違う世界からやってきた私の古い友人の話

カラサエラ

思い出話

どこから話しましょうか。

まず私の生い立ちについて話しましょう。私はとある国の小さな村で生を受けました。貴族というわけでもなく、特別な血筋でもなく、ごく平凡な家庭に生まれました。私が住んでいる国、もといこの世界は「魔王」と呼ばれる存在に支配されていました。その昔魔王は魔物という、私たちに敵対する手下を創り、世界を征服するために攻撃してきました。そして私たちは世界規模で戦いました。しかし魔王の力の前では無力でした。多くの犠牲が払われ、圧倒的な差で敗れたのち、服従と引き換えに戦いは終わりました。私たちは世界を奪われ、名誉を傷つけられたものの、何もできないまま時だけが流れていきました。しかしそんな時でした。突然ひとりの男が魔王の討伐へ向かったのです。彼は類を見ないほど強い魔法の力を持っており仲間を引き連れ、魔王を封印しました。そして彼は魔王を倒した英雄として「勇者」と呼ばれました。世界に平和が訪れたと、皆が思いました。しかし魔王は、生き残りの幹部に封印を解かせました。勇者は殺されました。寝首を狙われ、魔王の支配が再び始まりました。

少し長くなりましたね。これが今の世の中です。しかしそうは言ったものの魔王は全盛期ほどの力もなく、危険な地区も魔王の城周辺のみです。そのせいか私はこの話や魔王のことをどこかおとぎ話のように思っているのでした。

私が冒険者の街に行くことになったのは、ほんの些細なことだった覚えがあります。友人関係だかなんだかで親と喧嘩になって、そういう年頃なのと、そういう考えが少しあったのと、怒りで判断力が落ちていたのとで、夜に家を抜け出し冒険者の街へ向かいました。少し衝動的であったのは自覚していましたが、後悔はしていませんでした。私もそういう年でしたし、家出もそこまで珍しくなかったので。

はじめは冒険者というのは安定しない職業のイメージがありましたが、実際はそんなことはなく、魔王の手下が野生化し、繁殖したものが沢山いるらしく、それを討伐するためいいことなのか仕事がなくなることは基本的にありませんでした。魔物討伐などの他にもちょっとした手伝いなどがある事もあり、これが意外といいお金になるんです。私は魔法使いの適正があるらしく、主に魔法を使い魔物の討伐をしてきました。そんなこんなで特に何も起きないまま1年がたった頃でした。私はいつものように討伐クエストを探しに皆が集まるギルドへ行く途中でした。

暗い路地にしゃがみ込んでいる男の人がいました。

大丈夫ですか、と私が話しかけたのは何か彼に惹かれるところがあったからなのかもしれません。

お腹が空いているようだったので、彼をギルドの食堂へ連れて行き、少しではありましたが食べ物を食べさせてあげました。

彼の見た目はどんな種族とも違っていました。真っ黒な髪、暗い茶色の瞳、ツノも、とんがった耳もない。のっぺりとした変な服だし、誰も声を掛けないのもわかる気がします。

でも、彼の顔はまるで‥‥


おとぎ話で見た勇者みたいでした。

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