第12話 忠告
「試験開始!」
合図が告げられる。
「本気でこい!」
ライナーさんが防御の構えをとる。
俺は大きく息を吐いた。
ルカによると、【キメラ作成】は配下の通常スキルを使えるようになるとのこと。
まだ試したことはないけど、きっとうまくいくはずだ。
「【身体強化】!」
スキル名を唱えると、魔力が減った感覚がした。
それと同時に、体中にパワーがみなぎるのが分かる。
「よし、成功だ!」
俺は地を蹴る。
【身体強化】のおかげで、今までよりも速く動けた。
……少し制御が難しい。
おそらく、俺の体がこの速さについてこれていないのだろう。
目下の目標は、【身体強化】の使い勝手になれることだな。
ライナーさんが俺の間合いに入る。
「はッ!」
俺は上段から斬りかかるが、当然止められる。
何度も何度も、続けて剣を振る。
だけど、全て受け止められる。
この程度の攻撃じゃダメだ!
アイザックの動きを思い出せ!
俺は剣の才能がなかった。
ダークみたいに剣を握ってすぐに上達するなんてことはできなかった。
だから、アイザックとダークが戦うのをしっかりと見てきた。
才能ナシの俺にできるのは、見て学び、ひたすら自主鍛錬することだけだったから。
今がその成果を発揮する時だろ!
──もっと速く! もっと鋭い攻撃をしろ!
アイザックの無駄のない洗練された動きを模倣するんだ!
「剣筋は悪くねぇ! ここからは俺も攻撃していくぜ!」
「うぐっ……!」
防戦一方だったライナーさんが、攻勢に出てきた。
俺は必死に剣を振るう。
……たった数太刀で俺は一気に不利になってしまった。
剣の技術も肉体強度もライナーさんのほうが圧倒的に上なのだと思い知らされた。
「どうした? さっきまでの勢いがなくなってるぞ!」
少しでも気を抜いたら一瞬でやられる。
だというのに、剣を振るうのがワンテンポ遅れてしまう。
「くっ……!?」
そのほんのちょっとのズレが戦いでは負けにつながる。
俺が気づいた時には、首元にライナーさんの剣があった。
「試験終了!」
俺はあっさりと負けてしまった。
「お前の剣は悪くなかった。努力してきたのだろう。剣の技術だけなら、間違いなくかなり上位のほうだ。だが、肉体が弱すぎる。肉体が剣術についてこれていない」
ライナーさんはそこでいったん区切ってから、聞いてきた。
「何が問題か分かるか?」
「……肉体が弱いことですか?」
「不正解だ。そこは問題ない。これから強くなればいいのだからな。一番の問題は──」
俺は静かに続きを待つ。
「覚悟が足りていないことだ。だから弱い。だから剣を振るのが遅れる」
覚悟……?
俺は先ほどの試験を思い出す。
……そうか。
俺は心のどこかで、格上であるライナーさんと剣を打ち合うことを怖く思っていたんだ。
それを見透かしたように、ライナーさんは話を続ける。
「最初は怖くて当然だろう。だが、打ち勝てないと待っているのは死だ。それで死んでいったやつを俺は何人も見ている」
それだけ言い残して、ライナーさんは訓練場を去っていった。
◇◇◇◇
「こちらがギルドカードになります」
試験の後。
森に出た新種の魔物や魔法陣について情報提供してから、俺たちはギルドカードを作ってもらった。
ちなみに森の異変は最近噂になっているらしく、騎士団は巡回を強化する方針のようだ。
だから、森についてはもう心配する必要はないだろう。
「ルカさんがCランク、クロムさんがEランクとなります。ですので、お二人のパーティーランクはDとなります」
いきなりCランクに認定されることはめったにないらしく、ルカはかなりの注目を集めている。
それに反して、俺のことは誰も見ていない。
当たり前だ。
Eランク冒険者なんていくらでもいるのだから。
ライナーさんの言葉がフラッシュバックする。
……覚悟が足りない、か。
「行こうか、ルカ」
「そうだね。なんかルカのこと勧誘する人が出てきそうな雰囲気だし」
俺たちはそそくさとギルドを出て、宿屋に移動した。
宿泊予約をしてお金を払ってから、宿の食堂に向かう。
料理を注文してルカと一緒に待っていると、近くの席に座っていた冒険者なのであろう人たちの会話が聞こえてきた。
「ついてないよな、ホント。せっかくいい依頼を見つけたと思ったのに」
「お前はまだ引きずってるのかよ……」
「だって報酬が高かったんだぜ? 目がくらんで当然だよ」
「はいはい。私たちがナイトメアノワールを倒すなんて無理だからもう諦めちゃいなさい」
「でもよー、お金欲しいよー……」
ナイトメアノワールって、確かカラスの魔物だったはず……。
そんなことを考えていたら、料理が運ばれてきた。
「わぁ、おいしそう!」
「だな。冷めないうちに食べよう。いただきます」
「ん、いただきまーす!」
この宿屋の料理は、どれもおいしかった。
◇◇◇◇
同日。
鬱蒼とした森の中を二人の男が歩いていた。
どちらも黒いローブを着て、顔を隠している。
「本当にうまくいくのか? 例の『魔物を無理やり強化する』ってやつは」
「別にうまくいかなくてもいい。データさえ得られれば次に生かせる」
「……それもそうか」
やがて、二人は洞窟にたどり着く。
「それに、少しでも魂を集めてくれれば、それだけで私たちにとっては役に立つ」
「それはそう。コイツが活躍してくれることを邪神様に祈っとくか」
二人は洞窟の奥を見る。
そこには鎖でつながれた一匹の魔物がいた。
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