第27話 秘密裏に抜け出します
「あ"ー…」
「…」
「zzz…」
「…」
『まだ出来ないのか!! これぐらい普通の者なら出来る事だぞ!!』
俺はそのあまりの光景に頭を抱えていた。
胡座をかきながらボーッと天井を見上げる人の子供、そしてそれを見ても尚もスパルタを続けるレイスが1匹。
1人は完璧に寝ているが…
見てくれ、背後にいる俺達を。怯えているスライム、震えているワームやホワイトラビット達を。
一言言わせて貰おう。
「…可哀想だ」
俺はボソッと呟く。
ジャルデの魔法教室が始まって5日。サーナの目の下には真っ暗な隈が出来ていた。
これは先生がレイスだという所為が強いだろう。レイスは睡眠を必要としない…。
つまりーー
『寝てからまだ15時間程しか経っていないぞ!! 私が師匠と修行してた時は72時間なぞ普通にーー!!』
そう。あり得ない怒号、言葉がジャルデの口から飛び出している。
俺が最初に止めなかったばかりに2人、もといサーナが可笑しくなってしまった。
これは止めなかった俺の所為にある。止められた俺の所為である。どうにかしなければ…!!
『はぁ…5分休憩にする。』
「「!!」」
そう思っていると、ジャルデがその2人の姿に見兼ねたのか、休憩時間にして洞窟の奥へとガギルと共に向かう。
しめた!
俺はそれを見計らって2人に近づいた。
そしてーー
「その、何だ、気晴らしにどっかにでも行くか? ルイエも此処に居たらジャルデから指示されて五月蝿いだろうから、秘密で抜け出そう」
「ほ、本当ですか!?」
「おんぶ…おんぶ…」
俺が早口で捲し立てると、2人は俺に体を擦り寄る様にして近づく。
相当精神がすり減っていた様だ。
「えー…いいなー…」
「エンペルはまた今度な。ワーム達と遊んでてくれ」
「うーん…分かったー…」
俺がルイエをおぶるとしたら、サーナ、エンペルの2人の面倒を見ないといけない。それはおぶりながらでは無理があるだろう。
あまり遠くに行く気はないが、警戒は必要だろう。
「よし、じゃあ早速行くか。ジャルデが来ないうちに」
「はい!」
「寝る寝る寝る寝る寝る!!」
俺達はエンペル達に口止めを頼みながらも、洞窟から外へと出た。
「よし…上手く抜け出せたな」
「うん!!」
「zzz…」
俺の周りにはサーナが駆け回る。場所は少し気分が変わる様にと、山の麓まで来ていた。
やはり子供は元気に外を駆け回るのが1番の健康法である。
因みにガギルは今、洞窟の奥で寝ていたので気づかれていない筈だ。最近寝ている事が多いガギルだが、睡眠が深い様で、うるさくしても最近は中々起きる事がない。
つまり、今を逃したら魔力を感じ取れるまで2人はジャルデからのスパルタから逃げる事を出来ず、やり続けていた事になっていたという事だ。
「はははははっ!!」
「zzz…」
2人が元気そうで何よりだ。
「はははっ…はぁ…」
しかしそんな時、サーナが小さく溜息を吐くのに俺は気付いた。
それは疲れて吐いた息ではなく、何度も空を見ては大きく息を吐いている。
「サーナ」
「…え、あ、何ですか?」
下手に聞いたらダメだ。
「最近その、何だ…楽しいか?」
「え、は、はい。楽しいですけど…えっと何か私悪い事しちゃいましたか…」
サーナは訝しげな視線を向け、後退りする。
し、失敗したぁあぁああぁあっ!!
「その、違う、違うぞ? ただ、何だ…最近サーナと話してなかったからな。それにジャルデにさっきまでは拘束されていたからな。少し心配になっただけだ」
「そ、そうですか……」
サーナが言った後、俺達2人の間に沈黙が訪れ、ルイエの寝息だけが響く。
何か変な事を言ってしまっただろうか。
「楽しい…ですよ?」
それから数十秒後、サーナが最後に?を付けたが言った。
「本当か? …ハッキリ言うが、アソコにはお前以外の人は居ない。それでも楽しいか?」
俺はしつこくも咄嗟にだが、答え辛いだろう事を口にしてしまい、言った後口を抑える。
しまった…気を遣って楽しいって言ってくれただろうに…。俺とした事が何度も失敗してーー
そう思った。
しかし、
「それでも、私は楽しいです。種族が違うのに私を治してくれたアノムさん達…しかもその後も何の抵抗もなく私と接してくれた皆さんが…村を追い出された私にとってはとても温かかった」
サーナは儚げな笑顔を浮かべ、答える。
そんな事をサーナが思っていたなんて…良い子だとは思っていたが、本当に良い子だ。
「逆に私の方は何も出来ていないので、早く魔法を覚えて、皆さんの役に立ちたいですよ!!」
「……そうか」
俺はその答えに思わず笑みが溢れる。
そこまで考えていたなんて…俺の背中に乗っている寝坊助にも聞かせてやりたいな。
「でもあまり無茶をする必要はない。ゆっくりと気長にやれば大丈夫だからな。さっ、もう少し散歩したら洞窟に戻るぞ」
俺がそう言って足を運び始める。
しかし、その背後からついて来る足音が聞こえず、俺は振り返った。
「サー…ナ?」
そこにサーナの姿は見当たらなかった。
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