123 - 「後家蜘蛛抗争8」


 七色の光球が発現し、私の伸ばした手を軸にして、光の帯を引きながら回転し始める。


 その回転は加速度的に速くなり、瞬く間に光の輪へと変化すると、その光の輪から大量の光線がドラゴンへと放たれた。



 何人もの優秀な上級魔法使いハイソーサラーを生贄にして手に入れた、人族では未だ確認できていない最高峰の魔法攻撃適性であり、最強の攻撃魔法――



全属性魔法攻撃エレメンタルバスター



 それを [魔力マナ増加:中] の適性により増強した魔力マナで、更には [無詠唱ゼロキャスト] で即座に展開してみせる。



(私の無詠唱ゼロキャストに、奴の並列詠唱パラレルキャスト多重詠唱マルチキャストが加われば…… 私は…… 私は!!)



 奴の適性を求める欲求が高まる。


 その欲望の高まりが、身体から溢れる魔力マナを更に増幅させた。


 次第にドラゴンへの恐怖心が薄れ、奴の適性を手に入れられるという喜びで満たされる。



(欲しい欲しい欲しい! 奴が欲しい! 奴の適性が欲しぃいいい!!)



 発現した光の輝きが増し、光の濁流となってドラゴンへ襲いかかる。


 その極太の光線は、光の速さでドラゴンへ到達すると、そのまま光の飛沫をあげた。



(効いた!!)



 光はドラゴンを貫通しなかった。


 ドラゴンがその大口に大量の光線を受けると、途端に口を閉じて身をよじり、そのまま白い靄となって消え去った。


 白い靄だけが、暴風となって横を駆け抜ける。



「仕留めたか!?」



 その光景に、私語を禁止しているはずの部下達が「おおお!」と沸いた。


 だが、喜んだのも束の間、次の瞬間には、何事もなかったかのように、右手上空を大きく旋回するドラゴンの姿が。



「くっ! 姿を消しただけか!!」



 やはり、ドラゴン種には全属性魔法攻撃エレメンタルバスターでも致命傷を与えられないのだろうか。


 だが、反撃のきっかけは作れた。



「怯むな! 物理攻撃は効かないが、魔法は効く! 魔法で牽制しろ!!」



 部下達は声もなく頷き、それぞれが行動に移る。



全属性魔法攻撃エレメンタルバスターをもってしても致命傷を与えられず、物理攻撃も効かない。更には姿を消すドラゴンか…… 流石はドラゴン種というべきか……)



 ここまでの強敵が相手となると、灰色ハイイロの出番はもうないだろう。



灰色ハイイロ、下がっていろ」



 私が声を掛けると、珍しくおよび腰だった灰色ハイイロが頷いた。



「そ、そうさせてもらうわぁん」



(普段は滅多なことでは動じない灰色ハイイロが怯えるとは…… やはりあの男は危険だ。だが、その男の適性を得た時、私は更なる高みにいける)



 撤退を始める灰色ハイイロ達に脇目も振らず、私は態勢を立て直した背赤セアカ達に次の命令を下した。



背赤セアカ、今の内に本体を叩く、殺れ」



 ドラゴンがこちらの想像を遥かに凌駕する強さだとしても、所詮は召喚魔法。召喚者を殺せば、それで終わりだ。


 前方には、背中から炎の大翼を生やした男が、両手から連続で火の玉を放っているのが見える。


 私は [異空間創造サブディメンション] の能力で創造した異空間に保管していた、神器級ゴッズ古代魔導具アーティファクト――魂刈りの大鎌ソウルリーパーを取り出し、マサトへ向けて走り出す。


 魂刈りの大鎌ソウルリーパーは、近くの魂を取り込むことで切れ味が増す魔剣だ。


 すぐさま魂刈りの大鎌ソウルリーパーに反応して、周囲に転がる死体から魂が浮かび上がり、吸い寄せられるように刃に浮かぶ無数の口へと吸い込まれていった。


 魂を取り込む度に大鎌に浮かんだ数多の口が咀嚼するように蠢き、刀身が真紅に輝き始める。


 部下が死ねば死ぬほど、私の攻撃力は飛躍的に高まる。


 この空間では、私は負けない。


 負けるはずがないのだ。




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