47 -「異世界10日目:初依頼」

 異世界10日目の朝。


 俺たち3人は、メイドさんが部屋へ運んできた朝食を食べながら、この後の予定を話し合った。



「里にはすぐ戻らなくても大丈夫だぞ? 緊急で必要な物の買い出しでもないからな」


「そうなの? じゃあなぜ買い出しに?」


「ネスがお前の意向を汲んだのだろう。ぷれいやーだったか? 探していたんだろ?」


「あっ……」



 やべ、すっかり忘れてた。


 いつの間にかVRのRPGをプレイしてる感覚になってたわ……


 ほら、最近イベント発生が多いから……



「その顔は…… 忘れていたのか? 重要なことでないのならいいんだが」


「あー、重要なんだけどね。まぁ積極的に探す必要もなくなったかな。俺以外にマジックイーターが現れたっていう情報もないんだよね?」


「今のところ、そういった噂は聞かないな。マジックイーターが現れたとすれば、大陸中にその情報が飛び回るはずだ。そのくらいの事件だと思った方がいい」



 まじかー……


 間接的に「だからこれ以上は問題に首を突っ込むなよ?」と言われた気がする。



「気をつけるようにはするけど、限界はあるからなぁ。今は戦力を整えることに専念したいっす」


「戦力? どこかと戦争でもするつもりなのか?」


「いんや。必要としているのは悪意から身を守るための戦力だね。ベルを拉致しようとした貴族とかから自衛できる力をつけないと」



 俺の発言に、隣でパンをはむはむしていたベルが、こっちを向いて微笑んだ。


 口元にパンカスが付いてて微笑ましい。


 レイアは俺の発言が意外だったのか、目を丸くしている。



「自衛のための戦力か…… 確かに必要だな」


「そそ。で、一応その仕込みは既にしてあって、ネスの里では毎日4体ほどゴブリンが召喚され続けてるはず」


「毎日4体!? いつの間に……」


「で、俺は召喚に必要なマナを狩りで集めたいんだけど、人目につかない場所ないかな?」


「ないこともないが…… そうだな。私に一つ提案がある」



 レイアの提案は単純だった。


 俺が魔力マナを取り込んでる姿を、精霊や魔法の類いだとミスリードさせるため、魔法使いの格好をするという案だ。


 確かに、熊の狩人ベアハンター三葉虫トリロバイトは、俺がマナを大量に取り込んでいる姿を見ても、光の勇者としか認識していないようだった。


 つまりは見た目次第だと。



 因みにベルはその手の知識が全くないらしく、マジックイーター? なにそれ? 状態だった。念のため口止めはしてあるが、ベルなら大丈夫だろう。


 俺たちは朝食を食べ終わると、さっそく武器・防具屋を巡りに出掛けた。


 そしてレイアとベルに着せ替え人形扱いされること小一時間。



 筋肉質な魔法使いの出来上がりである。



 違和感が半端ない。


 自分で言うのもなんだけど、手に持った杖でモンスターを撲殺しそうな雰囲気がある。


 頭の悪そうな魔法使いだ……


 いや、実際頭はあまり良くないのだが……


 杖は俺の馬鹿力にも耐えられるよう鋼鉄製に、そして防具は動きやすさを重視してズボンスタイルのタイプにしてもらった。色は主に緑系が多い。とんがり帽子はない。フードローブ型だ。


 不思議なことに、購入した装備はステータスに反映されなかった。


 効果が弱いからとかだろうか? モンスターへの装備は木の槍でも+1/+0になったのに…… 謎だ。


 どうせモンスターを狩るならばと、冒険者ギルドへFランク依頼を確認しに向かう。


 レイアは外の路地で待機している。



(そういえば、レイアのLvはいくつなんだろうか。宿に戻ったら水晶で調べたいな……)



 冒険者ギルドの扉を開けると、昨日とは打って変わって静寂に出迎えられた。


 昨日と冒険者の数は変わらないみたいだったが、彼らがマサト達に向けた目は、昨日とは全く異なるものだった。


 依頼掲示板で依頼を眺めていると、冒険者達のヒソヒソ声が次第に大きくなっていく。



「おい、噂の奴がきたぞ! 竜語りドラゴンスピーカーのリーダーだ!」


「あいつが? 魔法使い? 聞いてたのと違うぞ?」


「隣にいる子は噂通り超絶可愛いな…… おれも竜語りドラゴンスピーカーに入ろうかな……」


「Lv24の腰の引けた戦士なんて誰が欲しいと思うんだい? 現実を見なよ」


「酷くね!? でも噂じゃあいつのLvは一桁だって言うぜ?」


「まじかよ。じゃああいつ倒して俺が竜語りドラゴンスピーカーのリーダーに……」


「止めとけ止めとけ。あの黒髪、昨日大通りで暴れてた奴だろ? あのボンボに噛み付いたとか。関わらない方が吉だ」


「あのボンボに…… あいつ死んだな……」



 情報漏洩しまくりじゃねーか!


 誰だよLvまで情報漏らしたの!


 そしてボンボはやっぱりヤバイ奴か……


 分かってたけど……



 Fランクの依頼はロクな物がなかった。


 ゴミ拾いに、庭の草むしり、家畜の世話に……



「あ、これどうかな?」


「んー? 薪割り?」


「そう。でも場所が郊外なの。城壁の外なら魔物もいるんじゃないかなって」


「なるほど。じゃ、それにしよっか」



 ----------------------------------

【 Fランク依頼 】

 ・仕事:薪割り

 ・報酬:100〜500G、成果によって変動

 ・支払:依頼完遂時に現地支払い

 ・人数:1〜5

 ・場所:ローズヘイム郊外南、7地区、グリーディ農場

 ・期間:半日~1日

 ・期限:無期限

 ・依頼主:グリーディ

 ・備考:根性のない奴はいらん

 ----------------------------------



 備考のコメントが気になるけど、まぁいっか。頑固親父なんだろうきっと。


 俺たちはこの張り紙を取ると、ノクトさんがいるカウンターへ持って行った。



「薪割りの依頼ですね。では、登録証の提示をお願いします」



 俺とベルの分のギルドカードを手渡す。


 ベルも身体強化適性により力が強いから適任の依頼だろう。


 報酬は安いが何事も経験だと2人で受けることにした。



「ありがとうございます。これで受注契約が完了しました。依頼完了後は、依頼主からこの依頼書に完了のサインを必ず貰ってください」



 ノクトさんは相変わらず表情を変えずに淡々としている。



「はい。じゃあ行ってきます」


「お気を付けて」



 マサトとベルが冒険者ギルドを出ると、ギルド内は再びマサト達の話で盛り上がった。



「あいつ、何の依頼受けたんだ?」


「ただの薪割りだってよ」


「薪割り? ああ、あの金に卑しいグリーディの依頼か。ご愁傷様だな」



 この喧騒の中で、一人だけそっと外に出て行く者がいたが、彼らは気にも留めなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る