第20話 まさかのルイエが

「ルイエがか?」


 俺はジャルデの言った事に混乱を覚えていた。

 因みにエンペルは目をキラキラさせながらルイエを見ている。


『そうだ。間違いない』


 魔導師。

 それは人間の中で魔法を戦闘に用いる者達の名称。人間の魔物とは比較にならない知能によって引き出されるその力は、魔物と切迫する為の能力として神が人間に与えた物とも言われている。


 その筈だ。俺達魔物が、魔導師になんてなれる訳がない筈なんだ。


『ふむ…中々の魔力量だな…まさか魔物が魔導師になるとは…』

「魔物じゃない。ルイエよ」

『む、す、すまなかった。ルイエよ』


 ジャルデはルイエに頭を下げる。

 ルイエのそのマイペースぶりと、少し不機嫌そうな口調に、ジャルデは少し戸惑っている様だ。


 よくこんな快挙にルイエは…まぁ良い。それよりもーー。


「何故ルイエが魔導師だと分かるんだ? 特段変わった所がない様に見えるんだが…」


 俺が質問すると、ルイエが首を傾げて此方を見る。


「アノムには見えない?」

「え? 何がだ?」


 ルイエが前の足を天井に向けて上げる。


『なっ!? 魔力を感知したのは今日の筈!! なのにこの強さ!? あ、ありえない!!』


 ジャルデが大きく声を上げて驚く。


 どうやらルイエは俺達には気づかない、凄い事をしている様だ。ま、だからと言って俺達が驚く事はないが。


「ん」


 ルイエが少女の湯たんぽになりながらも、こっちを向いてサムズアップする。器用なものだ。


「いいなー、私も魔導師になりたーい」


 此方が魔導師の話で盛り上がってる中、エンペルがハッと気付いたかの様に声に出す。


「エンペル、魔導師ってのは人間の中でも何百人に1人の確率でしか居ないぐらい珍しいんだ。そう簡単になれる訳がない」

「えー…私もブワーッて何か出したーい!」


 俺がエンペルを鎮めてる中、ルイエが口を挟む。


「エンペルはカッコいいし、私みたいに鈍臭くないから、魔法とかじゃなくて剣とかで戦えばいいと思うわ」


 ルイエがそう言うと、エンペルはプルプルとしばらく震えた後ーー


「え、えへへ〜! そうかな〜!!」


 大にやけを繰り出し照れていた。


 ルイエ…流石にエンペルの扱い方が上手いな。昔からの付き合いだった俺達だが、女子同士の友情というものだろうか。中々にお互いを知っている。


『それよりも…ルイエが魔導師になった事についてだが…』

「ん、あぁ。何で急にルイエまで魔導師になったんだ?」

『うむ…恐らくだがその少女を治す時、一緒にルイエの魔力までにも干渉してしまったのかもしれん。ちょうど近くに居たのだ。なくはない話だ』


 そう言えばルイエの奴、何かムズムズしてたな。


 そこで俺はある事に気付く。


「なら俺も居ただろう?」

『才能がなかったのだろう』


 ジャルデにキッパリと否定される。


 そんなハッキリ言わなくても…。


 俺が落ち込んで肩を落としていると、エンペルが大きく欠伸をする。


「私…何だが眠くなってきたー」

「そうか、もう時間も遅いからな。取り敢えずルイエは俺と一緒にこの子を温め続けよう」

「分かったわ」

「エンペルは………」

「うんうん!!」

「…こ、この子の枕になってくれ」

「まかせてー!」

「ガギルは……もう寝てるか」


 視線を横にズラすと離れた所で、ガギルとワームは少しイビキをかきながら寝ている。相当疲れていた様だ。


「そしてジャルデ」

『む、今度は私か』


 腕を組みながら此方を見下ろし観察しているジャルデに、俺は言った。


「お前は見張りな。この子が良くなるまで」

『な!? 何か私には雑ではないか!?』

「そんな事ない」


 首を横に振る。


 獣風情と言った事をそこまで怒っている訳ではない。


 決してない。


 俺はジャルデからの怒鳴り声が聞こえない様に、耳栓を人数分出して皆んなに取り付けると、静かに眠りについた。

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