179 - 「新たな力――第五のデッキ」
緑色に薄く濁った水面に、緑色の手脚がぷかぷかと浮かび、揺れている。
つい数分前まで、激しく水面を揺らしていた者達も、今は全員が陸地へと上がっていた。
その陸地――土に多分の水分を含んだ沼地には、所々大きな穴が開いており、その穴からは戦利品を手に持った
戦利品とはいえ、その大半は沼魚やガラクタだ。
だが、中には金貨や宝石、
それらは後ほどオラクルの元へ全て集められ、成果に応じて、
当然、
そんな彼等の頭上には、水辺や穴から浮かび上がった青い光の粒子がふわふわと漂い、
光の向かう先には、緊張した面持ちのマサトを中心に、ゴブリンの革命王であるオラクル、
そんな中、マサトはというと、目の前を流れる一つ一つのシステムメッセージに意識を集中させていたのだった。
『
『
『
『
……。
…………。
次々と同じシステムメッセージが上から下へと流れていく。
肉裂きファージが返り討ちにしてみせた
あまり戦力にならなそうだが、手数は多いに越したことはない。
護衛や監視役、またはデコイや肉壁としても使えるし、オラクルのように種族全体強化の能力をもつカードが手に入る可能性もある。
(とは言え…… 王都の軍勢を引かせたって話だったし、ゴブリンより強いかもしれないな)
一枚具現化してみる。
[C]
[毒Lv1]
カードには、緑色の蛙が黒い鋭利な棘のようなものを持って飛びかかろうとしているイラストが描かれていた。
[毒Lv1] をもっている分、1/1ゴブリンより期待できる。
そう考えている間もシステムメッセージは続く。
『ヌマエイのカードを獲得しました』
『ヌマエイのカードを獲得しました』
『ヌマエイのカードを獲得しました』
……。
(ん? 今度はヌマエイ?)
沼に住むエイだろうか?
よく分からない生き物のカードを獲得した。
(どれどれ…… 能力は…… っと)
[C] ヌマエイ 1/3 (青)(2)
[毒Lv1]
防御力の高い
いや、ステータス通りの性能を発揮できるとは限らないのがME。
ヌマエイがエイに似た生き物ならば、陸地では全く使えない子になる可能性が高い。
水中でもエイが戦力になるのかイメージできないが、少なくとも泳いでいる最中に背後から襲ってくるような生き物には牽制になるかもしれない。
(それ…… 本当に使えるのか……?)
どうだろう。
なんだか使えない気がする。
いや、戦力として見るから駄目なだけであって、食料や素材としてなら価値はあるかもしれない。
……と、また変わった何かを獲得したようだ。
『
[C]
[伸びる舌Lv1]
[耐久Lv1]
伸びる舌!!
まさかの
さすがに舌で何かしたくないので、自分には付与したくない。
(いっそのことレイヤに…… 舌の長いレイヤとの夜……)
いらぬ妄想へと思考が逸れてしまいそうになったので、頭を振って邪念を追い払う。
(いや、悪ふざけが過ぎるな。やめておこう)
少し考えても使える方法が思い浮かばない。
根本的に、この
蛙の能力を得た少女が活躍するヒーロー学園ものアニメもあったが、伸ばした無防備な舌を切断されるリスクは無視できるほど小さくない。
使うなら、せめて噛み付きが強力な武器になる
(って、肉裂きファージのやつここで卵産みまくってるんじゃないか? ほっといて大丈夫か?)
一瞬不安になるも、目の前に表示された次のシステムメッセージによって、思考の外へと追いやられた。
『
『
『
(おお!?)
[SR]
[X:
これで一度に大量の兵士を召喚できる手段が増えた。
後ほど大量召喚し、使役モンスターとなった
これまでに獲得したカードは――
[C]
[C] ヌマエイ 1/3 (青)(2) 9枚
[C]
[SR]
だ。
次々と流れてくるマナを見るかぎり、相当数――それこそ数万匹の
一定以上の討伐数で「
MEでは手札制限もあったため、[C] のゴミカードを数百枚獲得するくらいなら、強力な [SR] 一枚獲得できた方が都合の良いケースは多いので納得できるが……
謎だ。
湿地帯は死屍累々たるありさまだ。
(シルヴァー討伐の為の犠牲とは言え、あまり同じことは繰り返したくないな…… 感覚が麻痺してくる)
感傷は正直なところ、あまりない。
いや、全く感じなかった。
むしろ、戦争の中にいて気持ちが高ぶった後の今は、もっと力が欲しい、もっとマナを、とすら考えてしまう自分がいる。
(自分を御せなくなる事態にだけはならないように気を付けないとな)
思念で繋がっているゴブリン達から報告があがる。
「そろそろか……」
自然と心拍数が上がっていく。
空気中を漂うマナの列が無くなってきた。
レベルアップ演出は、一通りマナの吸収を終えた後に始まる。
(俺の一軍デッキ…… ドラゴンデッキきてくれ!)
心の中で祈る。
ドラゴンデッキは、MEで初めて構築したデッキだ。
カッコいいという理由で、とにかく強力なドラゴンをただただ積んだだけのファンデッキだが、唯一のお気に入りデッキでもあったので記憶に残っている。
ドラゴンデッキならシルヴァーに対抗できるのか? と問われれば、それは出来るかもしれないし、出来ないかもしれないと答える程度の頼りない認識だったが、少なくとも兄が寄越した数多のネタデッキに比べれば、勝算が少なからずあるとみていた。
空気中を漂うマナの列が途切れ、目の前に、紋章のレベルアップを告げるシステムメッセージが流れる。
《マナ喰らいの紋章 Lv31 解放》
《マナ喰らいの紋章 Lv32 解放》
《マナ喰らいの紋章 Lv33 解放》
・
・
・
《マナ喰らいの紋章 Lv46 解放》
そこで止まる。
Lv30 から Lv46 までの怒涛のレベルアップ。
上出来だ。
『(虹×3)マナを獲得しました』
『攻撃力の基礎値が1上がった』
『過去に討伐したモンスターを1枚カード化できます』
『防御力の基礎値が1上がった』
『(虹×3)マナを獲得しました』
『(虹×3)マナを獲得しました』
『ライフ上限が2上がった』
『過去に討伐したモンスターを1枚カード化できます』
『新たなデッキが解放されました』
『(虹×3)マナを獲得しました』
『攻撃力の基礎値が1上がった』
『過去に討伐したモンスターを1枚カード化できます』
『防御力の基礎値が1上がった』
『(虹×3)マナを獲得しました』
レベルアップによる恩恵メッセージが表示され、同時に身体の芯から力が溢れ出る。
虹色に輝き始めた俺を見て、オラクルは声を上げて喜び、ヴァーヴァとタドタドは呆気に取られていた。
心地良い全能感に包まれ、少し心に余裕が生まれる。
だが、ここからが勝負。
あの夢で見たシルヴァーは、とてもじゃないが単騎で仕留められる相手じゃない。
ここで解放されるデッキ次第で、シルヴァー戦の難易度が大きく変わるのは間違いない!
(頼む! ドラゴンデッキ!!)
解放されたデッキ名を確認する。
そのメニューウィンドウには――
《 新たに解放されたデッキ 》
*デッキ名:
*マナカード :計22枚
[C] 青マナ (0) 14枚
[マナ生成:(青)]
[マナ生成限界1]
[R] 生命のマナ (0) 4枚
[マナ生成:(虹)、ライフ4点失う]
[マナ生成限界1]
[SR] 寿命のマナ (0) 4枚
[マナ生成:(虹)、ライフ上限-2]
[マナ生成限界1]
*モンスターカード:計16枚
[R]
[召喚時:モンスタートレードLv2]
[(青×3):分裂Lv1]
[R]
[召喚時:モンスタートレードLv3]
[飛行]
[攻撃参加時:ドローLv1]
[SR]
[召喚時:モンスタートレードLv5]
[飛行]
[SR]
[召喚時:モンスタートレードLv6]
[飛行]
[攻撃成功時:手札破壊Lv1]
[SR]
[召喚時:モンスタートレードLv7]
[飛行]
[与ダメージX:ライフ回復LvX]
*
[C]
[生贄時:手札送還Lv3]
[耐久Lv1]
[UC] 幻影の爪 (青×2) 2枚
[能力補正 +2/+0]
[手札帰還]
[耐久Lv1]
*
[C]
[手札送還Lv3]
[UC]
[手札送還LvX]
[UC]
[魔法打ち消しLvX]
*アーティファクト:計4枚
[SR]
[生贄時:金箔シリーズサーチ、(虹)マナ]
[耐久Lv1]
(
再び苦い記憶が呼び覚まされる。
原因は――モンスタートレードという能力だ。
この能力は、総コストがトレードLv以下の敵モンスターとトレードできてしまう凶悪な効果をもつ。
兄はこのデッキを使い、俺の召喚したモンスターを奪い、敵に渡った自分のモンスターを「
トレードできないモンスターの召喚をしようものなら、
まさに悪夢。
MEって何が楽しいの?と、疑問を投げかけたくなるコントロール系デッキであり、俺が戦いたくない筆頭のデッキでもあった。
(これ…… シルヴァーに効くのか?)
素朴な疑問が浮かぶ。
このデッキで最も強力なモンスタートレード能力を持つ「
つまりは総コスト7以下でないとトレード対象に指定できない。
総コスト7というと、総コスト6の「ゴブリンの女王シュビラ」は奪われてしまうが、総コスト8の「ゴブリンの革命王オラクル」は奪われない。
「
夢に出てきたシルヴァーの親玉は、どう考えても総コスト10以上の大型モンスターだろう。
となると、残り使える可能性を秘めているのは、[手札送還] 効果をもつ
モンスターを所有するオーナー――つまりは、手札に戻す先となるプレイヤーがいない場合、条件不成立で効果が搔き消える可能性が高いのだ。
(早急に試さないとダメだな…… もしダメだったら……)
ガルドラやフログ湿地帯周辺のモンスターを掃討して、第六のデッキ解放に賭けるか……
そう考えた直後、痺れるような悪寒が身体を駆け巡った。
「な、なんだ!?」
ゴゴゴゴと唸るような音をあげて震える大地。
水面には無数の波紋ができ、オラクルの瞳に警戒の色が浮かぶ。
「おにいさま!」
「ああ、どうやらレベル上げを継続する時間は貰えないらしい……」
微かに感じた気配。
それは、夢で見た怪物達の気配と同じだった。
星を銀色に染める究極の生命体――シルヴァーの復活である。
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