き出すか、だな)
すると、視界の端で何かが光った気がした直後、突然「いってぇ!?」という叫び声とともに本棚が倒れた。
「誰だ!?」
「マサト、何をしてる。怪しい奴につけられていたぞ」
倒れた本棚とは反対方向から、聞き覚えのある声が聞こえるも、姿は見えない。
すると、ドア付近の影から、レイアとカジートが現れた。
「付けられてた? まさか……」
本棚の方へ視線を向けると、のしかかった本の山をかき分けるようにして本を退けながら、カーキ色のモッズコートに身を包んだ茶髪の男が姿を現した。
「くっそ…… なんでバレるんだよ!
舞い上がった埃にカジートが咳込みながら応じる。
「ゴホッゴホッ…… はぁ、どんな刺客かと思えば、気配の消し方も知らない素人の餓鬼じゃないか。見ない服装だが、一体どこから来た? 何者だ?」
カジートの質問に、男は手に持っていた薄布を破り捨てながら怒鳴った。
「気配ってなんだよクソが! MEに、そんな設定ねーよ!」
そう言って本を蹴り飛ばす男の言動を見たレイアが、顔をしかめながら俺に質問する。
「マサト、こいつは何を言ってるんだ?」
「そいつは俺と同じマジックイーター。俺と同じ世界から来てる」
「「なに!?」」
レイアとカジートの緊張が一気に高まる。
「だけど、そいつも恐らくクローン。外で一人殺したはずだけど、他に何体いるかは分からない。本体が別にいることは確実なんだけど」
「クローン……」
俺の話を聞いて、レイアとカジートが戦闘態勢に入る。
レイアのアイコンタクトに無言で頷くカジート。
さすが元
レイアとの連携は申し分なさそうだ。
ただ、頼もしいと思う反面、俺の心情は複雑だった。
相手の動きに対応できるように連携する合図だと理解しているのに、アイコンタクトで意思疎通できる二人を見て胸がチクリと痛む。
(いつの間にそこまで阿吽の連携ができるようになったんだろ……)
フロンとシュビラが死んでから、レイアとはあまり話をしなくなった。
レイアだけじゃない。
他の皆とも会話をする機会が激減した。
皆が俺を避けていたとかそういうのではない。
皆は落ち込んだ俺を励まそうと色々気を遣ってくれたほどだ。
多少、俺が邪魔になったフロンを自殺に見せかけて殺したとか、そういった低俗なデマは街に流れたが……
自分勝手な理由なのは分かっているが、何となく、人と話す気分になれなかっただけだ。
俺が皆を避けていただけ。
フロンの自殺を止められなかった後悔と、信頼していたシュビラを失った喪失感と向き合うだけでいっぱいいっぱいだった。
「マサト! 呆けっとするな!!」
レイアの怒鳴り声にハッとなる。
(馬鹿か俺は! 敵を前に……)
意識を急いで目の前の男へ戻す。
だが、茶髪の男は右手をこちらへ向けて伸ばし、ニヤリと笑いながら呪文を行使するところだった。
「
「
男の呪文行使に対し、カジートが間髪入れず
カジートの思わぬ抵抗に、男の目が大きく見開かれる。
「はぁっ!? んざけんな! なんで
男が勝手に勘違いをし始める。
「ぷれいやー……?」
何を言われたのか分からないカジートの反応に、男は強張った頬を緩めて笑った。
どうやら、自己解決したようだ。
「ハッ、驚かせんなよ。
だが、次の瞬間、余裕を見せた男の視線が泳いだ。
いつの間にか、男の身体には、無数の影が巻き付き、首には鈍く光るナイフが突き付けられていたのだ。
勿論、それをやったのは男の背後にいるレイアだ。
「質問には簡潔に答えろ。何者だ」
レイアの問い掛けに、男が「くはは」と笑うとレイアが微かに動き、男は「ぎぃゃっ!?」という短い悲鳴をあげた。
いつぞやのように、拘束した相手の背中を別のナイフで刺したのだろう。
こういう時のレイアは容赦がない。
「質問には簡潔に答えろ。次はない。何者だ」
「う、うっせぇーんだよク……クッソォオ!?」
男がレイアを振り解こうと力を込めたのが分かったが、力尽くで影の拘束を解けなかったようだ。
「く、くそ、なんだよこの影!!」
レイアが男の背中を再び刺すと、男は「や、やめろぉ!」と泣きながら悲鳴をあげた。
「レイア、もういいよ。その辺で」
「……対応を甘くすると足元をすくわれるぞ」
「大丈夫」
レイアに疑いの目で見られる。
どうやら、いつの間にかレイアからの信用も下がってしまったようだ。
自業自得だと思うが、かなり切ない。
だが、対応を甘くするつもりはなかった。
良心の呵責は、もはや微塵も感じない。
恐らく、相手がクローンじゃなくても――
「大丈夫。手っ取り早く、こうするだけだから――
[SR]
[召喚時:モンスタートレードLv7]
[飛行]
[与ダメージX:ライフ回復LvX]
白金色の光の粒子が、宝石のようにキラキラと輝きながら部屋一面に弾け飛ぶ。
その直後、部屋の中央に、白金の身体に金粉が神々しい、ロボットのような無機質な天使が姿を現した。
「あいつとトレードだ」
クローンの男を指差す。
すると、天使の繋がりが消え、新たに男の繋がりが生まれた。
その繋がりを確認した俺は、間髪入れず次の呪文を行使する。
「
[UC]
[手札送還LvX]
「これで、そのクローンは俺の支配下になった。さぁ、時の秘宝の使い方を教えてもらおうか」
◇◇◇
「おいおいおいおい! んだよあいつ! んざけんな! あいつ! あいつ今何した!?」
忠は酷く焦っていた。
自分をコピーさせたクローン変異種とは意識が繋がっているが、監視役として忍び込ませたクローンから得た情報が、自分達の予想と大きく違っていたのだ。
忠は、相手を応用力のない自己強化型の赤単デッキだと考えていた。
だが、この土壇場で、自分と同じパーミッション系の可能性も出てきた。
それも、よりによって自分のクローン変異種デッキと噛み合わせの悪い
クローン変異種のもつ [魔法無敵] は、除去魔法に圧倒的な耐性をもつが、
クローンを単騎で送り込めば、ほぼ確実に相手に奪われてしまうであろうことは容易に想像できた。
「んだよ! ふざけんな! なんだよ
忠の動揺と苛立ちは、クローン達も同じように感じていた。
忠とともにクローン達も騒ぐ。
「自己強化型のデッキじゃないだと!?
「どうすんだ!? オレ達片っ端からパクられるぞ!?」
「敵に
「待て待て…… じゃなんだ? あいつも打ち消し呪文持ってるってことか!? なら打ち消し合戦になったらマズイぞ! カジートっていう
「あのレイアって呼ばれたダークエルフも厄介だろ! 影から現れたり、影で縛ってきたり。攻撃力を補強したオレでも拘束を解けない影ってなんだよ!? 行動不能系の能力か!?」
「っつか、なんで
「感知能力なんてあったか!? 聞いたことねーぞ!?」
「結局なんだ? あいつは
「待てよ…… そうなると、打ち消し呪文はあまり投入してないんじゃね? 節約の為に、
「百歩譲ってそうだったとして、
クローン達が、答えの出ない疑問に沈黙すると、オリジナルの忠が指の爪を噛みながら、ぶつぶつと話し始めた。
「妙だな…… 他にもプレイヤーがいるか、どっからかカードを入手してるとしか考えられねー。過去にプレイヤーを倒して、そのカードを奪ったっていう説も考慮する必要があるな」
「だとしたらかなり不利だぞ」
「もしや、
「馬鹿そうに見せて実は智慧者? だとしたら、あいつ…… とんだ食わせ者だな」
「おい忠! どうすんだよ! クローン一体パクられたっつーことは、こっちの情報筒抜けじゃねーのか!? それに、今は監視いねーんだろ!? 時の秘宝使われたらお終いだぞ!?」
クローン達に急かされた忠が、舌打ちしつつも命令を下す。
「どっちにしろ、時の秘宝を奪われたこっちには時間がねー。ゆっくり機会を窺いつつ、明日のドローまで待ちたかったが…… 仕方ねー。全員で一気に片をつけるぞ! 軍隊には最初から全軍で突っ込めと命令しとけ!!」
「「「上等! やってやらぁー!
後のなくなった茶髪の男達が空へ飛び立つ。
だが、忠達は気付けなかった。
マサトと自分のカードシステムに、明らかな違いがあることに――
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