146 - 「空を喰らう大木、伐採戦3」
注意を促す念とともに、
「大丈夫だよ。こっちからも見えてるから」
そう、
視界の先には、森の端を駆ける集団が見える。
独特な作りの木の仮面に、緑色の腰草。
足に靴らしき袋を履いているくらいで、後は裸だ。
男は上半身裸だが、女は茶色の晒しのようなものを巻いている。
その全員が、バッタの胴体にムカデの脚を付けたような生き物に跨って、こちらに向かって駆けてきていた。
その数、目算で300人以上。
「なんかまたキモい生き物に乗ってるなぁ。殺気撒き散らして、やる気満々ですか。はぁ、仕方ない。無駄かもしれないけど、警告してみるか」
その集団へ向けて、手をかざす。
狙いは前方の地面。
手にマナを込めると、そのまま放った。
「そこで止まれっ!」
[火魔法攻撃Lv2] の力で生成された火の玉が、白い煙の尾を引きながら飛んでいく。
そして、着弾。
ドンッと爆発すると、大量の煙と土埃を巻き上げた。
だが、その集団は止まるどころか、減速すらしなかった。
そのまま爆発で発生した煙を突っ切ると、各々が武器を片手に叫んだ。
「「「アーラァラァラァラァラァアア!!」」」
それは闘いの開始を告げる雄叫び。
味方への鼓舞であり、敵への宣戦布告だった。
「なんか怖い奇声あげてるし…… どうすっか…… 会話成立しそうにないよなぁ、どう考えても……」
すると、その集団は何かを上空に放った。
無数の黒い点が打ち上がる。
それは弧を描くと、徐々に大きくなり――
「あ…… やべやべ! 危な!!」
地面へと降り注いだ。
それを後方へ素早く移動することで回避する。
地面は大量の水と樹液でぬかるんでいるが、
だが、少しヒヤリとしたのも事実だ。
「弓矢って、あんなにも一気に飛来するんだな…… 遠くに見えたと思ったら足元にストン! だもん。怖ぇ怖ぇ」
相手がその気なら、こちらも応戦しなければ殺されてしまう。
マサトは両手を前に掲げると、再び掌にマナを込め始めた。
そして――
連射。
ドドドドッと音とともに、ソフトボール程の大きさの火の玉が、機関銃で乱射したかのように前方へ放たれる。
至る所で爆発が起こり、被弾した男達がバッタのような生き物とともに吹き飛ぶ。
だが、その集団の速度は落ちることはなかった。
着実に距離を縮めてきている。
「あー! くそ! 宝剣で一人ずつやるか!?」
そう思い、敵軍に突っ込もうとしたその瞬間、突如、四方から次々に土煙が上がった。
「今度はなんだよ!?」
この事態に、仮面の集団も進軍を止める。
土煙の上がった場所に、2m程の大穴が空く。
そこへ周辺の水が流れ込むと、無数の渦が生まれた。
「何が起きてんだ? 魔法か?」
だが、目の前の仮面の集団が何か仕掛けてきた様子はない。
むしろ、突然の現象に、こちらを警戒さえしているようだった。
一面に広がっていた水溜りが数秒で地中へと消え去る。
樹液は水より重いのか、水が穴へと捌けた後も、陸地に塊となって残ったままだ。
だが、問題はこれからだった。
空いた大穴から、赤い色をした巨大な蟻がうじゃうじゃと大量に這い出てきたのだ。
「あ、蟻!?」
地中から出てきたこの蟻は、
乾燥した土地を好み、地中に巣を作って巨大なコロニーを形成する。
火に対する耐性がめっぽう高く、火山地帯が主な生息地だったため、この名前が付いた。
特に火を吹いたりはしない。
元々雑食性だが、サーズに生息している
その為か、他の地域に生息する
彼らの武器は、大顎による噛み付きと、腹部の先端に生えた刺針。
そして、口から吐き出す強力な蟻酸だ。
今回は、マサトが
地中から這い出てきた
点在する樹液の塊が、群がった
地中から這い出てくる
すぐさま地に溢れた樹液は、出てきた
だが、
そして、樹液のお零れを得られなかった
「あ、何してんだ!? 馬鹿! 止めろ!!」
斬り倒したばかりの
こうなると、後は争奪戦だ。
「おい! 離れろっつの! 獲物を横取りすんな!!」
被弾した
だが、直撃しなければ効果はないようで、直撃を免れて、その爆風で吹き飛んだ個体は、すぐ様立ち直ると牙を向けて威嚇を始めた。
キシキシと不快な音が響き渡る。
「お、おいおい嘘だろ……」
不快な音は、威嚇音ではなく、仲間を呼ぶ合図だった。
次々に上がる土煙。
そして、増え続ける
いつの間にか、斬り倒した
口から酸を吐き、その酸に触れた者が悲鳴をあげて溶け始める。
仮面の男の一人が、
武器を弾かれた男は、そのまま
その巨体の顎で噛まれては、人族の柔らかい胴体などひとたまりもない。
流石の仮面の一団も劣勢だと悟ったのか、すぐに退却を始めた。
だが、その退路を断つかのように
全滅も時間の問題だろう。
その間、マサトは
[火魔法攻撃Lv2] の力で生成した火の玉を放ち撃ち続ける。
「く、くそ! キリがない! な、何か他の手を……」
倒す速度より、穴から湧き出てくる
これでは、駆除する前に
「勿体ないけど、あれを使うしかないか……」
全体除去魔法――
となれば、手持ちで使えるカードは限られてくる。
マサトが選択したカードは――
「これしか手はないよな―― 《
[SR]
[
[能力補正 +1/+0]
[不死化]
[使用制限:1ターン、場に出た後に倒した対象全て]
[耐久Lv1]
倒した対象を不死化させて使役する
マサトが呪文を行使すると、マサトを中心に、黒い靄が一瞬で周囲に広がった。
「これで下準備は完了か? なら、ここからは賭けだな……」
ステータスを開く。
<ステータス>
紋章Lv26
ライフ 43/44
攻撃力 99
防御力 5
マナ : (赤×3052)(緑×99)(黒×40)
加護:マナ喰らいの紋章「心臓」の加護
火の加護
火吹きの焼印
装備:
火走りの靴
火投げの手袋
補正:自身の初期ライフ2倍
+2/+2の修整
召喚マナ限界突破12
火魔法攻撃Lv2
飛行
毒耐性Lv5
ライフが1減っている。
ここからは、ライフの残量を気にしながら慎重に魔法を行使しなければならない。
そう、限界まで赤マナを込めて、「ゴブリン呼びの指輪」でゴブリンを大量召喚するためだ。
「すぅー、はぁー」
マナが暴走し、肌を引き裂いた時の痛みが蘇る。
それを深呼吸することで、弱気になる気持ちを無理矢理落ち着かせ、敢えて声を上げることで気持ちを奮い立たせた。
「よし! 行くぞおらぁ! ゴブリン呼びの指輪、召喚!!」
手に込めたマナが、色を帯びて発現する。
掌に発現した粒子の渦は、炎よりも紅く、光よりも明るく輝いた。
震える空気。
歪む視界。
次第に大きくなる光の渦。
「く、こ、怖ぇえ!」
そして、暴れ狂う白光の稲妻。
その稲妻が身体を走り、激痛が身体を襲う。
「ぐ、い、いってぇええ!?」
着々と減り続けるライフ。
ライフ 39……38……37……
「ま、まだまだぁ!!」
痛みに耐えつつも、ギリギリまでマナを込め続ける。
ライフ 18……17……16……
「くっ! おらぁあああああああああ!」
雄叫びとともに、暴れる光を力づくで押し込めていく。
そして、すぐさま解放した。
瞬く間に周囲へと赤い光の粒子が散らばると、マサトを囲むようにして、ゴブリン達が次々に具現化されていった。
その数、約500体。
ライフは残り10だ。
突如現れたゴブリン達に、
ゴブリン達を警戒しているのだ。
「う、うし! 何とか上手くいった…… 後は仕上げを」
「 《
自動発声される鬨の声に、ゴブリン達が続く。
――ガァアアア!!
雄叫びをあげたゴブリン達の身体が、「
[UC]
[ゴブリン一時強化+2/+2]
これで、召喚したゴブリンは皆、3/3となった。
補正には適応範囲があるのか、ネスの里に残してきた「ゴブリンの首長」の効果である [ゴブリン持続強化+1/+1] の補正はかかっていないようだ。
だが、十分だろう。
今回、ゴブリンは「
狙いは、不死化した
「いけぇえええええ!!」
――ガアアァァ!!
マサトの号令を合図に、筋骨隆々のゴブリン達が、武器を片手に周囲にいる
仮面の男達では貫けなかった外皮も、強化したゴブリン達には通用しなかったようだ。
ゴブリンに飛びかかられた
そして――
すぐさま、絶命した
その黒い粒子は、死した
切断された胴体を繋ぎ――
潰れた複眼を埋め――
垂れ流した臓器を、乱雑に元の場所へと詰め直した。
だが、そうして出来上がったそれは、生前の姿とは似て非なる悍ましい何かになっていた。
大顎はより鋭利に歪み。
腹板の先に一本だけついていた刺針は、背板の至る場所に無数に生えている。
恐らく、
少なくとも、これでコンボは成立した。
後は、蹂躙するのみだ。
「死から蘇りし戦士達よ! 俺に続けぇえ! 目の前の
――キシキシキシキシ!!
――――ガアアァァアアア!!
不死化した
そこからは、一方的な戦いだった。
殺しても、蘇って再び襲い狂うゴブリン。
死ねば奇形となって復活し、仲間に襲い掛かる
不死化した
それは、召喚したゴブリンも同じだ。
何千といた
そして、その数に反比例するように増える不死化した自軍。
その勢いは加速度的に強まり、開戦から小一時間で、敵は仮面の集団を残すのみとなった。
不死身の軍団が、仮面の一団を取り囲んでいる。
取り囲まれた仮面の一団は、円陣を組むことで守りを固め、周囲を警戒しているが、多勢に無勢だろう。
勝敗はついた。
仮面の集団も、あれから攻撃してきてはいない。
攻撃の手を止めたのであれば、交渉の余地があるのかもしれないと踏んだマサトが、
「言葉は分かるか?」
反応はない。
(えー…… 無視かよ。せめて何か話してくれないと、本当に通じないのか、無視されているのか判断が付かないだろ)
マサトがどうしようか悩んでいる間も、無言の睨み合いが続く。
不死化した
だが、怯えている感じでもない。
すると、一際大きなバッタムカデに跨った女が前へと進み出た。
屈強な男達が陣形を崩し、その女へ道を開ける。
「我はエンベロープ族の族長、ヨヨアだ!」
新日本プロレスで見た「獣神サンダーライガーのマスク」みたいな木の仮面を付けた金髪の女が、自己紹介をしながら、その仮面を脱いだ。
青い瞳の、色白の美人だった。
「ローズヘイムの王、マサトだ」
「ローズヘイムの王が、ここへ何しに来た!」
ヨヨアが吠える。
「
「
「ああ、そうだ」
マサトの返答に、エンベロープ族の戦士達がギリギリと歯を嚙み鳴らす。
「何故、
「異常発生した
「我らにとって、
ピリピリとした張り詰めた空気が漂う。
力強いヨヨアの瞳を、マサトは真っ直ぐ受け止める。
「ヨヨア、お前はそれでいいのか? それがエンベロープ族の総意か?」
「そうだ」
「この戦いを見ただろ? 俺は強い。お前達よりも。
「それはこの眼で見た。邪神の如き異能も」
「それでも、答えは変わらないのか?」
「変わらん。変えるつもりもない」
「そうか……」
軽く溜息を吐き、視線を落とす。
対話の意思があるなら、交渉で決着できると思ったのだが、勘違いだったのだろうか。
すると、ヨヨアが先に口を開いた。
「ローズヘイムの王、マサトよ。貴様も、我らのことを知らんだろう。
この展開、なんだか嫌な予感がする。
「……何を」
マサトが聞き返すよりも早く、ヨヨアが剣を抜き、その剣先をマサトの顔へ向け――
叫んだ。
「その眼に焼き付けよ! 我らエンベロープ族の真の力を!!」
ブブブブと重低音が響き、地面の小石が躍る。
音は森の方角から聞こえる。
それも、上空から。
すぐさま、音のする方角へと視線を向けると、そこには――
「で、でかいカブトムシ……」
馬鹿でかい黒光りした昆虫――
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