第5話
村の入口にいる騎士が剣を構えて、村の方に刃を向けている。指揮をとっているのだろうか。
後方にいる騎士が弓を構える。矢の先が赤く燃えている。
「魔王!!」
騎士の様子を見て、いてもたってもいられず、叫ぶ。まだ、村からは少し離れている。それに、抱えられてる状態で、何も出来ずにいる。
「あぁ。」
魔王は俺が叫んだことに対して何か言うでもなく、淡々と返事をして、さらにスピードをあげる。
剣をしっかりと握って魔術を展開し魔力をこめる。
「落とせ」
俺の指示通り魔王は俺を上空から落とす。剣にコメダ魔法を最大威力で発動し、弓を構えた騎士が矢を放つ前に、あの火の矢ごと周りにいる騎士を吹き飛ばす。大きな衝撃音と共に真下にいた騎士共が数メートル先まで吹っ飛んだ。
ゆっくりと立ち上がって、剣を降って土煙を払う。村の入口の方へ向かって歩みを進める。途中にいる騎士は全て薙ぎ払って。
村の入口に近い場所が荒らされている。少し遅かった。誰も死んでいないか周りを見渡す。
壊されている建物や畑があるだけで死体は見当たらない。皆奥に避難したのだろうか。
入口にいた騎士が全員だとは限らない。残りも早急に探さなければ。
「キャァ!!」
甲高い悲鳴が聞こえる。声からして女だ。俺が今いる位置からそう遠くない距離。声が聞こえた方へと、村の道に沿って全速力で走る。だんだんと背の高い木が見えてきた。
木の下に2つの人影がある。1つは騎士団の鎧のシルエット、もう1つは小柄な女。
鎧を着ている者の手が小柄な女の首に手をかける。女の足が地面から足が離れていく。
2人の姿がハッキリと見えるようになってきた。
しっかり人が判別できるほど近くにくる。騎士に首を絞められているのは、リラだった。
その姿を見た時、頭を強く殴られたような感覚がした。
あの時の光景が蘇る。倒壊した家。血と肉の焼けた匂い。動かなくなった両親とリラ。両腕で感じた死体の重さ。体から突き出る剣。痛み。
頭の中が真っ赤になって呼吸が乱れる。額に汗が滲む。
「やめろッーーーーー!!!」
リラの首を掴む騎士の腕に向かって剣を振り下ろす。
宙に浮いていたリラが地面に落ちる音とリラの呼吸と咳をする音が聞こえる。肘下から切断された騎士の腕がコロコロと転がって俺の足元にぶつかる。騎士は混乱したまま切られた腕を押さえていた。
俺はもう一度剣を振り上げて、騎士の残った方の手首と足首に切込みを入れる。足と手に力が入らなくなった騎士はそのまま地面に倒れ込んだ。
剣を握ることが出来ず、立つことも出来ず騎士は苦しそうな呻き声をあげて顔をこちらにむける。
騎士の体に真っ直ぐ突き刺さるように剣を持って振り上げる。
「……その紋章ッ……貴様!勇ッ……!!」
勇者と言おうとした言葉は、剣で刺された痛みで叫びに変わった。
肩の辺りに刺した剣を引き抜いて、また振り上げて刺す。心臓に近い場所は避けて、離れた部分から斬って、刺して、傷つける。何度も何度も何度も何度も。
俺には、剣を刺した時の音も、騎士の悲鳴も、魔王の呼び声も、風が吹き抜ける音も何も聞こえなかった。
「もういい。やめろ。」
振り下ろそうとした剣を魔王に受け止められて、我に返る。足下には、バラバラの肉塊が広がっていた。先程の騎士の面影はない。唯一、歪んだ鎧が騎士であったのだと示している。
柄にもなく冷静さをなくしてしまっていた。ため息が出そうだ。こんなとこリラに見られたら……そう考えてふと思う。
「リラはどこだ?」
さっきまで近くにいたリラがいなくなっていることに気がつく。俺がそう質問すると、魔王は俺の顔を見て心底面倒な顔をしてため息をついた。
「近くにいた娘の事を言っているのなら、とうに村の奥に連れていった。」
貴様のあのような姿を見せるのは好ましくないだろう。と魔王が地面にある肉塊に視線を落とす。
確かにリラにあの姿を見せるのは良くない。遠くに離してくれた魔王に素直に感謝するとしよう。
それと、この肉塊は燃やしてしまった方が良さそうだ。村の景観にも良くないし、匂いも酷くなるだろう。
死骸の前で屈んで、魔法陣を描く。火力を上げて、燃え終わると骨も残らないほどの高温で。
「その剣ももう使えないだろう、捨ててしまえ。」
魔王が俺が手に握っている剣を指さしてそういった。
剣を見ると、刃こぼれはしているし血肉のせいで切れ味も悪くなっている。これでは刃物としてでは無く鈍器としてでしか使えない。魔王の言う通り捨ててしまった方がいいだろう。肉塊が燃えている、火の中に剣を放り投げる。
視線を火から外す。少し離れた所に、この騎士が持っていたであろう剣が転がっているのが見える。
俺が持っていた剣はダメになったし、代わりにこいつを持っていくか。剣なんて使えればそれでいいんだ。
もう一度守護魔術をかける。次は壊されることがないように。何重にもかけよう。魔術を跳ね返す魔術も。
勇者の紋章を使ったからと安心していたのが馬鹿だったんだ。勇者の力なんて信用出来ない。大事な時に大切な人を誰一人として守れない。
自分の手をグッと握りしめる。俺が勇者なんかじゃなければ、今も皆と笑って過ごしていたのだろうか。
「よし、王国に行こう。」
魔術を掛け終え、魔王に声をかける。国王がもう一度騎士を送って来るかもしれない。そうなる前に国王を殺す。
村が襲撃されることがないよう魔術をかけたが安心は出来ない。
「あの娘には会いに行かなくていいのか?」
「大丈夫だ、行こう。」
そう言って、魔王に早く行くよう催促する。目の前で暴れてしまっただけに少し会いに行きずらい。それに、リラならもう少し待っててくれるはずだ。
全てが終わればまた一緒に居られる。いつものように。
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