第3話
荷物を持って剣を腰にかける。大きく息を吸って吐く。次は大丈夫。絶対守りきる。
たとえ全てを敵に回しても。
「それじゃ、行ってきます。」
見送るために集まってくれた村の皆の顔をみてそう笑って見せる。両親がそっと俺の肩に手を添えて、気をつけて、と微笑んで言う。ありがとうと言いながら肩に置いてある両親の手を下ろす。
「エリク!絶対無事に帰ってきてね。私ずっと待ってるから!」
両親が少し俺から離れた後、そう言いながらリラが俺の手を握る。俺はその手を握り返して、もちろんと返事をする。
手を離して、馬に乗り村を出る。
さて、前は魔王を討伐するという報告をするために国王の方へと向かったが、今回は国とは逆の方向へと向かう。
目的の場所は魔王城だ。
以前、魔王城に足を踏み入れた時、魔王は俺に向かって”待っていた”と言っていた。
当時は気にならなかったが、魔王は会話することが出来る。魔物との会話は不可能のはずなのに。
何故魔王が言葉を話せるのかは知らないが、魔王と手を組めれば俺の復讐は完璧なものになる。
まぁ、本音を言えば俺一人でやりたかったが俺一人で国を潰すのは難しい。
それに魔王だったら時が巻き戻った理由も知っているかもしれない。
魔王が手を組んでくれるかもしれない、巻き戻った理由を知っているかも分からないが、その時はその時だ。本来俺一人でやるつもりだったのだから、一人でできないことは無い。
このまま走り続ければ後数日で魔王城につく。前は凄く長かった道のりだが、障害物を避けず真っ直ぐ進めばすぐだ。
今思えば、あの長旅は俺の村を襲撃した事を聞かせないようにするためなのかもしれない。
仲間ただ彼らがずっと俺を欺いていたとは考えたくはないが、彼らは国王に任命された人達だ。可能性はある。
くそ、腹が立ってきた。今は魔王城へ行くことだけを考えろ。大丈夫だ。次は大丈夫。あの時の俺とは違う。そう自分に言い聞かせる。
それから2、3日たった頃だろうか。足を止めた先には鬱蒼とした森の中に大きな城が立っている。
ついた。ここが魔王城だ。体に力が入る。
魔王と話をしに来た訳だが、話をする前に戦う事になると面倒だ。うまく行くといいんだが。
深呼吸をした後、魔王城の扉を押す。ギギッと音を立てて城の扉が開いていく。
中は薄暗く遠くの方が見えずらいが、薄らと人影があるのがわかる。
その影がゆらりと揺れ、部屋中に声が響く。
「待っていたぞ。勇者。」
思ってはいたが魔王の圧は凄い。前の俺はこの圧に気圧された。あの時は……どうやって立ち向かったんだっけ。
「魔王か、話があるんだ。」
魔王の方へとゆっくりと歩いていく。魔王は俺の言葉に反応を返してくれるだろうか。
少しの沈黙の後、魔王は口を開いた。
「先ずは実力を示して見せろ!」
そう言って魔術を発動させる。小さな魔力の玉が複数個こちらに向かって放たれる。
くそ。どうやら戦わないといけないみたいだ。面倒なことになってしまった。
魔王の魔術を剣で受け止めながら、魔王に向かって走っていく。こうなったら早めに決着をつけてやる。
魔術を使って剣を強化し魔王の魔術を跳ね返す。魔王はそれを何事もないように受け止める。
以前の魔王は魔術しか使っていなかった。魔術は発動する時少し間がある。そこを狙って叩く。
魔王の攻撃を躱しながら近づくのは骨が折れる。魔術を複数発動することは難しい。
俺は村に2つ術をかけているし、今も剣に強化魔術をかけている。これ以上はキャパオーバーだ。
そうだ。避けるのに時間がかかるなら、いっそ喰らいながら進むか。いくつかの魔術が体を掠めて傷つける。掠った箇所から血がながれる。足に力を入れ地面を踏み抜き急接近する。魔王が防御の魔術を使う前に剣を振る。
魔王は魔術を発動させずに体を少し後ろに倒して俺の剣をギリギリで躱す。
その瞬間に魔王の肩を手で強く押し完全に倒し、すかさず魔王の首の横に剣をつきたてる。
「俺の勝ちだ。」
魔王は抵抗せずただ、じっとこちらを見ている。遠目からだとフードに隠れて見えなかったが魔王は魔物というより人間と同じような容姿をしている。
いや、人間そのものだ。魔王は魔物じゃなかったのか。勇者と魔王はそう変わらないのかもしれないな。
というか、この魔王何も言わない。これは、どうなんだ。話してもいいのだろうか。押し倒すんじゃなくてダメージを与えなきゃいけなかったか?
「それで、話があると言っていたな。私は負けた。話を聞こう。」
俺の思考を遮るように魔王がそう言った。魔王の言葉に安堵する。ちゃんと勝負には勝てていたようだ。
さて、話したいことは沢山あるが先ずは……
「魔王。俺の復讐に手を貸してほしい。」
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