136 - 「一回、白金貨20枚」
サーズへ出発する前日の夜、俺は残りのカードを具現化し、ベッドの上に並べて考えていた。
*「礼拝堂警備員」デッキ
[UC]
[回復魔法Lv1]
[魔法障壁Lv2]
[UC]
[回復魔法Lv1]
[魔法障壁Lv1]
[R]
[飛行]
[物理攻撃無効]
[SR]
[飛行]
[手札帰還]
[精神攻撃Lv1]
[C]
[
[C]
[
[C]
[能力補正 +1/+2]
[耐久Lv1]
[SR]
[全体除去魔法LvX]
(あれ…… よく見たら
他にも優秀なカードが残っているものの、白マナも、
肝心なときに使えなくては意味がない。
白マナ稼ぎができる狩場探しも、マナ稼ぎ同様に急ぐ必要がある。
(
俗にいう守護霊を使った礼拝堂コンボ――[物理攻撃無効] をもつ
なんなら、その礼拝堂と
(いっそのこと、
ロイやクララ達が設立した
不安な時ほど、目に見えぬ何かに縋りたくなるのは、どの世界でも同じのようだ。
(俺をそんなに神格化しちゃって大丈夫かな…… まぁ任せるか。それで皆が住みやすくなるなら、教祖でも何でもなるさ。既に国王とか、現実味のない状況にはなってるし。今更、肩書きが一つや二つ増えても変わらないっしょ)
「礼拝堂警備員」デッキの次は、プレイヤーを強化して単騎特攻かけることに特化した「特攻野郎A」デッキだ。
*「特攻野郎Aデッキ」デッキ
[C] 火吹きの焼印 (赤) 、残り2枚
[火ブレス攻撃Lv1付与]
[C]
[飛行付与]
[UC]
[
[爆破Lv2]
[UC]
[火魔法攻撃LvX]
[UC]
[火魔法攻撃Lv2 ALL]
[C]
[火魔法攻撃Lv1 ×3]
[C] 火走りの靴 (1) 、残り2枚
[高速移動]
[装備コスト(1)]
[UC] 火投げの手袋 (2) 、残り2枚
[火系の攻撃を全て火の玉に変換できる]
[Lv3以上の攻撃変換で壊れる]
[装備コスト(1)]
(何だかんだで、
懸念としては、ショックボルトなどの使い勝手の良い
一応、[火の加護] により、[火魔法攻撃Lv2] がカード無しでも使えるようにはなったが、フロンのような能力解除手段をもつ敵もいるかもしれない。
できれば温存しておきたいところだ。
(火吹きの焼印に、靴に手袋かぁ。何かあってからじゃ遅いし、今のうちに自分をフル強化しておくか)
ベッドの上で胡座をかいたまま、
「火吹きの焼印、火走りの靴、火投げの手袋、召喚」
喉元にチリチリとした感触が起こった後、ベッドに並べたカードの上に、茶色い手袋と靴が転がった。
「おっと…… 」
召喚する場所まで頭が回っていなかった。
ベッドの上に無造作に転がっている手袋と靴を手に取り、装備のためにマナを込める。
<ステータス>
紋章Lv26
ライフ 44/44
攻撃力 99
防御力 5
マナ : (赤×3067)(緑×99)(黒×44)
加護:マナ喰らいの紋章「心臓」の加護
火の加護
火吹きの焼印 New
装備:
火走りの靴 New
火投げの手袋 New
補正:自身の初期ライフ2倍
+2/+2の修整
召喚マナ限界突破12
火魔法攻撃Lv2
飛行
毒耐性Lv5
[火吹きの焼印] が新たに加護として加わり、火走りの靴と、火投げの手袋が装備欄に表示された。
装備欄に表示されただけで、現物は依然として目の前に転がっている。
「これでよしっと」
試しに軽く火吹きをイメージして息をフーと吐いてみると、ガスバーナーの火のようにボボボと赤い炎が発現した。
「いいね。牽制に使えそう。手足封じられても使えるし、接近戦での使い勝手は良さそうだ」
靴を床に、手袋を机の上に置き、改めてベッドの上に並べてあるカードを見渡す。
最後は、この世界に転移した際に所持していた初期デッキだ。
*「なんちゃってゴブリンウィニー」デッキ
[UC] ゴブリンの飛空バルーン部隊 1/2 (赤)(3) 、残り1枚
[召喚時:ゴブリン1/2飛行召喚2]
[飛行]
[UC] ゴブリンの名手 1/1 (赤)(2) 、残り1枚
[弓攻撃Lv1]
[UR] ゴブリンの革命王オラクル 3/4 (赤)(7) 、残り1枚
[ゴブリン持続強化+2/+2]
[カリスマ:ゴブリン]
[UC] ゴブリンの鬨の声 (赤)(2) 、残り1枚
[ゴブリン一時強化+2/+2]
[C] ゴブリン呼びの鈴 (2) 、残り1枚
[生贄時:ゴブリン1/1召喚2]
[耐久Lv1]
[R] ゴブリン呼びの指輪 (X) ※赤マナのみ 、残り1枚
[生贄時:ゴブリン1/1召喚X]
[耐久Lv1]
(もうこの初期デッキのモンスターカードも、バルーン部隊に、弓兵に、革命王だけか。大分使ったなぁ)
鬨の声と指輪は、何かあったときのための切り札として残しておいた方がいいだろう。
ゴブリン呼びの鈴も、誰かに護衛として渡す分には使い勝手が良かったので、できればもっと欲しいのだが、ないものは仕方がない。
全てのカードを見渡してみて、改めて思う。
やはりこの手札では、あの銀色の怪物――シルヴァーとやり合うのは自殺行為に近い。
圧倒的に戦力が足りないのだ。
決定打となり得るカードはあるにはあるのだが、備えは多いに越したことはない。
(何か紋章Lvアップ以外にもカードの供給手段があれば助かるんだけど……)
「ん? 供給手段…… ああっ!!」
ふと、MEでのVRモードに、オンライン課金というものがあったことを思い出す。
現金でゲーム内で使える仮想通貨――プラチナを購入し、そのプラチナでカードガチャを引ける “カードガチャシステム” が存在していたはずだ。
「ガチャ…… ガチャはどこだ!?」
メニューを表示させ、それらしい項目を探すが見当たらない。
「もしや……」
試しに、カードガチャと念じてみる。
すると、ガチャウィンドウが表示された。
「出た……」
『カードガチャ20、一回20プラチナ』
MEでは、1プラチナ5円だったので、一枚100円ということになる。
5枚セットのブースターパックであれば、一回100プラチナで500円だ。
「20プラチナ…… 手持ちはないけど、プラチナって白金のことだよな? それなら、この世界の白金で代用できないか?」
思い立ったが吉日。
カードを急いで片付けると、俺はトレンのもとへ走った。
「突然きたと思えば、白金が欲しい? 白金は貯蔵してないが、白金貨なら金庫にある。まぁ白金も商売ギルドへ問い合わせれば多少は確保できると思うが…… だが、何に使うつもりだ?」
「もしかしたら、俺が使う魔法の元になるカード…… これが白金と交換で手に入るかもしれないんだ」
赤のマナカードを一枚取り出し、トレンへ渡す。
「これは…… 鑑定不能? おれの [目利き] じゃ鑑定できないな。しかし、なんだこれは……
「そう。これは
「これが
「うっ…… 一枚100万Gもするのか…… 取り敢えず20枚ほど欲しいんだけど……」
「白金貨20枚!? 2000万Gだぞ!?」
日本円換算で2億円相当だ。
少し貸してくれと言われてポンと出せる金額ではない。
トレンが驚くのも無理はなかった。
「そ、そう。やっぱりキツい?」
「そうだな…… だが、たった白金貨20枚で、あの神のような力が使えるなら、安いものか……」
トレンは目頭を押さえながら、黙り込んだ。
そして「はぁ」と溜息を吐くと、「まぁ何とかなるだろう」と許可してくれた。
「金庫にはまだ余裕がある。だが、もしもの時に対応できるよう、貯蓄額は一定に保っておきたい。もちろん、それが必ずしも貨幣である必要はない。貨幣も、所詮は交換する価値のある物でしかないからな」
「つまりは、相応の価値の物と交換なら良いってこと?」
「ああ。それなら許可できる。また何か持ってきたんだろ?」
トレンがニヤリと微笑む。
商売人の顔だ。
「ははは…… 参りました。本当、うちの財務大臣は逞しいことで……」
「金庫番がタダで金庫を開けていたら、すぐ中身は空っぽになるぞ? それでもいいのか?」
「よくないです、はい。えっと…… 物じゃなくてもいい?」
「……ん? どういうことだ?」
「たとえば、ゴブリンとか。人身売買みたいになるけど。絶対に信頼のおけるパートナーにもなり得る存在の提供とか」
「そういうことか……!!」
トレンの瞳が大きく開かれる。
「それは面白い考えだ。国王のお墨付きとなれば、大金を出して買う者も現れるかもしれない。治安に不安を抱く者であれば特にな。そうだな…… 新たに増えたゴブリンを傭兵として貸し出す商売もありだな…… おっと、話が逸れた。すまん。で、具体的には何を提供してくれるんだ?」
(相変わらず、トレンは商売の話になると人が変わったかのように饒舌になるなぁ。楽しそうで何よりだよ)
「えーっと……」
(どうしようか…… っていってもバルーンと弓兵くらいしか出せるのないな…… 後は、物なら鈴と靴と手袋か。これ2000万G届かないんじゃ…… もしガチャって、それが2000万G以下のカードなら、実質赤字か…… 売ったカードと同じカードが出る可能性もあるし…… まさに
「今出せるのは、この五枚」
そう告げて、ゴブリンの飛空バルーン部隊、ゴブリンの名手、ゴブリン呼びの鈴、火走りの靴、火投げの手袋のカードを具現化して渡す。
「これは…… このカードに書かれている絵が再現されるのか?」
「いや、それはイメージ絵かな。そこに書いてある文字とか読める?」
「読めないな。古代文字か何かのようだが……」
「そっか。じゃあ説明するよ」
一通りカードの説明をすると、トレンは嬉しそうに悩み始めた。
「どう?」
「バルーン部隊というのが気になりはするが、実物を見なければ判断できないな。だが、これはゴブリンより、この絵に映っている飛行道具の方が良い商品になりそうだ」
「そっか。じゃあ名手は?」
「ゴブリンの名手は、実力次第ではあるが…… ボスの召喚するゴブリンのことだ、相当な凄腕なんだろ?」
「ゴブリン呼びの鈴で召喚したゴブリンよりは強いと思う」
「それなら、ランクBクラスの冒険者が妥当か。その想定で、自らの命も捧げる絶対服従契約前提の戦闘奴隷で考えると…… 相場は…… ざっと1000万Gくらいだな」
「1000万G! マジか!」
「勘違いさせて悪いが、これは人族の場合だ。もちろん、使える適性の質や数によっても価値が上下するが…… ゴブリンとなると偏見も多くなる上に、そもそもゴブリンの名手など聞いた試しがない。まず鼻で笑われる類いのネタになるだろうな。普通にオークションへかけただけでは、買い手が不審がって手を挙げる者も減るだろう。そうなると売値もかなり下がる。いったとして相場の十分の一か、それ以下が現実なところだろうな」
「十分の一…… あれ? そうなるとゴブリン呼びの鈴以下にならない?」
「ゴブリン呼びの鈴は、それ自体が貴重な
「あー、なるほどね……」
「ゴブリン呼びの鈴は、前回同様400万G。前にボスから買い取ったのは、
「えっ、欲しいの? じゃあゴブリン呼びの鈴はトレンにあげるけど」
「お、おいおい。そんな簡単にあげるなんて言葉…… 本当にいいのか?」
トレンが驚いた顔でこちらを見た。
「まぁ、トレンにはいつもお世話になってるし。死んでもらっても困るから、トレンの護衛としてプレゼントするよ」
「そうか…… ありがとう。ふっ…… はは、金庫番が賄賂受け取ってちゃ失格だな。いや、この場合は、ボスの方が上手だったということか」
「おっと、賄賂は成功したと思ったんだけど?」
「ははは。残念ながら、ボスの賄賂だとしても、おれの目利きの精度は変わらない。嘘をついても本末転倒だしな。数字には正確にいかせてもらう」
「はは。もちろん、それでいいよ」
ひとしきり二人で笑い合ってから本題に戻る。
ゴブリン呼びの鈴と火走りの靴、それと火投げの手袋をまとめて召喚すると、トレンへと手渡した。
「火走りの靴と、火投げの手袋か…… これも
「どう? 査定額はいくらになりそう?」
「実用性の読めない
「100万Gかぁ……」
「本来なら100万Gでも十分な大金だと諭すところだが…… 今回は目標金額が高いから、安く思えても仕方ないな。だが、
「ほ、ほうほう。で、どう?」
「火投げの手袋は、
「おお、じゃあ靴は売却で。手袋はドワンゴにプレゼントしておいてよ」
「了解した。手袋はドワンゴに渡しておこう。白金を融通してくれるかもしれないしな」
「お、察しが早くて助かるよ」
「その悪巧みしてそうな顔を見れば、おれじゃなくても気付くさ」
「あっれ、おかしいな。そんな悪い顔してた?」
そういいながら、トレンと二人で悪そうに笑い合う。
権力と賄賂は、いつの時代でも最強の組み合わせなのだ。
査定額をまとめると――
*ゴブリンの飛空バルーン部隊 保留
*ゴブリンの名手 100万G
*ゴブリン呼びの鈴 400万G
*火走りの靴 1500万G
*火投げの手袋 200万G
だった。
「あ、靴の売却だけだと2000万G届かない……」
「今回の不足分はおれが個人的に払うからいいさ。ボスに借りていたゴブリン呼びの鈴を、緊急事態だったとはいえ、オークションにかける前に使ってしまった件の借りもあったからな」
「別に気にしてないのに。でも、いいの?」
「いいさ」
「さすがトレン! 助かる!」
「困ったときはお互いさまだ。じゃあ、さっそく今から取りに行くか」
「ああ!」
その後、トレンへ鈴と靴と手袋を渡し、代わりに白金貨20枚を受け取った。
靴と手袋は、装備するには
一応、ドワンゴへは、装備のための
トレンと別れ、自室へと戻る。
「さぁ緊張の一瞬です」
ベッドの上で正座しながら、目の前に表示されているカードガチャ20のボタンを睨む。
手には、白金貨20枚。
「勝負!」
ガチャと念じると、手に持っていた白金貨が淡い光の粒子を舞い上げて消えた。
そして目の前に薄っすらと回転しながら現れる一枚のカード。
そのカードを凝視していると――
墓地で死体が踊るイラストの描かれた、黒色のカードが出現した。
「まさかの黒……」
『
[SR]
[
[能力補正 +1/+0]
[不死化]
[使用制限:1ターン、能力発動後に倒した対象全て]
[耐久Lv1]
倒した相手を不死化させて操作する “
使い方は、ゴブリン召喚の大魔法陣と同様、
元々が死体のため、再び死ぬことはない。
まさに不死化だ。
ただし、
使用制限も、1ターン――この世界では一日限定と効果期限があり、予めその場に展開した後に相手を殺さないと効果が発動しない。
能力は強いが、明確な弱点もある癖の強いカードだ。
「これは…… 大当たり?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます