本日の夕飯はカレーですか?
enmi
第1話 日記
父が死んだ。
母との熟年離婚の末、実家の一軒家で一人で暮らしていた。
晩年は認知症を患った。
人間が食べ物に見えてしまうようで、よく人の腕に噛みつこうとしていた。
暴れる父を見るたび、施設の職員さんには申し訳ない気持ちでいっぱいだった。
75歳の冬、父は旅立った。
「ゴミ捨てから、かな。」
燃えるゴミの袋を持ち、食品や書類など燃やせる物を片っ端から入れていく。
母はもう歳だし、兄は遠方、妻は二人の子どもの世話で忙しい。
必然的に僕が遺品整理をすることになった。
無趣味な父らしく物の少ない家で、一人でもなんとかなりそうだ。
「ん?」
一冊の本が目に入る。
黒革のツルツルとした表紙が気になった。
他の本とは違う、異彩を放っていた。
開くと、それは本ではなくノートだった。
父の字で日付と、文字が並んでいる。
懐かしさが込み上げた。
「父さんの日記か、、、。」
故人の物でも、人の日記を覗き見るのは良いことではないと思った。
それでも僕はページを捲ることにした。
母の言葉がずっと胸に刺さっていたからだ。
「お父さんに急に離婚したいって言われたわ。
理由を聞いても謝るばかりで、話してくれないの。
最初は浮気を疑ったんだけど、違うみたい。」
母も、僕も、両親の離婚の本当の理由を知らないのだ。
母は一年粘って考え直すよう説得したが、父の意思は変わらなかった。
「お父さん、どうしても離婚したいみたい。
私も、もう疲れちゃった。
ごめんね。」
一年後母からの電話で、両親の離婚を知った。
退職金や、財産のほとんどを母に譲ろうとしたそうだ。
「ごめん、父さん。」
この日記を読めば、両親の離婚の理由がわかるかもしれない。
そう思うとページを捲る手が止められなかった。
一枚の紙が、ひどく重く感じた。
家の中の空気さえも重さを持ったようだった。
体に空気の重さがのしかかる。
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