カンパネラを鳴らして5

小夜は少しずつ回復していく自分の娘を喜んだ。

「一時はどうなる事かと思ったけど…バイオリンを握れるまでに回復して嬉しいわ!

天国のお父さんも喜んでるわね!」

リハビリに含めバイオリンのレッスンをしている飛鳥は疲れから苦笑いしか出来なかった。

この時ほど、顔の包帯が取れないことにありがたいと感じたことはない。

「でも、なんであんなにバイオリンを嫌がっていたのに?

やっぱり…お父さんと弥生のこと?」

飛鳥は何も答えなかった。

「お母さん、ごめんなさい。今日はもう疲れちゃったから休むね。」

小夜は部屋に帰っていく飛鳥を見送った。

部屋に戻った飛鳥はゆっくりとベッドに寝転び枕元に置いていたスマホを弄り動画アプリでバイオリン演奏を見ていた。

「私、何してるんだろ…。」

楽しそうに色んなジャンルの曲を奏でるバイオリニストを見ては涙が流れた。

あの子もこうやって楽しく弾きたかっただけなのかな?

二階堂家の長女としての重圧が彼女の体にのしかかっている。

「自由になりたい…。」

飛鳥はスマホの電源を切り日記に手を伸ばした。火事でところどころ焼け焦げてしまっているがまだ、綴るのも読むのも可能である。

過去に書いてある文字をそっと読んでみる。


3月5日

今日もやっぱりお父さんとお母さんに反対された。なんでギターはダメなの?

同じ弦楽器じゃん!あーもうまた明日からギスギスするんだろうなぁ。

2人には申し訳ないけどバイオリニストを継ぐのは弥生が適性だと思うんだよね。


飛鳥はその時、何を思ったのか弥生には分からなかった。

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