第6話
魔王と一緒に空を飛んで、王国を目指す。
やっとだ。前の分と今回邪魔された分もしっかり仕返しさせてもらおう。
王国の城壁を通り過ぎて一直線に国王がいる城を目指す。
下に視線を向けると、城下街がある。街には何も知らず平和そうに暮らす国民達が見えた。俺らが上空にいるなんて誰も気づかない。数刻後、この街は混乱に陥るんだろう。俺のせいで。
城下町から目を逸らし城に視線を移した。
「魔王、門の前で降りよう。正面から入ってやろうじゃないか。勇者らしくな。」
魔王はハッっと嘲笑したように笑って、門の前に着地する。
城門の横には門番が2人。突然空から降りてきた俺達を見て驚いているようだった。そうして武器をこちらに向けて警戒している。
1人の門番が声を張り上げて言う。
「止まれ!貴様何者だ!」
「俺は勇者だ。魔王討伐にいく為、国王に謁見したいんだがどうして貰えないだろうか。」
門番に右手にある勇者の紋章を見せながら、前のような何も知らない少年を演じる。そんな俺の後ろで笑いを堪えるように小刻みに震える魔王に多少の怒りを感じたが、これまで助けて貰った分殴らないでおいてやろう。
「はっ、貴様のようなものが勇者なわけないだろう」
2人の門番の1人がバカにするように笑って言う。
「大体、勇者というのは――」
「一旦確認してみましょう。この者は勇者の紋章を持っているのですから。」
言葉を被せるようにしてもう1人の門番が口を開いた。
俺たちが聞こえない程度の音量で会話をした後、門番の1人が奥へ入っていった。
「確認を致しますので少々お待ちください。何分急な訪問なので。」
少しトゲのある言い方だ。このままこいつを殺して中に入ることは出来るが、国王に逃げてもらっては困る為、もう1人が確認を取ってくるのを待つことにしよう。
俺は申し訳なさそうな表情を作って門番にお礼を言った。
堪えきれなかったのか、後ろにいる魔王がとうとう声を出して笑いだしたので、さすがに肘打ちを食らわせた。
「お待たせ致しました!」
どうぞお入りくださいと、先程と打って変わって態度が反転した門番が言った。こころなしか顔色も悪くなっているような気がした。
門番に通されて中に入る。魔王は「お連れ様はこちらです」と使用人に案内されて、別の部屋に通されていた。
城の中は相変わらず無駄に豪華な装飾品が沢山ついている。長い廊下を歩いたあと、玉座の間へと案内された。使用人が大きな扉を開ける。扉から真っ直ぐに続くレッドカーペットの先に国王がいる。
あぁ、早く殺してやりたい。俺の村を焼き払ったようにこの国も焼き払ってやりたい。お前の歪む顔がみたい。
部屋の中央まで歩いていくと、ここで止まれと言わんばかりに近衛兵に止められる。しばらくして国王がゆっくり口を開いた。
「……そなたが勇者か。報告を受けてから中々来ないものだから心配しておったのだ。迎えの者を向かわせたのだが会っておらぬか……。なにはともあれ、会えて嬉しいぞ。」
国王はわかりやすい嘘を並べてにっこり笑う。
迎えの者……あの騎士たちのことだろうな。俺とすれ違わなかったから村を焼こうとしたのか……。
今すぐにでも剣を抜きたい気持ちを頑張って押し込めて表情を保つ。
殺るなら相手が最大限に油断している時だ。まだ耐えろ。
「そなたが本物の勇者なら手の甲に紋章があるはずだ。それこそが勇者の証!ワシにも見せておくれ。」
「もちろんです」と国王に返事をして右手を差し出す。国王は紋章を見て「おぉ」と感嘆の声をあげた。
騎士が、国王の隣にそっと近づいて耳打ちする。なにかの報告だろか、なんだか違和感があった。前もこの動作はあっただろうか。昔の事で思い出せない。
たしか、前の通り行けばこのまま仲間を紹介されるはず……。
「ふむ、確かに勇者のようだな……。みなのもの!その者を捕らえよ!」
「ッ……!」
国王が声を張り上げてそう命令する。周りにいた近衛兵達が一斉に俺に件を向け始める。剣を構えて牽制する。
どういうことだ……?どうして違う?時が戻っても同じように進まないのか?なんであれ、今ここで全員殺すしかない。
「そやつに向かわせた騎士は皆殺しにされた!そやつは、勇者でありながら悪魔に魂をうった裏切り者だ!絶対に逃がすな!」
周りのやつらより明らかに良い鎧を着た兵士がこちらに真っ直ぐ向かってくる。周りの兵も巻き込めるよう広範囲な魔術を展開する。
もう少し引き付けて撃とうと言う時に、俺の背後から物が破壊されるような爆音が鳴り響く。その音に俺含めたこの場の全員が停止する。扉の方から煙が立っている。煙の中から黒い影がゆっくり歩いてくる。何かを引きずっているようだった。
「この国は客人を地下牢でもてなすらしい。少々退屈で抜け出して来てしまった。」
皮肉な笑みを浮かべながら登場した魔王に「なんだお前か」と、ついつい本音がこぼれてしまう。引きずっているのはおそらく見張りの兵だろう。部屋に入るや魔王は玩具を捨てるように兵を投げ捨てた。
「ふむ……随分楽しそうな状況だな?勇者」
俺が兵士に囲まれているのを見て魔王がそういう。
俺達が城に来る途中で、国王を殺す前にやりたい事があると魔王に伝えておいた。一つ目は聖剣の回収。それから前に仲間だった人達の確認。この2つのための演技だった。だが、両方取るのは難しそうだ。
「失敗だ。仲間は諦めて、聖剣だけ回収する」
「了解した」
聖剣を探すにしても兵士達をどうにかしないとな。
飛びかかってくる兵士を剣で受け止めて流す。まわりの奴らごと魔術で吹き飛ばす。
「勇者、先に聖剣を取りに行け。ここは私が片付けておこう。」
「安心しろ国王は生かしといてやる」と魔王は笑いながら、次々と魔術で兵士を拘束して動けないように吊るしあげている。
その姿があまりにも邪悪で「魔王らしいな」なんて思う。本当に、こいつを仲間にできて良かったと心底思った。
近くにいた兵士を魔術で攻撃して壁側によろけた隙を狙って玉座の間から廊下へ出た。
聖剣がある場所は予想がついている。城の最奥、大きな南京錠と魔術によって作られた自動人形が守る部屋、宝物庫だ。人形と南京錠を破壊し入った部屋には、綺麗に並べられた古代の遺物や積み上げられた金塊、無数になれべられ磨かれた武器、そして大事にかけられた聖剣が置いてある。
あった。前に俺に渡された聖剣。魔王を倒した後国に返還したがまたこうして持つことになるとは。かつては魔王を倒し民を救うために振るった剣を今は国王を、民を殺すために使おうだなんて皮肉だな。
聖剣へと手を伸ばし柄を握る。
「……?」
おかしい。
聖剣は本来勇者が手にすることで真の力を発揮する。その証として勇者の紋章が淡く光るはずだ。なのにそれがない。
「偽物レプリカか……」
あまりに精巧に作られた偽物。国の国宝なのだからそれも当然か。聖剣は探し直しだ。一度魔王と合流しよう。
俺は偽物の聖剣を持って宝物庫を後にした。
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