第8話

 「それにしても、派手に暴れたな」


 俺は部屋の中をぐるりと見渡して、そう言いながら、磔にされた国王の元に近づいていく。

 魔王が「私の最高傑作だ!良いだろう?」と聞くが「はいはい。」と流して終わらせた。全く悪趣味だ。

 俺の返答に魔王はため息を吐いて、話を本題に移した。


 「何故、お前じゃなく女の兵士が聖剣を持っていた?それと、そこのローブを着た人間はなんだ。」


 そう言って、部屋の中をうろちょろする人間に指を指す。

 そういえば説明せずに連れてきたままだったことを思い出す。


 「俺が見つけた聖剣は偽物だったんだよ。本物はずっと兵士が持ってたんじゃないか?それと、あの人は探し物をしているみたいで、危険もなさそうだから連れてきた。」


 俺が偽聖剣を手に入れて魔王の元へ戻っていた時に、彼?彼女?と出会った。俺達が暴れたせいで城の中は混乱し、あたりに死体も転がってたと言うのに、この人は気にもせず平然と何かを探していた。

 俺に気づいても、自分が探している物について聞いてきただけで、知らないと答えると気を落としてまた捜索を始めた。

 そのおかしな言動にちょっとだけ興味が湧いて、魔王の元へ引っ張ってきた。結局ここにも探し物は無さそうだが。


 「…………。」


 黙ったまま呆れた表情の魔王がじとっとこちらを見てくる。

 なんだか良くないことをした気分だ。あのローブの人から話題をそらそう。 俺は軽く咳払いをした。


 「そんなことより、魔王が刺された事の方が驚いたな。そんなに玩具に夢中だったのか?」


 はりつけにされている国王の方を見ながら魔王と会話をする。

 国王が他の奴のように吊るされてないという事は俺の為に取っておいてくれたという事だろうか。しっかりと手足を使えなくしているのは気遣いだろうか。


 「む……油断していたとはいえ、その女は私が気づけないような認識阻害の魔術がかけられた道具を持っていた。貴様も気をつけた方がいい。」


 少し怒りを含めたような言い方で魔王が答えた。

 魔王にも気づかれない認識阻害魔術か……。そんなものを使える者は限られてくる。前の俺とは接点がない人物の中にそんな大物がいたのか……?

 頭の隅に置いておこうと考えて、国王に回復かけて止血しながら足を膝の関節から切り落とす。叫び声が出ないように国王の口にその辺にあった布を詰め込んでいる。呼吸も難しいようで、足の痛みも合わさってとっても苦しそうだ。

 やっぱりやり返しはこうじゃなきゃな。死なないようにゆっくり進めていこう。


 「あの、その道具、どこ?」


 俺と魔王以外の声が聞こえて思わず振り返る。随分とわかい声だ。女性のような声が聞こえたと思えば男性のような低い声も混じっていて、なんとも表現しがたい声色をしている。

 声に対する認識阻害魔術だろうか。妙な魔術の掛け方をしている。

 先程までうろうろと部屋の中を歩き回っていたローブを被った人が魔王に向かって話しかけていた。魔王は気にもしていなかった相手に話しかけられたことに驚いたのか表情が微動だにせず、ローブの人を見ている。

 暫く沈黙が続くと、もう一度「道具、どこ?」と魔王に聞く。


 「……そこに転がっている女の首にある。それが貴様の探し物か?」


 魔王の質問にローブの人は頷いて返事をした後、倒れている女の元に向かって行った。女の首から首飾りを取るとそれをじっと眺めている。


 「なんでそれを探してたんだ?」


 一旦国王を放置して、しきりに首飾りを眺めているとこに近づいて一緒に見てみる。すると視線が少しだけこちらを向いた。そうして、ローブの人は淡々と答えを返した。


 「これ、作った。部屋に置いてたのに無くなってた。今も別の道具つけてるけど不十分。貴方達にバレた。」


 「まて、それを貴様が作ったのか?本当に?」


 魔王がつかつかと歩み寄ってきて目の前で止まった。

 先まで、呆れたような様子をしていたのに今は目の色を変えたような感じだ。確かに、魔王でも感知できなかった道具を、部屋でうろうろしてた人間が作ったと分かったら驚きもするか。実際、俺も驚いている。


 ローブの人が魔王の質問に頷く。それを見て、ローブの人をじっと見つめたまま魔王は何か考えるように黙った。

 魔王の様子をローブの人は不思議そうに眺める。

 数秒後、何か思いついたのか魔王がおもむろに口を開いた。


 「貴様、私たちの元へ来ないか?」


 「……は?」


 一瞬、聞き間違えたのかと思った。魔王がその辺の人間に声をかけるなんて事があるのか。信じ難い。

 ローブの人も困惑している様子だ。


 「何を戸惑っている。別に悪い話じゃないだろう。この国を滅ぼした後は私の城に来て魔術の話をするだけだ。それに、魔王私が使う魔術について気にならないか?」


 そう言って魔王が軽く魔法陣を展開させる。魔王にしか展開出来ない紋章入りの魔法陣。なにかの魔術を使うための魔法陣ではないが、どんな魔術にも使われる基礎的な魔法陣だ。魔術を使う者や魔術士ならばこの魔法陣がどれだけ価値あるものか分かる。

 ローブの人はその魔法陣を食い入るように眺めていた。

 魔王が魔法陣を消す。長い沈黙が続き、ローブの人は魔王の誘いに返事を返した。


 「……別に働く場所が変わるだけ。それに、魔王と勇者の紋章には興味がある。」


 「決まりだな。」


 ローブ人の返答に満足したのか、魔王は軽く口元に笑みを浮かべた。 

 しれっと勇者俺の紋章についても何か言われていたが、ここまで手伝ってくれている魔王の為に目を瞑ろう。


 「あたし、レーナよろしく。」


 ローブの人は深く被っていたローブを外しこちらを見て挨拶をした。

 肩までに切られた藍色の髪を持ち首にチョーカーを付け、驚くような魔術の道具を作った者は俺が考えていたよりもずっと幼い容姿をしていて、軽く尖った不思議な耳をしていた。

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