26 -「熊の狩人」
わたしが所属するBランクパーティ「
リーダーのワーグさんとサブリーダーのヒグさんは、どちらも身長が2m程ある巨体で、見た目も髭もじゃ。
時々、ドワーフに見間違えられたりします。
ドワーフと比べたら、流石に大き過ぎですよね。
ワーグさんもヒグさんもどちらも通称があり、ワーグさんは「黒熊」、ヒグさんは「茶熊」と外では呼ばれていますが、この通称には、本人達も満更でもないみたいです。
元々はワーグさんとヒグさんに、幼馴染のマーレさんの3人での狩りを生業としていたと聞いています。
因みにマーレさんも大柄な女性です。
喧嘩っ早く男勝りな性格のせいで、外では「じゃじゃ熊」と呼ばれているみたいですが、本人に聞かれたら絞め落とされるので、口が裂けても言えません。
その3人に憧れて、フェイスさんやラアナさん、それにわたしがパーティに加わって今に至ります。
フェイスさんはラアナさんに惚れてるみたいですが、残念ながら、ラアナさんはフェイスさんがタイプではないらしいです。
因みに、わたしもフェイスさんはタイプじゃありません。
残念ながら。
今はローズヘルムの酒場で、次の依頼の打ち合わせ中です。
「とうとう北の最果てと言われるローズヘルムまで来た訳だが……」
「ワーグさん、何か困り事ですか?」
珍しく歯切れの悪いワーグさんに、ラアナさんが質問を投げかけました。
「うーむ。ここから更に北西にある森には
「B+!?」
全員が驚きのあまり一瞬止まりました。
わたし達、
B+は格上です。
危険度が格段に跳ね上がります。
「そんなに、強いんですか?」
ラアナさんが不安そうな顔をしています。
わたしも可能なら危険なのは避けたいです……
すると、フェイスさんが説明に参加してきました。
「おれっちの聞き込みだと、どうやらその熊は岩に擬態するらしいぜ? 岩の見た目だから
「フェイスー、まさかあんたの聞き込みって言うのはそんな上っ面の情報だけじゃないだろうね?」
「ちょっ、マーレ姐さんそんな訳ないじゃないっすか〜。
「ほう、ってことは森の中に岩場があるところを探せばいいってことかい」
「その通り!」
「で、なんでB+になるくらい危険なんだい?」
「うっ…… そ、それはっすね…… 土魔法使うから、とか?」
一同溜息。
フェイスさんが甲斐性なしなのは今に始まったことじゃありません。
皆は、またか…… といった感じです。
「ったく。パン、あんたの出番だよ」
マーレさんが、やれやれという仕草でわたしに話題を振ってきました。
フェイスさんはテヘペロ顔です。
わたしはフェイスさんにジト目を返しつつ、ギルド付属の資料室で調べたことを皆に報告しました。
「
「よっ! パンちゃんさすが! やっぱり下調べは資料室に限るね!」
フェイスさんのふざけた合いの手をスルーして話を先に進めます。
「
「岩なんて名前がついてる時点で硬いことは覚悟してたけどさ、硬い上に俊敏ときたら人間様にはとてつもなく厄介さね」
「うーむ。それだけならB止まりだと思うが…… パン、まだ続きがあるんじゃないか?」
さすがワーグさん、鋭いです。
あ、マーレさんにジト目で見られました。
ごめんなさい!
出し惜しみするつもりはなかったんです!
今言うからそんな眼で見ないでくださぃー!
「は、はい。大抵は群れで狩りをする習性があるとか、厄介な毒をもっているとかで危険度が加算されるのが普通ですが、今回の熊さんについてだけは違うみたいなんです」
「パーン、勿体ぶらないで早く教えておくれ」
やばいです!
マーレさんが、段々イライラしてきました!
「え、えっとですね。
「かーっ。熊ってのはどこ行ってもはちみつ好きかい! で、その
「
「さすがカルドラの地とでも言った方がいいかね。蜂すらもC+ときたもんだ。ワーグ、今回は止めておいた方がいいんじゃないかい?」
わたしもマーレさんの意見に賛成です。
B+とC+を同時に相手することとなったら、きっと全滅は免れません。
皆の視線がワーグさんに集まりました。
ワーグさんは目を瞑りながら、もじゃもじゃの黒髭の先を片手で弄っています。
「うーむ。ヒグ、お主はどう思う?」
話を振られたヒグさんは、ゆっくりと話し始めました。
「……おいらは~、
(言うと思った……)
ヒグさんは、はちみつに目がないはちみつマニアです。
毛皮コレクターのワーグさん、はちみつマニアのヒグさん、熊肉大好きマーレさん。
この3人が熊狩りに拘る理由はここにあったりします。
ヒグさんの発言で、皆がなんとも言えない表情をしました。
でも、こういうときは大抵がやる方向で動くことになります。
「しゃーないね~。フェイス、あんた他のパーティの目星付いてんだろ? さっさと白状しな」
「あっ! ちょっとその振り方雑過ぎないっすかね!? せっかく先読みして動いてたのに、なんだか報われない感じ!」
「やかましいっ! 後であたしがたっぷり抱擁してあげるから、それで我慢しな」
「丁重にお断りさせていただきます」
「あんっ!?」
「ひぃっ!? 暴力反対!!」
まーた始まった……
ワーグさんはオデコに手を当てて諦めポーズ。
ヒグさんは微笑みながら傍観してます。
心ここにあらずって感じです。
きっと、はちみつのことでも考えてるに違いありません。
わたしと同じように、視線をそれぞれに移していたラアナさんと目が合いました。
わたしが「お願いします」との意味を込めて頷くと、ラアナさんは苦笑いを浮かべました。
「マーレさんもフェイスも、その辺にして話を進めません? フェイスを八つ裂きにするのは、フェイスの話を聞いた後でも遅くないと思うんです、私」
「げっ!? ちょ、ラアナちゃんまで酷いっ!?」
「かっかっか! ラアナも言うようになったじゃないか! あたしゃ~うれしいよ!」
ラアナさんの思わぬ参戦に、がっくりと項垂れるフェイスさん。
(自業自得ですね)
マーレさんは、仰け反り気味に大笑いしています。
そんな2人を気にもせず、ラアナさんは話を促しました。
「フェイス、脱線せずにちゃんと話してね? 私、そろそろお腹空いてきちゃった」
「お、おう! 任せなさい!」
フェイスさん、既にラアナさんの尻に敷かれてます。
本人はこんな関係で満足なんでしょうか……
「ごほんっ。おれっちが話を通したのは2つのパーティだ。1つはおれっちたちと同じBランクパーティ、
フェイスさんの言葉をきっかけに、マーレさんが胡乱な眼つきに変わりました。
「あのロプトんとこかい。気乗りしないねぇ」
「まぁマーレさんがそういうのも想定済みっすよ。で、もう1パーティは……」
Bランクパーティ「
各地で野良(パーティがいないソロの人のこと)を集めて、依頼を受け、そしてまた移動するというのを繰り返しているらしいですが、パーティメンバーの死亡率が高いとか、あまりいい噂は聞きません。
「Cランクパーティの
「ろくなのがいないじゃないのさっ!!」
Cランクパーティ「
そのパーティ名の通り、虫好きな変態が3人集まったパーティです。
3人でCランクパーティを長年続けているだけあって、腕は確かだと思いますが、わたしも出来ればお近づきになりたくない人種の人達だったりします。
だって、捕まえた虫を、生で食べるとこ見ちゃったんだもん……
「ちょっ! ま、待った! そもそも
「わたしもそれは感じてました。実入りの良い依頼はあるのに、地元のパーティは、ガルドラでの依頼を避けてるんですよね」
「はぁー…… 仕方ないね。ヒグの幸せそうな顔を見たら、諦めるって選択肢はなさそうだし、いっちょ腹をくくるかね」
「うっす!」
結局、マーレさんの一存で決定。
受ける依頼は「
現場判断は、
でも、わたし達はこの時、もっと念入りに調べておくべきでした。
この都市が、北の最果てと言われる理由は何なのか。
ガルドラの地での狩りが、なぜ地元パーティに避けられているのかを。
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