宇宙管理者のチートで無責任な業務日誌 -ある宇宙における伝承と追憶- 編
久遠 れんり
第1章 管理者就任と初めてのお仕事
第1話 黒い球の部屋 管理者就任と業務引継ぎ
新藤 改(しんどう あらた)享年65歳
定年延長や再雇用の洗礼を受け、やっと明日から年金生活とウキウキしながら仕事を終え3月31日最後の帰宅をしていた。
早く帰りたいが為に、今日に限って普段通り慣れている大通り側ではなく、人通りが少ないが少し距離の短い道を選択。
マンションの裏側へ通じている細い道を通り、さらに自転車置き場の横に抜ける階段を上り始め……ん? なんだかおかしいと思いながら、それでもなんとか歩く。
もう少しで家だと思った所で、足がもつれてふらつく……多分心筋梗塞だろう。
突然胸が痛くなり、冷や汗が噴き出す。
体感では、数時間死ぬほど苦しんでいた気がするが。
次に気がついたときにはここに居た。
やはり死んだらしい……。
われながら働くだけ働いて、年金貰わず死ぬなんて、なんて模範的な日本人だとぼやきながら周りを見回す。
ここは、ぼやっと光っているクリスタル(双四角錐だが上下が少し長い)を中心として、黒い玉が放射線状に広がっている空間。
中心側で定められた条件により、うまく発展した場合には次々と新しい宇宙が外側に向き続いている。
そう、黒い玉。
一つ一つが宇宙である。
たぶんこの空間は、実験室であり管理室で、強制的に管理人? に従事させられてしまったようだ。
あらためて自身の状態を見ると、当然のごとく体はなくエネルギー体? 霧? リアル雲ですが何か? 状態。
管理に必要な知識は、目が覚める前に教え込まれたらしい。
いわゆる世界の
いくつかの特権もあるし魔法も使える。
ただし、基本的に過去の前任者がどこで何をしたのかは不明。
自分で考え、行動しろとのことだろう。
今回は例外らしく直前の前任者が消滅した事についての情報がある。
場所はここ超重力宇宙。
クリスタルのすぐ横にある古い宇宙。
後ろが続いていない、失敗作だ。
この超重力宇宙や、近くに浮かんでいる宇宙赤道面に対し世界が積み重なっている積層型宇宙は時代がかなり古く、そこから離れるにつれてクリスタルのエネルギー供給が徐々に少なくなっている。
初期に作られたと思われるエネルギーの供給が多い宇宙は魔法中心世界で、逆に物理中心は、クリスタルからの供給エネルギーがかなり少なくなっている。
目的の宇宙をのぞき込む。
前任者が消滅したということは、管理者に危機が発生したときに自動的に実行される管理者保護プログラムが動作しなかった。
もしくは管理者の意思で受肉して何らかで死んだ場合だが、この管理空間や超重力宇宙で受肉は考えられない。
なぜなら、完全に設定間違いだと思うが、この宇宙は物質間重力が通常の一千倍くらいある。
おかげで、中に銀河は見えず、中心部に超巨大ブラックホールがある。
注意して見ると、そのブラックホールの辺りで、あやしくうごめいている物がある霧? それも黒い。
自分の今の状態とそっくりなのが気になるが…… 何か意識体の可能性があるなと考え、ふと見ると、クリスタルからつながっているエネルギー供給ラインが、黒く濁っている。
まさか!!
ラインとクリスタルを確認する。
やばい、クリスタルの中まで浸潤している。
まずは、黒い奴の特徴を、情報として管理システムにアップロード。
次に直接クリスタルに細工は出来ないため、管理システム経由でクリスタル内部に攻撃システムを組み込む。
幸い黒い奴は、悪意を持った念とか霊魂みたいな物だと判明した為、聖的な魔法を使った浄化システムで対応できそうだ。
そして、宇宙とエネルギーラインの境界付近に、障壁を作成し、宇宙内部側から意識的に干渉してくるようなら、対象宇宙ごと消滅させるシステムを構築。
前職技術系の意地を見せ、これを体感一月半で構築。
ブラックだが、まあ命令されたわけでもなく食事も睡眠も必要ないし、こういうのは好きだしいいか。
問題は、どれだけの期間見過ごされ、野放し中にどれだけ逃げたかということだ。
クリスタルと各宇宙にはエネルギーラインがあり、そこをクリスタル側から各宇宙側へ下るのは流れに乗れば簡単。
だから絶対いるだろう。
特に魔法中心の宇宙は、エネルギーラインが太いし、黒い念のような奴が入り込んでいる可能性は高いと思える。
特に監視を集めておこう。
さらに2月かけて、特徴的な思念と、黒い霧の特有波長をマーカーとして全宇宙を対象にしたスキャンシステムを構築。
ただ、マーカーに対し反応するものをすべて拾うように設定して、テストスキャンすると、生存している人間や動物の負の感情も感知するらしく、全宇宙に反応があった。
これでは使い物にならない。
そのため感知レベルの基準を上げ、もっと凶悪なもののみを対象に変更し、それが反応する現状のレベルを基準点。
いわゆるコントロールとしてマーク。
その基準値を、値が超えたときに直接管理システムから、私に念話アラートで連絡が来るように変更をした。
一応納得できる警報システムを構築できたため、気になる宇宙を覗きながら、全体スキャンを繰り返す。
おおよそ2か月間。
全宇宙に対してスキャン。
それと気になる宇宙の観察を繰り返したが、特に異常は検出しなかった。
一安心。
前任者がロストした原因についても警戒しつつ考察していたが、やはり前任者は何らかの原因で超重力宇宙に引き込まれて、中にいたものに捕まり。
時間をかけて同化か、食われたと考えられる。
もし管理者に対し攻撃などが加えられ、それが原因での消滅だと考えると、数分単位なら管理者救済プログラムが実行されるはずだ。
実行すると宇宙全体に、詳細は不明だが、多少問題が発生する可能性はあるらしい。
それでもいざという時にはシステムは救済プログラムを実行するだろう、私が着任ということは緩やかな消滅が最も可能性が高いと思われる。
らしくはないが、思考の海に没する……。
まあ、勝手に就任させられた管理者だが、時間は膨大にありそうだから、気楽に宇宙の管理者をしていくのも良いかも。
今日も、浮かぶ宇宙の狭間を、ふよふよと新藤はさまよう……。
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