カンパネラを鳴らして17

2人は家に帰るとお互い何を話したか確認しあった。

「何かわかったのか?」

話を切り出したのは雄大だった。

「何も…。分かったことと言えば、この事件は家族の色んな感情が複雑にすれ違ってる可能性と言うくらいしか…。そっちは?」

「弥生さんの母親の存在が浮上した。

行方知れずらしいんだが一応、調べて追ってみようと思っている。」

雄大はベランダに出てタバコに火をつけようとした。しかし、久遠に止められてリビングに戻ってくる。

「…実は琥珀らしき人物を見かけたんだ。」

久遠の言葉に「は?」と声が漏れた。

「それは本当かよ!?いつ!どこで!?」

「喫茶店の外を眺めていたら、飛鳥さんによく似ている人と一緒にいたんだ。」

「は?他人の空似じゃなくてか?」

「俺がそんな間違いするか?飛鳥さんはともかく、あれは間違いない。琥珀だ。」

久遠の目はいつにも増して、真剣だった。

雄大はなるほど?と思った。

久遠のことだ。二階堂飛鳥とよく似ている人と一緒にいたところを見た。それは今回の事件になにか深く関わりがあると思っているということが分かる。

となると、この件は久遠にとっても只事ではない。協力して琥珀の足取りの手がかりを探すしかないかと思っている。

しかし、躍起になればなるほど久遠は足元を掬われるかもしれないと雄大は危惧した。

「琥珀のことも気になるが、焦るなよ?

焦ったところであいつがお前に何かを企んでいてそれにハマったら思うつぼだ。」

「…そんなことは分かっている。俺だって焦りたくはねぇよ。でも!」

反論しようとした久遠に雄大は優しい兄ちゃんの顔で笑って久遠の頭をガシガシ撫でた。

「今回の事件は手伝ってくれるんだな?

琥珀のことも探ってみよう。

もしこれが関わっていたら何かわかるかもしれねぇからな。」

久遠はキョトンとした。てっきり、この件には関わるな。琥珀のことは俺に任せて下りろと言われると思っていたからだ。

雄大はキョトンとしている久遠を見て面白おかしく笑った。

その表情がまるで猫のフレーメン反応みたいな顔をしていたからおかしくて、おかしくて堪らなかった。

久遠は自分が笑われていると分かると眉をピクリとひそめる。

「雄大…お前、今の俺をバカにしてんだろ?」

いつもよりゆっくりと、声を低めに威嚇する。

「ハハハ、昔っから猫のフレーメン反応みたいな顔するなぁとは思ってるよ。バカにはしてねぇから安心しろ。」

笑いながら話す雄大にカチンと来つつも、呆れて笑った。

しかたない、雄大はそういうやつだ。

昔から何か切羽詰まりそうに焦る久遠を見てはいつも、そうやって1度思考停止させてくる。

そして、その反応を見ては笑っているイヤなやつだ。

でもそのおかげでピンチにならずに済んでいるのも確かだ。

一歩、引いたところで落ち着いて周りを見るように促すのが何故か上手かった。

「さて!これで久遠の力にも頼れるし、事件解決に向けて頑張ろう!」

「おま!?それが目的か!?」

雄大はからかうようにハハハと笑ってベランダに出ていった。

タバコに火をつけてフーっと息を吐く。

「琥珀か…。何してやがるんだあいつは。

……くそ!俺らしくもねぇなぁ、こんなに胸騒ぎがするなんて久しぶりだ。」

雄大はタバコの煙を胸いっぱいに吸い込み不安な気持ちと白い煙を力いっぱい吐き出した。

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