私だけを見て
如月
第1話
「お願い。やめて。」
私は同じ言葉を繰り返す。
高校二年生になり新しいクラスの人達と打ち解けてきた頃。ある1人の女生徒が私を呼び出す。1年生の頃少しだけ話をした事があった。
「どうしたの?」
そう彼女に問うと突然髪の毛を引っ張り、水をかけられた。彼女は私を呼び出した時だけ「学校に来るな。」とか「気持ち悪い顔で笑うな。」とかそんな事だけを言って他では何も話しかけてくることはなかった。
私を殴る彼女は何が不満なのだろうか。皆は私のことが好きだ。成績も優秀で誰とでも仲良く接し、たくさんの人に愛されて生きてきた。なぜなのだろうか。私に強く当たり、殴り、酷い仕打ちをするのは彼女だけだ。
初めて彼女が私を呼び出した日から約2ヶ月が過ぎた頃。
「何でこんな事をするの?」
彼女に問うた。
「みんなあんたなんかを慕って、いつも作った笑顔で薄気味悪いんだよ。」
驚いた。今まで私の笑顔を作り笑顔だと気づいた人は誰一人居なかった。嬉しかった。"︎︎なか︎︎"︎︎の私の事を見てくれた気がした。
「ありがとう。」
彼女は驚いたようだったが私の言葉を無視した。初めて︎︎ ︎︎"︎︎なか︎︎"︎︎の私を見てくれた。嬉しくて堪らなかった。
私はその日から彼女にたくさん話しかけたが彼女は無視をする。他の人なんてどうでもいい、彼女だけと接していたい。他の人は適当にあしらい、彼女との時間だけを優先した。彼女に近づくだけでも幸せを感じる。これが愛というものなのだろうか。
彼女はいつも一人だった。私には都合がよかった。私だけを見てほしかったから。でも、友達が言っていた。彼女には隣のクラスに好きな人がいるらしい。彼女はその男をいつも見ていた。その男は私に告白してきた人だった。告白してきたとき付き合えば良かったのだろうか。そうすると彼女もその男を諦めていたのだろうか。
彼女の目に私がうつるのは、私を呼び出し、私に強く当たり、殴るときだけだった。だから私にとってそのときが一番の幸せを感じていた。
帰りのチャイムが鳴るとすぐに彼女の席に行った。
「好きな人いるの?」
「.........」
「兄弟はいるの?」
「.........」
「私の事嫌い?」
「.........嫌いに決まってるでしょ。」
そう言い放って帰って行った。案の定予想していた言葉が返ってきた。でも返事をしてくれた事が何よりも嬉しかった。彼女の頭の中が私だけになってほしい。
好きな人ができた。
そんな軽いものじゃない。
愛する人ができた。
それでも足りないくらい。
私は一人だった。"︎︎そと︎︎ ︎"︎︎の私は皆と仲良くできていて羨ましかった。私だって皆に愛されたかった。でも︎︎ ︎︎"︎︎なか︎︎ ︎"︎︎の私は誰にも愛されないどころか知られる事すらなかった。だから彼女が私を見てくれた事が嬉しくて、私だけを見てほしかった。
たとえ、それが好意でなくても。
私だけを見て 如月 @kisara_g
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