121 - 「後家蜘蛛抗争6」


 白い光の粒子の放流が霧散すると、白い靄を大量に纏った純白のドラゴンが、堂々たる姿で目の前に鎮座していた。



[SR] 永遠の蜃気楼エターナル・ドラゴン 6/6 (白x11)

 [飛行]

 [手札帰還]

 [物理攻撃無効]



(思い切って永遠の蜃気楼エターナル・ドラゴン召喚してみたけど、やっぱデカイな…… そして感動的なほどにカッコいい…… ドラゴン最高! )



 すると、永遠の蜃気楼エターナル・ドラゴンの下敷きになってしまっていた鋼鉄虫スチールバグの一匹が、もぞもぞとその巨体の下から這い出てくるのが見えた。



鋼鉄虫スチールバグはドラゴンにのしかかられた程度じゃ潰れないのか。やっぱり頑丈なんだな…… いや、永遠の蜃気楼エターナル・ドラゴンがもしや軽いのか? 蜃気楼って名前だし……)



 敵の誰もが、突如現れた永遠の蜃気楼エターナル・ドラゴンにその身を硬直させている。


 そんな中、精神支配マインドコントロールされているベルだけは違った。


 再び飛びかかってくるベルに慌てて対処する。



「っくあ!? 本当、大人しくしてて! 鋼鉄虫スチールバグ!」



 ベルを力尽くで押さえ込むと、鋼鉄虫スチールバグをのしかからせて動きを封じた。



「苦しいかもしれないけど、少し我慢しててな」


「ぐ、ぐわぁー! ぐぐ」


「ベル……」



 まるでB級ホラー映画に登場するゾンビのように、くぐもった呻きをあげ、もがくベル。


 もう元に戻せないんじゃないか?といった不安を抱きつつも、ベルをこの状態にした原因が、灰色ハイイロの攻撃を受けた時のシステムメッセージで表示された精神支配マインドコントロールであるなら、まだ救う余地はあると希望ももっている。



(ベルは助けられる。大丈夫なはずだ。後は、ここからどう攻めるかだな…… いや、こうなったら手当たり次第暴れるだけか。宝剣は…… 見当たらない…… 仕方ない、それなら、手当たり次第ぶっ放すのみ!!)



 両手を左右に伸ばす。


 イメージするのは炎の球体。


 イメージと同時に、身体から微量な魔力マナの粒子が、火の粉となって舞い上がった。


 掌からは螺旋を描くように集まる紅色の光。


 そして、発現する小さな炎の球体。


 その球体は、あっという間に一尺玉くらいの大きさにまで成長した。



(よし、火魔法攻撃Lv2は並列で使える。赤マナも潤沢にある。宝剣なしでもやれる!!)



「はぁぁああああ!!」



 気合の雄叫びとともに、背中から真後ろに向けて、極太の火柱がほとばしる。


 ゴォオオオと高密度の炎を撒き散らすその炎の根本は青白く、そこから伸びた紅い炎とが、見る者を圧倒させるコントラストとなって、周囲の者の視界へ飛び込んだ。


 薄暗かった空間が、一瞬で明るく照らされる。


 マサトの後方へ回り込んでいた構成員は、その光源である炎に焼かれ、断末魔をあげながら絶命していった。


 その炎は、少しずつ左右に開きながら、後方に回り込んだ構成員達を次々に焼き払っていく。


 炎に焼かれまいと、近くの構成員が逃げ惑い、マサトの両脇を囲っていた構成員達も、その炎の迫力に陣形を乱し始めた。


 だが、マサトの反撃は始まったばかりだ。


 および腰になった彼らへ、永遠の蜃気楼エターナル・ドラゴン大咆哮バインドボイスで追い討ちをかける。



――キィィィイイイイイイインンンン




(ぐあっ!? まさかの超高音咆哮!? 頭が割れる!?)



 歯を食いしばって耐える。



(い、いや、今のうちに先制すべきだ!)



 両サイドに集まった構成員へ、左右の手から火魔法を放つ。


 ボンッと花火が発射されるような音とともに、火の粉を撒き散らした炎の一尺玉が、構成員へ向けて飛んでいった。



(まだまだぁあああ!!)



 即座に次の火の玉を生成し、再び放つ。


 それを高速で繰り返す。


 少しずつ前方へ位置をずらしながらの高速連射だ。


 ボンッボンッボンッという射撃音の直後、初弾が構成員に当たり、ドンッと音とともに爆発。


 近くにいた他の構成員共々まとめて吹き飛ばした。


 ドンッドンッドンッと、次々に爆音が鳴り響き、マサトを囲んでいた構成員達が呆気なくも瓦解し始める。



 通常、魔法攻撃には硬直と再詠唱時間インターバルが存在するのだが、マサトはその硬直と再詠唱時間インターバルを、有り余る魔力マナを当てることで、強制的にショートカットしたに過ぎない。それは、MEで実際に存在する上級テクニックだった。


 無論、魔法の無詠唱ゼロキャストかつ高速詠唱クイックキャストかつ並列詠唱パラレルキャストなど、この世界の住人達にとっては、上級テクニックどころの話ではなく、そもそもが実行不可能なものという認識の魔法技能スキルであり、能力とされている。


 目に映る全てが常識外の出来事のオンパレードに、構成員達の戦意が奈落へと突き落されていく。


 その中でも飛びきり衝撃的な内容だったのが、純白のドラゴンであったことは説明するまでもないだろう。



永遠の蜃気楼エターナル・ドラゴン、いけぇええ!!」



 再び超高音の咆哮をあげた永遠の蜃気楼エターナル・ドラゴンが、その透き通るように白い大翼を広げ、予備動作もなしに前方へ飛び出す。


 そのドラゴンの襲撃に、流石の構成員達も恐慌状態となり、それぞれが悲鳴をあげて転がり始めたのだった。



――――――――

▼おまけ


【SR】 永遠の蜃気楼エターナル・ドラゴン、6/6、(白×11)、「モンスター ― スピリット、ドラゴン」、[飛行] [手札帰還] [物理攻撃無効]

「ドラゴンの形をした白い靄を見た? お前、まさかまた居眠りしてたんじゃないだろうな?――ローズヘイム南門の門番」

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