第18話 説明チュートリアル
気がつくと、真っ白い部屋にいた。
家具もなければ、窓も出入り口も、本当に何もない真っ白い空間。
異世界転生小説にありがちな神との会合の場面のような部屋。
「まさか俺って死んだのか?」
『貴方は死んでいません』
「うおっ!?」
まさかこんなところで声をかけられるなんて思わず驚いてのけぞってしまう。
慌てて周りを見渡してみるが、どこにもその声の主がいない。
「ホラー? ドッキリ? なんなんだ?」
これまでの人生で一番パニクってしまっているといっても過言ではない状況にオタオタしていると、また声が聞こえてきた。
『スマホを出してください』
何故かわからないがその指示に素直に従ってしまい、いつの間にかポケットの中に仕舞われていたスマホを取り出す。
するとスマホの画面には、緑色のヒラヒラワンピースを着用した、可愛らしい見た目の羽根の生えた少女が写っていた。
『やっと気づいてくれましたか。まずは自己紹介をしましょう。私はチュートリアルピクシーのチュピーといいます。以後お見知り置きを』
なるほど、チュートリアルピクシーだから妖精のような見た目をしているのね。それにしても、そのまんま略しただけの名前とは、適当がすぎる。なんて思いつつも早くもこの状況に慣れている自分がいることに気づいて驚いてしまう。先程まで自分の人生史上一番混乱していたというのに、一体どうなっているのだろうか。
『それについては貴方の持つ適応体質というスキルの影響でしょうね。こちらとしてはそこに関与はしていません』
「なるほどね」
そう言われると、素直に納得できた。
流石レアスキル。略してさすレアだ。
『納得してもらったところで、早速説明チュートリアルを始めます。まずはこの空間の説明から。この場はとある存在によって作られた空間で、いわば夢のような世界であり、現実の肉体には影響が及びません。ちなみに現実の肉体は現在睡眠状態にあり、この場で過ごした時間と同じだけ時が流れる仕様で、それはダンジョン探索時も変わりません』
つまり現実の肉体ではなく、精神体というかゲームをする時の仮想アバターのようなものでダンジョンに行くことになるわけだ。
現実の肉体に影響しないならダンジョンで死んだとしても本当の死ではない。
つまりゲームで死ぬのと同義と解釈できる。
『その認識で間違いありません。もちろん、ダンジョンで死ぬときは現実で死ぬのと同じ苦痛を感じるようにはなっていますけどね。ダンジョンは初級、中級、上級、特級、超級、神級の六段階に難易度がわかれていますが、上に行けば行くほど当然リスクは高くなり、またリターンも高いものが期待できます』
いくらリターンが高かろうと、現実と同じ苦しみを感じるのだから、現状高難易度ダンジョンに潜れるアイテムを得ても絶対に使わないつもりだ。やっぱり安全な冒険が一番。命を大事にってやつだ。
『ダンジョンには基本的に魔物が徘徊していますが、その等級はダンジョンの難易度と同程度のものしか出ません。例を出すなら、初級ダンジョンには初級魔物であるスライム、ゴブリンが。中級ダンジョンには、中級魔物であるオーク、リザードマンが、といった感じですね。もちろん、他にも沢山種類はいますが、この法則が破られることはありません。魔物は倒すとドロップアイテムを落とし、さらにその強さに見合うだけのガチャポイントも得られるので積極的に狩ってみてください』
現状俺の装備はかなり優秀だから、初級ダンジョンならかなり安全に冒険できると見て間違いない。
そして、ついに画面タップ以外でのガチャポイント取得方法が出てきた。
これはダンジョン探索に精を出せという何者かからの思し召しか?
といっても、現状初級ダンジョンチケットしかないし、それも使い切り仕様で、今回で使用済み。
再度ダンジョンに行くにはガチャで当てる必要があったりするのだが、今はそこについては考えないこととする。
『ダンジョンには魔物以外にも罠が設置されていたり、逆にアイテムが手に入る宝箱なんかも設置されています。なるべく安全を心がけつつ見落としのないよう探索することを推奨します』
やっぱりあるのか、宝箱!
これは俄然やる気が出てきたぞ。
もっとも、初球ダンジョンではまだまだその内容物はしょぼいだろうが、今後のモチベーションを維持するのに宝箱というのはうってつけの仕様だ。
ダンジョンを作った存在がどんな奴なのかはわからないが、中々にロマンがわかる存在だということだけはわかった。
ダンジョンといえば、魔物、罠、宝箱の三拍子が揃ってないとお話にもならないよな。
『仕様についてご満足いただけているようで、何よりです。続いてダンジョンからの脱出方法について説明します。これについては、アプリを起動してダンジョン画面に移行し、帰還ボタンをタップするだけで簡単に脱出が可能になっております。一度探索を開始したダンジョンは、攻略を完全に終えるまで何度でも途中入退場可能となっております』
途中退場システムがあるだけでもありがたいので、また再度入場までできるなんて正に至れり尽くせりだ。
一度入ったら抜け出せない、あるいは一度でも途中で脱出したらまた入場するのに同じようなアイテムが必要。なんて設定だったら、かなり面倒だし、最悪途中でモチベーションがきれる可能性も大いにあった。
いくら彼女も友達もいない無職とはいえ、現実で同じ時間が経過するなら、いつまでもダンジョンに潜っていられない。
ダンジョン探索も大事だが、あくまで一番はリアルでの生活。
リアルが充実していなければ、いくらダンジョン探索が楽しかろうが、孤独と何ら変わらない寂しい人生だ。
現実を疎かにしない上で、ダンジョン探索を楽しむ。
そんな考えの俺にはうってつけの仕様で一安心である。
『これにて説明チュートリアル終了となります。続けて、実践チュートリアルに移行します。チュートリアルダンジョンでまたお会いしましょう。それでは、いってらっしゃい』
「え?」
こうして俺は、先程この空間にいきなり連れてこられた時と同じように、不意打ち気味に別の場所へと転送されるのだった。
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