181 - 「シルヴァー戦1―黒鋼」
城と並び立つように、巨大な銀色の怪物が姿を現した。
防護帽のようなひし形の頭部をもち、その後頭部からは、無数の触手がメデューサの髪のように生え、天に向かいうねうねと蠢いている。
頭部を支える胴体は、
腕らしい腕がない代わりに、胴体の前後左右からは、頭部と同じような形状の触手が計四本生えている。
地面を突き破る形で突如姿を現したその怪物は、特にそこから這い出ようとすることもなく、ゆっくりと観察するように、巨大な身体を捻りながら周囲を見渡していた。
城の警備兵達は、その怪物を見て慌てふためき、城の中へ逃げるようにして駆け込んでいく。
すると、警備兵達と入れ替わるようにして、城のテラスへ大量の魔導兵を連れた王が現れた。
王都ガザを統治している公国の王――ハインリヒ三世だ。
ハインリヒ三世は、目の前に聳え立つようにして存在している怪物――シルヴァーを見るや否や、そのあまりの大きさに思わず顔をひきつらせた。
「な、なんだあれは…… あ、あれがマサト王とルーデントの申していた銀色の怪物――シルヴァーだとでも言うのか!?」
その高さは、城と並び立つ程だった。
人が立ち向かうには巨大過ぎるその怪物は、軽く見積もっても討伐ランクAA級の魔物――討伐には特殊な専用兵器を必要とする厄災クラスのモンスターだ。
それが突如として街のど真ん中に姿を現した。
その絶望と衝撃は凄まじいものだっただろう。
さすがのハインリヒ三世も、シルヴァーが次の行動を起こすまで呆然としたまま空を見上げ、その場に立ち尽くしてしまったのだった。
◇◇◇
喧騒から一転、一時の静寂が訪れる。
突然の怪物の出現に、大通りに出ていた商人や住民達の誰もが、突如として街の中心に現れた銀色の怪物を見て言葉を失った。
現実として受け止めるには、非現実的な光景過ぎたのだ。
その原因を作った銀色の怪物はというと、城の方角――北を向いて止まり、まるでニヤリと笑うかのように口角を歪ませ、ゆっくりと口を開けた。
黒い亀裂の入った口から、無数の牙が覗く。
その牙を伝うように流れた大粒の涎が、だらりと垂れる。
そして、次の瞬間――
怪物は耳をつんざく程の大咆哮を上げた。
――シィィァァアアアンンンンンッ!!
その咆哮に、怪物を中心とした衝撃波が巻き起こる。
その衝撃は大地を揺らし、周辺の家の窓ガラスを粉々に大破させ、経年劣化で脆くなった家を次々に倒壊させた。
大通りにいた住民は吹き飛ばされ、竜車の地竜や馬は暴れ狂い、いつもの日常的な風景が一転、地獄絵図へと化したのだった。
頑丈なはずの城の外壁も、その衝撃で所々に亀裂が入り、マサトの攻撃でダメージを受けていた西側の壁や塔は、この衝撃波を受けて跡形もなく崩れ落ちた。
満足した様子の怪物は、地面の割れ目から、蛸の足のようにうねる無数の脚を引き抜くと、乱暴に地面へと振り下ろし、今度は近くにあった家を押し潰してみせた。
その行動に、生命の危険を察した住民達の悲鳴が、各地から一斉に上がる。
倒壊した家の下敷きになり、身動きが取れなくなった者――
吹き飛んできたガラスの破片や物が突き刺さり、呻きを上げる者――
手を繋いでいた親を失い、「ママ!? ママ!?」と泣き叫ぶ者――
絶望が絶望を呼び、住民達は恐慌状態に陥っていく。
そして、誰もがこのまま怪物に街を蹂躙される未来を想像した。
そこへ、黒塗りの魔導兵に乗った者達が現れる。
公国が誇る最高戦力にして、最新技術の結晶である搭乗型魔導兵で構成された部隊――ステン率いるアインズ部隊だ。
そのアインズ部隊の隊長であり、ハインリヒ三世の一番弟子でもあるステンの、野太い声が響く。
「我はハインリヒ公国が誇る最強の搭乗型魔導兵部隊、アインズだ! ここは我らアインズが請け負う! 皆は早く城門から外へ退避しろ!!」
ステン率いるアインズ部隊の登場に、その場にいた住民達が冷静さを少し取り戻し、頼もしい味方の登場に喜んだ。
「おお! 魔導兵部隊のアインズ! アインズだ! アインズが守ってくれるぞ!!」
「ステン様だ! ステン様がここに!!」
「ス、ステン様! お、お願いだ! 家内が瓦礫の下敷きになってしまったんだ! ど、どうか助けてくれ!!」
混乱を極める場で、ステンは助ける声に応じて的確に指示を出していく。
「歩兵部隊は住民達の救助と非難指示を! 救護部隊は負傷した者の手当てに回れ! 俺達、魔導兵乗りはあのデカブツを仕留めに行くぞ!!」
「「「オウゥッ!!」」」
歩兵部隊を残し、ステン等魔導兵部隊は怪物の元へ向け移動を開始。
住民達からの思わぬ声援に、ステンはつい口元を緩めた。
「まさか俺達が元王国の住民達にここまで期待される日が来るとはな」
黒塗りの搭乗型魔導兵は、王国に来た当初こそ、侵略者だの死神だの恐怖の対象として揶揄されてきた。
だが、それもこの一瞬で全て覆った。
明確に自分達の脅威となる怪物の存在によって。
「些か現金過ぎる気がするが…… まぁ悪くねぇ」
これで気持ち良く戦えるとステンが気合いを入れ直したその時、目の前に聳え立つ怪物が、その巨体を穴から抜こうと身体を浮かし始めた。
「不味いぞ…… あのデカブツ移動しようとしてやがる! 急げ!!」
「隊長! 瓦礫や負傷者が道に転がっているせいでこれ以上の加速は無理だ! 隊列も長くなってきてる!!」
「くっ! 仕方ない! 推進剤を使え! 空から一気に距離を詰めるぞ!!」
「「「オウゥッ!!」」」
ステン等が搭乗している魔導兵の脚や背中から、青白い光が大量に放出される。
すると、5m以上はある鋼鉄製の塊が宙に浮かび始めた。
「おお! 魔導兵が空を飛んで行くぞ!」
「アインズ部隊がいれば安心だ!」
「どうかお願いします! あの怪物を街から追い払って!!」
住民達の歓声を浴びながら、ステン率いる魔導兵部隊が、悪路となった大通りを飛行し、怪物との距離を一気に詰めていく。
すると、突如、城から紫色の光が無数に放たれた。
その光は怪物へ向けて真っ直ぐ飛び――怪物へ着弾。
紫色の火花とともに、銀色の皮膚が弾け飛んだ。
「あの光は…… 魔導砲!?」
「ハインリヒ様の遠隔操作型魔導兵だ! 魔導砲が効いているぞ!!」
「よぉし! 魔導砲が効くなら俺達でもやれる!!」
銀色の怪物が魔導砲の集中砲火を浴びて怯む。
その様子に、部下達から歓声があがる。
だが、ステンは瞬時に不味いと察し、部下へ命令を飛ばした。
「王が城で応戦中だ! お前達急げ! 俺達がデカブツの注意を引きつけなければ、あのデカブツが王へ牙を剥くぞ!!」
「「「オウゥッ!!」」」
更に推進剤の出力を上げ、怪物との距離を詰めていく。
その間も、王の操作する遠隔操作型魔導兵から放たれたとされる魔導砲が、次々と怪物へ着弾し、嫌がる怪物をゆっくりと後退させていた。
王だけであの怪物を仕留められる。
そう、期待した者も多かった。
空からは、魔導砲が弾き飛ばしたと思われる怪物の肉片が降り注いでいる。
一方的に怪物を圧倒しているように見えるハインリヒの攻勢。
だが、ステンの心は、いけると思い始めた部下達とは対照的に、不安と焦りの気持ちが大きくなっていった。
(くそッ! なんだこの感情はッ!? この嫌な予感はなんだッ!?)
悪い予感ほど的中率の高いものはない。
ステンの予感は、程なくして物の見事に的中した。
「た、大変だ!!」
空から降ってきた銀色の肉片を確認していた部下の一人が、焦った様子で叫ぶ。
「あ、あれは怪物の肉片なんかじゃねぇ! 怪物の塊だ! 空から降ってくるあれは、全て小型の怪物だっ!!」
「何ぃッ!?」
空から地上へと落ちてきた銀色の塊が、落下の衝撃で窪んだ地面の上でぞもぞと動き、ひし形の頭部と一つの鎌のような触手を持った蛇のよう生き物へと姿を変えた。
その生き物は、街路の端で蹲っていた商人を見つけると、滑らかな動作で街路の上を滑るようにするすると移動しながら近寄り、未知の生物に怯える商人の胸へ、その鎌のような鋭利な触手を躊躇なく突き立てた。
「なッ!?」
ステンだけでなく、その光景を見た部下達全員に戦慄が走る。
魔導砲により、怪物の皮膚が剥がれ落ちたのだと思っていたそれは皮膚ではなく、怪物の胴体に付随していた小型の怪物だった。
人族を敵と認識し、地竜や家畜などには目もくれず、真っ先に襲い掛かってくる凶暴性。
人の身体を容易く貫く鋭利な触手。
かなりの高度から落下しても死なない生命力。
そして瓦礫が散乱して悪路となった街路でも蛇のように素早く移動してみせた機動性。
少なく見積もっても討伐ランクB相当だ。
それが大量に空から降ってくる。
集団で行動するモンスターはそれだけで驚異。
討伐ランクB相当の実力だったとしても、それが集団で行動するモンスターであれば、危険度を示す討伐ランクがもう一段階上がる。
つまりは、討伐ランクB+。
一個体に対して、ベテランの冒険者が同数以上必要になる程の戦力となる。
その結論に達したその時、更なる絶望が彼らを襲った。
――シィィァァアアアンンンンンッ!!
本体となる巨大な怪物による、二度目の大咆哮。
その咆哮とともに突風が通りを駆け抜け、突風によって飛ばされた瓦礫が凶器となって、逃げ惑う住民達を襲う。
そして、怪物の身体から次々に剥がれ落ちる銀色の物体。
それは豪雨の如く地上へと降り注ぎ、地上を銀色に染めていった。
「あれが…… あれが全て小型の怪物だと……?」
ステンがそう呟き、最悪な状況に部下達が騒ぎ始める。
「おいおい、小型の怪物が城門へと向かってるぞ! 地上で応戦しなければ、住民が全滅する!!」
「あの銀色の生物を生み出し続けている大元を殺すのが先じゃ!?」
「どうする!? さっきので負傷者もかなり増えたぞ!? 怪我した住民は見捨てるのか!?」
「王の退避命令も聞かずにここに留まった奴等だろ!? 自業自得だ!!」
「どの道全員は助けらんねぇよ! それよりも今はあの親玉を倒すのが先だろうが!!」
騒ぐ部下達へ、ステンが「落ち着けッ!!」と一声で黙らせると、そのまま次の命令を与えた。
「第一、第二部隊は俺とともに地上へ降りて応戦だッ! 怪物を城門へ近寄らせるなッ! 第三部隊はそのまま王への援護へ回れッ!!」
「「「オウゥッ!!」」」
黒塗りの巨兵――搭乗型魔導兵が地に降り立ち、大通りをまだ息のある者達を襲いながら駆け抜けてくる銀色の怪物達に立ち塞がる。
「ステン! どうする!? 逃げてくる住民が魔導砲の射線上だ! 魔導砲は使えないぞ!?」
ステンと昔からの戦友であり、第二部隊の部隊長であるニッケルが叫び、ステンがそれに応じる。
「ちッ! 仕方ねぇッ! 一斉射撃はなしだッ! お前らッ! 逃げてくる住民を守りながら各個撃破しろッ!!」
「相変わらず無茶苦茶な事言いやがって! 分かったよ! やりゃあ良いんだろっ! 行くぞお前らぁっ!!」
「「「オウゥッ!!」」」
紫色の粒子を放つ剣を構えた黒塗りの魔導兵達が、迫り来る銀色の怪物へと立ち向かっていく。
「オラァァアアッ!!」
ステンが操作する魔導兵の一振りで、銀色の怪物は身体を真っ二つにされながら吹き飛んだ。
「魔導光剣は有効だッ! だが油断して背後を取られるなッ!!」
「「「オウゥッ!!」」」
ステン達の搭乗する魔導兵の力は偉大だった。
魔導光剣を振るえば敵は真っ二つ。
対して、敵の鋭い触手は魔導兵の強固な装甲を貫けなかった。
部下達は、自らが搭乗する魔導兵の圧倒的な性能に希望を抱く。
だが、優勢だと感じたのも、ほんの数分間だけだった。
急激に数を増やしていく敵に、魔導兵達が圧倒され始める。
「くっ! ステン不味いぞ! このままじゃジリ貧だ! 陣形も崩れ始めてる!!」
「ああ言われなくても分かってるッ!!」
数分の間に築き上げられた怪物の死体が銀色の小高い山となり、悪い足場を更に悪化させていた。
敵の数は減るどころか増える一方で、ステン達は態勢を整えるため、常に少しずつ後退を余儀なくされている。
(くそッ…… このままじゃ…… 部下達も疲労が溜まって動きが悪くなってやがる…… 連戦するにも
ステンがそう嘆いたその時、前衛にいた仲間の一人が、瓦礫に足を取られて転倒した。
「うわぁっ!?」
「おいッ! 大丈夫かッ!? 不味いッ! すぐあいつのフォローへ回れッ!!」
「駄目だっ! 敵の数が多過ぎる!!」
銀色の怪物が雪崩れ込むように倒れた魔導兵へ群がる。
その波に押され、前衛は後退を余儀なくされた。
「くそッ! 仲間に群がる怪物共に魔導砲の照準を合わせろッ! 誰一人見捨てるなッ!!」
「「「オウゥッ!!」」」
紫色の粒子が黒塗りの魔導兵が持つ武器から舞い上がり、無数の魔導砲が目の前に群がっていた怪物達を吹き飛ばす。
「今だッ! そこから撤退しろッ!!」
「は、はいっ!」
怪物達の拘束が緩んだ一瞬の隙を突き、孤立した一体の魔導兵が体勢を立て直す。
だが、撤退の為に怪物達に背を向けたその時――
銀色の鎌が足の関節を貫いた。
「うわぁっ!?」
再び態勢を崩し、転倒する魔導兵。
再び逃げ出そうとするも、足を貫いた鎌が楔となり、その場から動けないでいた。
「くッ…… 装甲の弱い関節部分を……」
今回は、たまたま運悪く装甲の薄い部分に相手の攻撃がヒットしただけに過ぎなかった。
撤退しようと背を向けた際に露呈してしまった膝裏の関節部分だ。
そこへ怪物の攻撃が上手く刺さった。
低脳なモンスターであれば、次は気を付けろで終わったかもしれない失態だったが、銀色の怪物――シルヴァー相手に取っては、致命的過ぎるミスであった。
その事に気付いた時には、時すでに遅く……
魔導兵の弱点を知ったシルヴァーの動きが変わる。
「お、おいおい、あいつら足の関節を狙ってねぇか……?」
「嘘だろ……」
「奴等には知能が……?」
怪物達は魔導兵の膝裏を狙い続けた。
その執拗な攻撃に、取り残された魔導兵はあっという間に両足を解体されてしまう。
「奴等…… さっきので、学んだの…… か……?」
ステン達が戦慄する。
あの怪物には知能がある。
弱点を晒せば、たちまちそれを突いてくるだけの知能が。
「そんな馬鹿なことが……」
「ステン不味いぞ! 味方も取り付かれ始めた! 陣形を整え直さねぇと被害が増えるっ!!」
「くッ……」
陣形を整えるということは、目の前の仲間を見捨てるということだ。
それは、搭乗型魔導兵部隊が結成されて初めての犠牲者となる。
最強の兵器を扱いながらも、仲間に被害を出してしまったことに、ステンは嘆いた。
「くそッ!!」
ステンは手の色が青くなる程に操縦桿を強く握りしめると、断腸の思いで命令を下す。
「密集陣形を組めッ! 敵に足を取られるなッ! 魔導砲で牽制しつつ、近づいてくる奴を確実に斬り伏せろッ!!」
「「「オウゥッ!!」」」
ステンの命令に、皆が苦悶の表情を浮かべながら応じる。
味方が助けに来ないと察した仲間は、錯乱状態に陥りながらも、必死に組み付いてくる銀色の怪物を引き剥がそうともがく。
「う、うわぁああ!? は、離れろ! く、来るな来るなぁああ!?」
だが、魔導兵の力をもってしても、多勢に無勢だった。
遂には銀色の波に飲まれ、姿が見えなくなる。
そして次の瞬間、怪物の色に変化が現れた。
魔導兵を飲み込んだ場所を中心に、銀色から黒銀色へと変わっていったのだ。
「今度は何だッ!? 何が起きてるッ!?」
仲間を飲み込んでいた波が割れる。
すると、魔導兵の残骸の上に、他の個体の三倍の大きさがある新たな個体がいるのが見えた。
変色した黒銀色の個体よりも濃い黒、黒鋼色に鈍く光る皮膚をもつ怪物だ。
その黒鋼色の怪物は、凶悪な口を開けて、魔導兵の装甲をバリバリと啄ばみ、咀嚼していた。
「魔導兵を…… 喰らったのか……? それでまさか……」
――環境に適応して、進化した?
ステンは一つの可能性を口には出さず、そのまま噛み潰す。
口に出してしまえば、それが真実になってしまう気がしたからだ。
だが、そんな思いを無視して、思考は回る。
(ルーデント卿が言ってた通りの能力をあいつらがもっているのだとすれば…… 銀色の怪物が魔導兵を喰らって進化したあの怪物の周りは……)
ステンが思考を巡らせている中、真っ先に行動に移した者がいた。
第二部隊の部隊長でもあり、ステンの古くからの戦友でもあるニッケルだ。
「良くも仲間をぉおおっ! 死ねぇええええ!!」
ニッケルの魔導兵から、紫色の光が放たれる。
魔導砲の狙いは、仲間の屍の上に立つ黒鋼色の怪物。
紫色の光が一直線に怪物へと伸び――
盾のような触手にあたり、軌道が逸れた。
「嘘だろっ!?」
何度も魔導砲を放つが、黒鋼色の怪物に、魔導砲は効かなかった。
全てが、明確に弾かれていた。
「ふざけんなっ! ここへ来て魔導砲の効かない個体が現れたって事かよっ!?」
ニッケルが叫び、ステンが警告を鳴らす。
「気を付けろッ! 色の変わった個体は今までの個体とは別の生き物だと思えッ!!」
「なっ!? ステン! それはどういう……」
ニッケルが疑問を口にしようとして止まる。
目の前の景色が一変し始めたからだ。
水に絵の具を垂らしたかのように、黒鋼色の怪物を中心に、周囲の銀色の怪物の色が黒銀色へと次々に変わっていく。
すると、黒銀色に変化した怪物達にも影響が出始めた。
「おいおい嘘だろ…… 黒く変色した奴等にも、魔導砲の効きが悪くなってんぞ!? どうなってんだ!? ステン! どういう事だ!? 説明しろ!!」
黒く色の変わった怪物達までもが、魔導砲を弾き始めた事実にニッケルが焦り、ステンは確信した。
「あの怪物は…… 環境に適応して進化する…… 進化した奴の力は、周りの奴等にも共有される…… くそッ! あのふざけた言い伝えは本当だったって事かよッ!!」
「おい…… それじゃあ黒くなった奴等にはもう魔導砲が効かないっていうのか……? 冗談だろ……?」
顔を青くしたステンが呟き、部下達が途方にくれる。
そんな人族達を前に、黒鋼のシルヴァーへと進化した個体は、次の獲物を見定め、雄叫びとともに進軍を再開。
相対するステン達は、公国が誇る最高戦力である搭乗型魔導兵を信じ、決死の覚悟で黒銀色の波へと立ち向かっていく。
――シィィイアアアッ!!
「来るぞォオッ! 全員ッ、魔導光剣で迎え討てぇえええッ!!」
「「「オウゥッ!!」」」
黒塗りの魔導兵と黒鋼色のシルヴァーが壮絶にぶつかり、紫色の火花を大量に撒き散らす。
その壮絶な火花は、魔導兵達から飛び散る血潮にも見えたのだった。
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