66 - 「亜竜の咆哮」
(過去に討伐したモンスター? カード化? まじか……)
過去に討伐したモンスターで、この状況を覆すことが出来そうな強者といえば……
⑴ ワイバーン
⑵
(まぁ間違いなくワイバーンだろうな)
すると、手の平にワイバーンのカードが光の粒子とともに出現した。
・[UC] ガルドラのワイバーン 4/4 (赤)(4)
飛行
(5マナで4/4かぁ…… 思った以上にショボいカードだった…… 対峙したときは死ぬかと思ったのに)
とはいえ、起死回生となり得るかもしれない貴重な中型モンスターだ。すかさず召喚する。
「ガルドラのワイバーン、召喚!」
紅色の光の粒子が、目の前を螺旋を描くように旋回して舞い上がる。
その旋風の中心には、大きな翼を広げた巨大な光のシルエットが。
光の放流が止まると、ワイバーンを形どっていた粒子が周囲へと四散。それと同時に、モストンの方へ向けてワイバーンの咆哮が轟き、地面を揺らした。
――ギャァオオオン!!
ワイバーンの背後にいるのに、更に言えば味方なのに、マサト自身も筋肉が一瞬硬直した。
亜竜といえど、竜種にはそれだけの
マサトは、その咆哮に毎回ビクビクさせられつつも、運転中に突然クラクションを鳴らされたときの驚きと似てるなぁと、なんとも緊張感のないことを考えていた。
マサトの反応は毎度の如く大したことがなかったが、対峙していたモストンの変化は劇的だった。
ワイバーンの咆哮を間近で直接浴びたモストンは、全身の筋肉を硬直させながら仰向けに倒れ、そのまま気絶してしまったのだ。
モストンだけでなく、近くにいた
幸い距離があったお陰で気絶までいかなかった
咆哮を聞いた全ての
「全軍、総攻撃ぃいいいい!! 奴らを殲滅しろぉおおお!!」
――ガアアァァ!!
――――ギャァオオオン!!
ゴブリンとワイバーンの雄叫びを背に浴びながら、マサトは一直線にモストンまで間合いを詰める。
そして――
両断。
気絶したモストンを宝剣であっさり斬り殺すと、迫り来るゴブリンやワイバーン達に怖れを抱いた
逃げ遅れたり、ワイバーンの咆哮で動けなくなっている
改めて周囲を見渡せば、周囲には大量の
辺りは糞尿を撒き散らしたような悪臭と生臭い臓物の臭いが充満しており、とても酷い状態だ。
すると、満面の笑みでシュビラが駆け寄ってきた。
「旦那さまぁああ! ご無事で何よりなのだ! われは旦那さまのことを信じて頑張っておったのだぞ?」
マサトに抱きつきつつも、上目遣いで褒めてほしそうにモジモジするシュビラ。
俺はシュビラの頭を撫でながら、ゴブリン達がいなかったらこの里はどうなっていたんだろうかと想像した。実際はシュビラが洞窟を掘り進めなければ、
「やっぱり、シュビラをこの里に向かわせておいて正解だったか。時間稼ぎありがとうな」
「くふふ。われは旦那さまの妻だからの。当たり前のことをしたまでよ」
「よしよし。いい子いい子」
「くふふふふ……」
「可愛がる」だとか「褒める」という機会が現実世界で皆無だったマサトの褒め方も酷いものだったが、シュビラは満足そうにその頬を緩めている。
シュビラがマサトと2人だけの空間を作ろうとしている最中、その意図を知ってかしらでか、シュビラの意図を汲まずに割り込んでくる者がいた。
「マサト君、待ってましたよ。幸い、里の住人は全員無事です。私の知る限りで何人かゴブリン達も殺られてしまいましたが、彼らは十二分な働きをしてくれました。彼らのお陰で住人だけでなく、里も無事です。本当に助かりました」
「いえ、元々こういう事態を想定して残していった戦力でしたから。里の皆が無事で何よりですよ」
「のぅ、ネス。そなたは無粋という言葉を知らないのかの?」
「おっと、これは失礼。用件はすぐ済みますので」
「はぁ、仕方ないの。すぐ済ませるのだぞ」
「はい、シュビラ様」
(シュビラ、様? 今、様付けしなかった?)
マサトはネスが自分のことを君付けなのに対し、シュビラのことを様付けするネスに違和感を覚えた。自分が不在の間に2人に何があったのか凄く気になったが、次のネスの言葉でその疑問も吹っ飛んでしまった。
「先ほど里に攻めてきた
「は? 数百倍? だってこれだけでも数百はいそうだけど……」
あまりの数に一瞬聞き間違いかと思ったが、どうやら事実らしい。
「はい。今回攻めてきたのは精々1000くらいでしょう。地中へ出てこれたのはその半分にも満たなかったようですが、これはシュビラ様が適切な対処をしてくれたお陰です」
「で、でも何でそんなことが分かるんです? そういう魔法があるんですか?」
「はい。魔法というと少し誤解が出るかもしれませんが、この里には周辺の生命体を感知する大型の魔法陣が組んであります。今回はそれを起動して確かめたので、間違いないはずです」
「そんな魔法陣が…… さすがはファンタジー世界……」
現実世界でのソナーや体温感知を組み合わせて規模を大きくした何かだろうか。魔法だからと言われればそれまでだが、そこまで敵の規模を把握出来るなら、もっと早く気が付いていないと可笑しい規模の相手じゃないかと疑問が湧いてきた。
「でも、何でそこまで精密な探知が出来るのに、今まで何万もの数がいる種族の存在に気が付かなかったんですか? それとも最初から気が付いて……」
「いえ、この魔法陣は
「ただ……?」
そこで話を一度区切り、視線を外して下を向いたネスに嫌な予感を覚える。
絶対に何かある……
「マサト君には謝らねばならないのですが、緊急事態だったとはいえ、マサト君の所有物である “濃厚な
「旦那様、緊急事態だったのだ。われが許可を出した故、大目に見てはくれんかの?」
「なんだ…… そんなことか……」
一瞬、どんな爆弾を落とされるのかドキドキしたが、勝手に置いていった水晶を使った程度なら何の問題もない。
「水晶なら有効活用してくれていいですよ。出し惜しみして里に被害が出るくらいなら使っちゃってください」
そういうと、ネスにいつもの笑顔が戻った。
まるで俺がそういうのが最初から分かっていたかのような感じだなぁと勘ぐってしまうが、恐らくネスさんのことだから想定通りなのだろう。末恐ろしい人である。
「マサト君ならそう言ってくれると思ってました。ありがとうございます。探知した際、あまりの
「得られたものですか?」
「はい。どうやらこの里へ3つの集団が向かっているようです」
「3つ? それはレイア達じゃなくて、それ以外にも?」
「レイアがいる集団の後を尾けるように、150〜200人程の集団がいました。そしてそれとは別に20人に満たない人数の集団も。心当たりはありますか?」
「200人規模の集団は恐らく敵ですね。俺を捕まえようとしてくると思います。その後の20人は…… ちょっと分からないです。どちらにせよ、相手の出方を窺ってから対処したいですね」
20人規模の方については、一瞬、うちのクランメンバーかなと思ったが、人数が多過ぎるので違う可能性も高い。もしかしたら
しかし、200人規模の方は間違いなくボンボの野郎だろう。まさか森の中まで追ってくるとは思わなかったが……
「分かりました。と言っても、私達は隠れることしか出来ませんので、対処はマサト君にお任せします」
「了解です。当面、この問題が片付くまでここにいますので、何でも言ってください」
「心強いですね。分かりました。では遠慮なく相談させてもらいますよ」
「あ、いや…… その……」
(前言撤回したい!)
ネスさんに隙を与えたら貪り尽くされそうだと思い直し、前言撤回しようともたついていると、再びシステムメッセージが目の前を横切った。
《マナ喰らいの紋章 Lv10 解放》
『新たなデッキが解放されました』
ネスとの会話中も、ゴブリン達が殺した
その恩恵により、新たなデッキが解放されたのだが――
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