時間遡行した勇者は復讐を誓う
蒼猫
第1話
俺は勇者だ。それは生まれた時からそう決まっていた。
右手に浮かんでいる紋章は勇者の印。そして魔王が復活したという証明。
俺の手を見た両親はさぞ驚いたことだろう。自分の子を見た瞬間から魔王が復活したという真実と我が子が勇者であると誰よりも先に知ることになるのだから。
両親は俺を勇者と言ってちやほやする訳でもなくかと言って鍛えさせる訳でもなく、他の子となんら変わらない扱いで、勇者としてではなく我が子として愛情を注いで育ててくれた。
一緒の村に住んでいる大人や同年代の子供も普通の子としてあつかった。
そのおかげで俺は変にひねくれること無く今まで過ごしてこれたのだと思う。村では幼馴染の女の子といつも一緒に遊んでいた。
彼女と遊んで、薪を拾って、家で両親と話ながらご飯を食べて、夜眠りにつく。そんな毎日が楽しくて幸せだった。
勇者は16になると魔王を討伐しに旅に出る。各言う俺も16になり勇者として魔王を討伐する為、国王へ報告しに王都に向かった。
国王は勇者である俺の旅立ちを盛大に祝ってくれた。1人では心細いだろうと1人の魔術士と騎士、そして神官を仲間として連れていけと言った。
彼らはとても優秀で魔物退治もまともに出来ないような俺に優しく接して戦い方を教えてくれた。
旅はとても楽しかったが、ふとした時にいつも故郷の村のことを思い出した。今、皆は何をしているのだろうとか、この時期は森の木の実が美味しかったな、とか。
早く村へ帰りたくて、両親と村の皆、そして彼女に旅での出来事を教えてあげたくて、魔王の住む城への歩が早くなる。
しかし世界は広く、いくら早く歩いた所で距離はあまり近づかない。それに俺は勇者で、勇者は魔物に侵されている町や村を救わねばならない。勇者として、一人の人間として、困っている人々を助けるのは義務に近い。
魔物を退治するのにも時間がかかることが多く、数日、数週間かかることもあった。そして4年の月日が流れ、長いように感じる日々はあっという間に過ぎ、俺は魔王を討伐した。
魔王を倒した後魔王の死体は残る訳ではなく灰となって散っていった。後ろで喜んでいる仲間とは裏腹に俺は何かを失ったような感覚があった。それが何なのかは分からない。
俺の右手には見慣れた紋章が今も変わらず浮かび上がっている。
魔王を討伐したことによって、勇者は必要なくなる。もしかしたらこの右手の紋章も消えるかもしれないと思ったがそんなことはなかったようだ。
魔王を討伐した俺たちは4年前の時のように国王へと報告しに王都に帰還する。
国王は魔王討伐、勇者の帰還を祝福し国を上げての宴を開いた。俺は少しだけ顔を出した後、皆に会えると胸を踊らせ急いで故郷へと向かった。
村が変わり果てていると知らずに。
草木は燃え、建物は倒壊し、何かが焼けたような酷い匂いと無数に転がる死体。以前のような穏やかな村は見る影もなくそこには地獄が広がっていた。
いつも挨拶をしてくれていたおばさんは子供を庇うように転がっていて、皆に親しまれていた犬も同じように殺されている。
それを目の当たりにした俺は衝動的に走り出していた。俺の家へと。家族が待っているはずの我が家へ。
家の前につき乱れたままの呼吸も整えないまま俺の家へと顔を上げる。
もしかするとと思ったが俺の家も他の家と同じように壊されていた。
俺の家があった場所には三体の死体が転がっている。腕が無くなっていたり、顔が焼けてしまってはいるが、それは俺の両親と幼馴染のものだ。
その場に立っていられず膝から崩れ落ちた。俺は幼馴染だったものを抱き締める。
何故こんなことになったのか。俺は皆に笑顔でいて欲しくて、いつものように皆とすごして行くはずだったのに。だから、魔王討伐の為の旅を続けてこれたのに。
この村は魔物に襲われた訳では無いだろう。この村には魔物が侵入した痕跡がなかったように思う。この村を襲ったのは人間だ。俺の故郷にこんな酷いことをした。どんな理由があろうと許すことは出来ない。許さない。
腕に抱えた彼女を締める力がつよくなる。瞬間、俺の胸に刃物が突き刺さる。
「ァガッ…」
そんな声が俺の口から出てくる。バタッと倒れた拍子に俺を刺した者の顔が映る。王国騎士。
彼らは何でもないような顔で俺を見下し、そっと口を開く。
「悪く思うな勇者、お前が生きている事で魔王が復活すると困るからな。これもこの世界の平和のためだ。」
意識が朦朧として言葉の意味をうまく理解できない。俺が生きていることで魔王が復活する?違う。そんなはずは無い。今まで語られてきた話では、勇者が生きている間は魔王が再び復活することは無かったはずだ。
おかしい。それにこいつの話からすると始末したかったのは俺だけだったように聞こえる。何故俺の故郷が襲われているのか。
「忌々しい勇者もこれで終わりだ。国王陛下に報告にいくぞ。」
国王陛下。その言葉が聞こえた後俺は意識を手放した。
目を閉じるその瞬間右手の紋章が淡く光っていたことに俺は気づくことが出来なかった。
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