17 -「異世界4日目:朝の一時」


 異世界に迷い込んでから、4日目の朝を迎えた。



(何か重要な夢を見ていた気がするけど…… 思い出せない……)



 一体何の夢を見ていたのか、目を覚ましてしまった今では、夢の記憶が薄れて思い出すことができない。


 諦めて辺りに目を向ける。


 幾何学模様が描かれた洞窟の天井。


 少し離れた入り口から差し込む朝日。


 昨日よりも倍増された落ち葉の上に作られた簡易寝床。


 隣には、褐色の肌の美人。


 切れ長の眼、長い銀髪。


 その美しい裸体を目にした瞬間、下半身に激痛が走る。



(い、いづっ…… 静まれ、静まるんだ…… いぃづづっ……)



 視線を下げた先には、自分でも心配になるくらいに肥大化した息子が、そこに存在していた。


 普段は皮を被っている息子も、今は立派にずり剥け、頭を赤紫色にしながらも、新しく生まれ変わった姿を主張している。


 だが同時に、この元気な状態は、俺に耐えがたい激痛をもたらしている。


 触れれば更に激痛が走るからどうしようもない。


 とにかく今は一切の欲望を捨て去り、無心となることが求められていた。



(そ、そうだ…… 水で冷やそう!)



 俺は着替えを手に取ると、レイアの裸を見ないようにして、滝壺へとがに股で向かった。


 外にはゴブリン達が野営をしており、木と大葉を組み合わせただけの簡易テントのようなものも複数出来ていた。


 見張りに立つ者、朝食を作るもの、付近を整地する者と既にそれぞれの役割分担が決められているようだ。


 これは参謀ゴブの指示だろうか。


 俺が滝壺で下半身を冷やしていると、案内ゴブが何か石を持ってきた。



「ゴブ、ゴブ」



 石の上には、草をすり潰したようなものが載っている。


 どうやら即席の傷薬のようで、腫れた息子に塗るといいらしい。



(案内ゴブ…… お前って奴は…… なんて良い奴なんだ!!)



 あまりの嬉しさに、案内ゴブに何か恩返ししてやりたくなる。



(うーん、そうだな。

 新たに名を付けてあげよう。

 略名じゃないちゃんとした名を)



「案内ゴブ、お前には特に世話になってるから、新たに名をやろう。今からお前の名はゴブ郎だ」



 すると突然、俺の胸から光の粒子が放出され、ゴブ郎の全身を包み込んだ。



(これは…… 何が起きた??

 MEに固有名付けたら召喚獣がパワーアップするなんて仕様なかったはず……)



<ステータス>

 紋章Lv4

 ライフ 40/40

 攻撃力 3

 防御力 3

 マナ : (赤×3 → 2)(緑×18)

 加護:マナ喰らいの紋章「心臓」の加護

 装備:なし

 補正:自身の初期ライフ2倍

    +1/+1の修整

    召喚マナ限界突破6



 赤マナが1減ってる。


 ゴブ郎は……



* ゴブ郎 4/4(固有名強化+1/+1、ゴブリン持続強化+1/+1)



(おお! 固有名強化なるものが! これマナさえ消費すれば強化できるのか!)



 これは使い道がありそうな気がする。


 貴重なカードを消費せずに済むとは言え、マナ効率は悪そうなので、ひとまずは温存することにしよう。



(……というか、固有名付けたら勝手に強化扱いとかならないよね?

 そうなると無闇に名前とか付けられなくなるけど……

 まぁなったらなったでいいか)



 ゴブ郎から貰った薬を息子に塗っていると、目を覚ましたレイアが裸のままこちらに歩いてきた。


 どうやら恥じらいはないようだ。


 堂々としていて、逆にこっちが気圧される……



「優しくしたつもりだったのだが。痛むのか?」



(くっ…… やるせない……)



 そしてせっかく治まった息子がまた破裂しそうになるので、レイアの方に振り向けないでいるのが悔しい。



「分かった分かった。降参だ。だから向こうで服を着てこい!」


「なんだ、本当に痛むのか。フッ、残念だ。私はまだしたりないというのに」


「いぃづづっ…… も、もう分かったからあっちへ行ってくれって!」


「私は朝の行水に来ただけだ。集落では水は貴重だからな。朝に行水できる機会もそう多くない。見ててもいいぞ? なんなら滝壺でしてもいい。私は、な」



(くっそ! 覚えてろよ…… しかしこれがVRだったら今頃現実世界の俺は酷いことになってるんだろうな…… まぁいいさ、もうどうにでもなーれ)



 俺はいそいそとがに股で洞窟へ戻り、改めて横になりながら昨夜のことを思い出していた。


 レイアとは夜中に少し話をした。


 レイアのこと。


 そして集落のこと。


 マジックイーターが伝説上の存在であり、俺が使ったショックボルトですら、今では失われた古代魔術に該当する上位呪文だということも。



 レイアの願いはシンプルだった。


 この危険なガルドラの地でしか生きられない者達の力になってほしい、ということ。


 俺は特に断る理由もなかったため、一緒にいるときくらいは協力すると話した。


 そのときのレイアの喜んだ顔がめちゃめちゃ可愛くて、物凄く心揺れたのも事実だが。



 ここを離れるとなると、問題となってくるのがこの仮拠点だ。


 後、ゴブリン達。


 レイアは危害を加えないのであれば連れていいと言ったが、ここにはゴブリン量産用の大魔法陣がある。


 管理する者は必要だろうし、何よりまた大牙獣のようなモンスターが襲ってきたときに、対処できるだけの戦力は残しておいた方がいいだろう。



 となると、連れていくのはゴブ郎、狂信ゴブ、見ゴブ、ゴブ1くらいでいいかな。


 ああ、後レッサードラゴンの卵も持って行こう。


 それ以外の、首長ゴブ、参謀ゴブ、戦長ゴブ、木偶ゴブ、紅蓮ゴブ、ゴブリン4体は仮拠点を任せて、拠点拡大に努めてもらうか。



 傷薬が効いたのか、息子の痛みも消えていた。


 ライフが減っていないのに痛みを伴うというのは、どういうことだろうか……


 これも気に留めておかなければいけない。



 そろそろ新たなゴブリンが召喚される頃かな〜と考えながら、俺は風で髪を乾かしているレイアの裸を目に焼き付け直した。

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