24 -「北の最果て」


 北の最果て、ローズヘイム。


 ガルドラ連山の南東に位置し、ガルドラ樹海にある希少な資源の交易で発展した要塞都市だ。


 ガルドラへの開拓が盛んだった時代、ガルドラ連山に住むドラゴンの怒りを買ったことで、一度滅んだ過去のある都市でもある。


 ドラゴンの怒りを買ったとされる原因は諸説あるが、その中でも有名なのが、ドラゴンの卵を奪ったのが原因とされる説や、大量の樹木を伐採したのが原因とされる説だ。だが、実際何が原因だったのか、真意を知る者は都市を襲ったドラゴンにしか分からないだろう。



 一度は壊滅した都市だったが、その壊滅した都市を見限らず、復興に全私財を投資したのが、その当時辺境伯だったローズ家であった。


 復興は軌道に乗り、以降は都市の名をローズヘイム(ローズ家の育った土地)と名を変え、現在に至る。


 ローズヘイムの北西側には、ガルドラ連山からやってくる飛竜種を迎撃するための防衛兵器が、城壁に多数設置されている。


 だが、残念ながら討伐する程の威力はなく、あくまでも撃退用の兵器という位置付けだ。


 また、実戦での使用経験はない為、実際に撃退効果があるかどうかは誰も分からない。


 過去の教訓から、現在ではガルドラへの大規模な開拓は禁止されているが、ガルドラで採取できる希少な資源はローズヘイムの貴重な交易品でもあるため、ガルドラ連山から最も遠い森林地帯での採取は現在でも続けられている。


 そのため、未開拓となるガルドラの地に眠る秘宝を求めて訪れる冒険者も少なくない。



「ローズヘイムって、この里からどのくらいかかるの?」


「そうだな、寝ずに歩き続けて2日といったところだ。ただ、夜の移動は危険だからな。移動は日中だけになる。そうなると4〜5日かかる」


「遠っ!!」



 宴もお開きとなり、皆が片付けに勤しむ中、俺はネスさんから都市へのお使いを頼まれたのだった。


 お使いの内容は、ワイバーン、剣牙獣、岩陸亀の希少素材の売却と調味料や薬の買出し。


 売却で得たお金は好きに使っていいと言われたが、里には後でいくらか寄付しようと思っている。


 レイアが道案内兼ねて同行してくれるというので、どのくらいかかるか聞いてみれば、道中野宿も入れて5日………


 まさかそんなに遠いとは思ってもみなかった。



「今回はワイバーンの匂い袋があるから、もっと早く着けるかもしれない」


「あれ持っていくのかぁ…… あれ臭いんだよなぁ……」



 匂い袋とオブラートに表現しているが、実態は、ワイバーンの糞尿やら、睾丸から取り出したフェロモンやらを染み込ませた布を入れただけの小袋である。


 ワイバーンを運搬する前に、ガルの指示でいくつか作ったのだが、とにかく猛烈に臭い。


 ポチなんて白目剥いて気絶寸前だった。


 ……いや、本当に気絶していたのかもしれない。



「命の危険を回避できるとあれば安い対価だろ。贅沢を言うな。それともマサト、お前が近付いてくるモンスターを全て蹴散らしてくれるのか?」


「まぁ努力はするけど。ゴブリンを護衛として連れてっちゃダメなんでしょ?」


「ダメだ。都市の人間と鉢合わせしたとき、面倒なことになる」


「そっかぁ」



 まぁどうにかなるか。


 宝剣があれば斬れないものもないし。


 しかし都市か……


 正直、凄く楽しみだ!


 美人のダークエルフと二人旅っていうシチュエーションもファンタジーっぽくていいね!



「私は先に家へ戻ってる。あまり遅くなるな? 夜を楽しむ時間が減るからな」



 そう言い残すと、レイアは、流し目で妖艶な笑みを浮かべながら去っていった。



(夜を楽しむ…… 時間……)



 俺はゴブ郎に傷薬を貰ってから家路についた。


 そう、夜は始まったばかりだ!


 ヒャッホゥ!




 ◇◇◇




 光の届かないはずの地下空間に、薄っすらと明かりが灯った。


 微精霊の働きかけによって発現したその光は、暗闇で隠されていた異様な室内を照らし始める。


 壁には無数の幾何学模様が印されており、部屋の中央には巨大な水晶が鎮座していた。



 その通路を、1人の男が足音一つ立てずに進んでいく。



 巨大な水晶の前で立ち止まると、男は水晶へと手を伸ばす。


 すると、水晶に何か地図のようなものが浮かび上がった。



「そろそろ隠しておくのも限界ですか……」



 男はそう呟くと、落胆するでもなく、その顔に狂気的な笑みを作った。



「くっくっく…… ですが丁度良いですね。彼らには十分な引き立て役になって貰った後、退場してもらうとしましょう」



 男が水晶から手を離すと、水晶は再び光を失った。



「たとえ絶滅したとしても、ここまで繁栄できたことを感謝してもらいたいものです……くっくっく……」



 再び暗闇に包まれたその空間に、男の笑い声だけが低く木霊していた。

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