75 - 「答えのない選択」
「5、5000万G!?」
ピレスが驚きを口にする。その目は大きく開かれており、紅色をしたポーションに釘付けだ。
「紅い…… ポーション、ですか? ま、まさか……」
「そ、その紅いポーションが5000万Gもするとは思えないんだな。仲間の死を天秤にかけて吹っ掛けるなんて、ひ、酷いんだな……」
「アンハー! わたしたちを助けてくれた恩人に何てこと言うの!?」
アンハーとイルフェのやり取りを遮るように、ピレスがマサトに一歩近づき、興奮したように息を荒立てた。
「まさかそれは…… 古代の失われた秘薬とも言われた…… 3等級ポーションでは!?」
その気迫に若干気圧されながらも、マサトは話を再開する。
「そ、そう。君はこのポーションの価値を分かってるみたいで良かった。君達をゆすることはしない。だけど、これがあると言うだけで、命を狙われることになるのは事実なんだ」
「はい…… もしそれが本当に3等級ポーションなら、あなたの言うことは正しいと思います」
「ピ、ピレスがそう言うなら、し、信じるんだな。お、お金はそんなに払えないけど、お給料は渡せるだけ渡すんだな。だから早くバラックを助けてほしいんだな」
「わ、わたしからもお願いします!」
「どうかお願いします! この事は決して口外しません!」
「よし。それなら彼に使うよ。毒には効かないかもしれないけど」
目の前で横たわる青年の口の中へ、レッドポーションを半量垂らす。
すると、紫色に変色していた肌や、顔の腫れ、どす黒く浮き出ていた血管が正常な色へと変化していくのが目に見えて分かった。相変わらず凄い効き目だ。
その様子を見た3人は再び驚きの表情を見せつつ、バラックの状態が目に見えて良くなったことに歓喜した。
「バ、バラック! お、おお…… 神よ、感謝いたします……」
「回復したんだな! バラック助かるんだな!」
「う、うぇーん…… よがっだよぉお……」
ひとまず、バラックの様子が回復して良かった。だが、いつ猛毒の影響が現れるか分からない。念のため、4人をネスの里へと送り届けた方がいいだろう。
「ゴブ郎とゴブ狂。2人は彼らを里へ連れて行ってくれ」
「了解ゴブ」「ゴブ」
「じゃあ俺たちはまだ先に進むから、君達はこのゴブリンの指示に従って地上を目指すように」
マサトの言葉に3人は不安気な表情を見せた。
「ああ、心配しなくても大丈夫。彼らはゴブリンだけど、かなり強いし、君達を襲ったりはしないよ。地上まで守ってくれるから」
「す、すみません。助けて頂いたのに、疑うような真似を……」
「疑ってごめん、なんだな」
「あ、あの、ごめんなさい!」
「いや、いいよ。気持ちは分かるし」
素直に謝罪を口にする3人には少し好感がもてた。
(うん、助けて良かった…… やっぱり、自分は見殺しはできないや…… まだレッドポーションは半分残ってるから、大丈夫…… きっと大丈夫…… )
心の不安に蓋をするように、自分に大丈夫だと言い聞かせる。人間、備えや保険がなくなると、急に不安になるものだ。それが命に関わるものであれば、その不安はより大きなものとなる。
そんなマサトの気持ちを察したかのように、レイアが背中をポンと優しく叩いた。
「マサト、お前はお前が正しいと思ったことをやれ。その行動に警告はするが、マサトの選んだ道に私は従う。その選択に私は後悔しない。だからマサト、お前も自分の行動に後悔はするな」
「レイア……」
その後、簡単に自己紹介を済ませたところで、少し問題が起きた。
「これは、光? 一体何が……」
「光がマサトさんに吸い込まれているように見えるんだな……」
「綺麗……」
斬り殺した
(ああ…… この演出の弊害は常に発生するのか…… 中々厄介だなぁ……)
これにより、マサトは洞窟内を照らす赤い粒子を身に纏う見た目になっている。
(なんて説明したものか……)
「あー、ちょっと特殊な加護持ちでね。見なかったことにしてもらえると嬉しいかな。なんて」
苦し紛れの説明だったが、3人は納得してくれた。
(もう色々と隠し続けるにも限界があるな…… いっそのこと……)
そう考えていると、顔に出ていたのかレイアに睨まれた。
最後はレイアに促される形で、助けた4人を地上へと送り出す。ゴブ郎とゴブ狂がパーティメンバーから抜けたが、その代わり魔眼で操った
「ミア、この魔眼ってどのくらいもつの?」
「この数なら…… 数日は維持できると思う」
そう言ったミアの瞳は、白目と瞳の境界線が紅いリング状に光っている。どうやらある程度なら離れていても効果が持続するとのこと。恐ろしい限りである。
「よし! じゃあこのまま進もう! ミア、その蛙に親玉までの案内お願いしてもらえる?」
「わかった。あたしたちをあんたたちの王の所まで案内して」
「ゲロ、ギュー」
(当たり前のようにやり取りしていたけど、魔眼でここまで操れるなら本当に脅威だなぁ。内部情報とか操れば一発でバレるじゃん。ラミア恐ろしや……)
一行は黒皮のブードを先頭に、先の見えない洞窟内を進む。
暫く歩いたところで、シュビラから検知範囲外に出たと思念が届いた。
「これからは地形が判別できない範囲を進むから、レイアもミアも気を付けるようにね」
「わかった」
「一番気を付ける必要があるのは…… マサト、お前の方だと私は思うがな」
「そ、そうですね。気を付けます……」
レイアから手厳しい返しを受けつつも、再び先に進むこと数十分先……
既に嗅覚は異臭で馬鹿になってしまっていると思っていたのだが、直径50cmくらいの小さな穴を通り過ぎようとした時に、一瞬だけフローラルな香りを感じた。
「あれ? なんか凄く良い香りがしなかった? この穴からかな?」
「ほんとだ。なにかな? 懐かしい香りがする。ねぇ、この穴には何があるの?」
ミアがブードに質問すると、ブードは鼻をつまみながら答えた。
「異臭のする出ぎゅ損ないが居ぎゅ」
「異臭……
「はぁ…… 待て、マサト。お前が行く必要はない。この蛙どもに呼び出させればいい」
「そ、そうだね」
考えなしに穴へ入ろうとしたマサトに、レイアが釘をさす。結局は、背後から襲われても厄介だろうと言うことになり、同族のブードに呼んできて貰うことになった。
ミア経由でブードへ命令を出すと、ブードが穴の中へ入っていく。
待つこと数分――
ブードの後に続いて、薄い桜色をした蛙が穴から顔を出した。
「に、人間けろ? ど、どういうことけろ?」
ウシガエルの見た目に近い
「うぉっ!? 凄い良い香り。なんだろ、フローラル系? 香水みたいな。下水のような空間が一気に華やかになった気分だよ」
「確かにな。悪臭の酷いここだとより引き立つ。こいつも連れていくのか?」
「そうだね。希少種か変異種みたいだし。何か特殊能力があるかもしれない。ミア……」
マサトがそう言いかけると、桜色の蛙は両手で両目を隠しながら、その場で蹲った。
「ご、ごめんなさいけろぉ…… わたす臭いから、た、食べても美味しくないけろよぉ…… 今まで通り穴で大人しくしてるけろから、殺さないでほしいけろぉ……」
瞑った両目からは涙がポタポタと溢れ、その小さな身体は小刻みに震えていた。
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