120 - 「後家蜘蛛抗争5」
予想通り、
新興の王ながら、既に数万もの土蛙人 ( ゲノーモス・トード )を支配下に置く軍事力保有者でもある。
その上、空の覇者――ドラゴンまでもがマサトに従っている。
一頭ではなく、二頭も。
王自らドラゴンに跨り、空を駆ける姿は、伝説上の
それだけではない。
マサト自身も炎の翼で空を飛行することができる。
民が新たな王を、
そして、奴にはまだ秘密がある。
平然と我らの目の前に現れたことから察するに、デクストが与えた神経毒にも何らかの耐性があるのだろう。
更には、
これだけの異能者を、私は他に知らない。
いや、一人だけ知っている。
それは――
私だ。
「べ、ベル!? よ、よせ、やめろ!!」
それを合図として、私は全ての構成員に攻撃命令を下した。
「かかれ」
マサトの焦る顔が見える。
娘がマサトの手に持つ光の剣を奪おうと手を伸ばす。
それを触らせまいと必死に手を上げるマサト。
(情報通り、仲間に甘い奴のようだ)
ただ、この力も万能ではない。
従順になるのと同時に、思考する力も奪ってしまうため、こちらとの意思疎通が満足に取れなくなるのだ。あくまでも、こちらの単純な命令を聞いて動くだけの人形に過ぎない。
娘には、ただマサトにしがみ付き、身を呈して動きを封じ、武器を奪えとだけ命じてある。
そして、娘にはもう一つだけ、重要な仕込みをしておいた。
抜かりはない。
その上で、
もしその二つが効かない相手だとしても、私自身の数多の能力がある。
そしてこの空間の中だ。
私の敗北はありえない。
「パークスちゃんはどうするのかしらぁん? さっきから穏便に解決しましょうって喚いているけどぉ?」
「放っておけ。もし攻撃してくるようであれば始末しろ」
「簡単に始末されるような玉かしらぁん。パークスちゃんが向こうについたとなれば少し厄介だわん」
「その場合は、私と
「はぁ~い。それならいいんだけどぉ」
幻術系の能力者が、マサトへ先制する。
だが、マサトに変化は見られなかった。
「やはり幻術系は効かないか」
「この調子だと、干渉能力は全て期待出来そうにないかしらぁん?」
「最終的にお前がやって無理なら、その手の作戦は諦めよう」
「そうねぇ。それじゃあ、早めに確認しちゃうわねん」
「頼んだ」
「任せてぇん」
マサトは娘を傷付けないようにしながら、斬りかかってくる者達を、炎の翼で上手く牽制していた。
「それだけでは勝てないぞ? どうする?
◇◇◇
「くそっ! ちょ、ベルやめろ!!」
近付く敵を
(そういえば、ベルに火の加護かけたんだった…… 力が強いのはそのせいか!)
すると、
「ベルごめん!」
しがみ付いたベルを強引に引き剥がすと、横に投げた。
だが、体勢をすぐ立て直したベルが、
「ば、ばか!」
すかさず炎を止めると、頬を黒くしたベルにそのまま抱き付かれる――いや、手を宝剣へと伸ばしていた。
「だからっ、ガチで危ないから止めろっつの!!」
ベルを突き飛ばすと、視界が一瞬点滅し、次の瞬間、宝剣を持つ右手に衝撃が走った。
「いづっ!? あ、まずっ!!」
手に電気を流したような痺れが走り、その衝撃で宝剣を落としてしまう。
「くっ!?」
だが、拾う隙など与えてもらえなかった。
マサトへ向けて、周囲を囲んでいる黒いローブの者達から、いくつもの紫電が走る。
「ぐぐっ!?」
それを歯を食いしばって耐える。
複数の雷撃を受けて硬直したマサトへ、薄紫色の髪をローブの中から覗かせた女が至近距離まで近付き、その色っぽい唇をゆっくりと動かした。
「いただきまぁす」
反射的に突き放そうとするマサトを、灰色のローブ姿の女達が取り押さえる。
振り払おうとするも、上手く身体が動かない。
「な、にっ!?」
突如、まるで身体を鉄で固定されたかのように、手足をぴくりとも動かせなくなった。
よく見れば、女達の手からは、複数の青白い線が、手足を縫い付ける糸のように無数に伸びている。
(何だよこれ!? か、身体が動かない!? う、うわ、女の口から何か出てきた!? や、やばいやばい何だこれ!?)
(な、何か他の手を、他の……)
焦るマサトが対処するよりも早く、
(は、入ってきた!? 何か入って!?)
すると、突然目の前にシステムメッセージ表示され、激しく明滅した。
『
『マジックイーターは、
(影響を…… 受けない? た、助かった? ってか
「あ、あらぁん? やっぱりダメだったのかしらぁん?」
苦笑いを浮かべながら、素早くマサトから離れる
(くっ! こうなりゃ手当たり次第だ!!)
「ガルドラの
マサト言葉に呼応して、周囲に7つの光の塊が出来上がる。
その光景に息を飲む
「何!? ま、まさか……多重召喚だ、と?」
だが、マサトの詠唱はこれで終わらなかった。
(ゴブリンが通用しないなら…… 今の手持ちの最強手札で切り抜けてやる!!)
マサトが虹色に輝く。
その姿を見た
「攻撃を再開しろっ! 奴を好きにさせるなっ!!」
マサトへ紫電やら火の玉やらが乱れ飛ぶ。
だが、その魔法攻撃を、
「くっ……
(残念、時間切れだ!!)
「
辺り一面を、真っ白に埋め尽くす程の白い光の粒子が、虹色に輝くマサトを中心に、まるで台風の目のように、荒々しく螺旋を描きながら舞い上がった。
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