第58話
「順調だが……そろそろ日が暮れるな」
俺たちは青梅駅から討伐を進めて、3時間ほどが経つ頃には隣駅の東青梅まで来ていた。
そこまでの間のモンスターを1匹残らず討伐し続けたため、隣駅に達するまでかなり時間がかかってしまった。
これに弓部隊がいると、もう少し効率よく討伐が進められるのに、なんて考えてしまう。
ないものねだりしても仕方がないし、あさってには弓部隊も討伐に合流できるかもしれない。もう少しの辛抱だな。
「隊長!そろそろ撤退しますか?」
周辺のモンスターの討伐がひと段落したところで、岡が俺にそう声をかけてきた。
「そうだな、もうやめておくか。ここに来るまでのモンスターはほとんど倒したし、しばらく経てば緑地や木々も増えるだろうしな」
そうして、俺たちはここで討伐を引き上げて奥多摩に帰ることにした。
少し離れたところに止めてあった幌付きトラックに乗り込み、トラックは奥多摩へ向けて動き出す。
帰る途中、俺は1つ考えていることがあった。
街中で大型モンスターを倒し続けると、道のど真ん中に木が生えてしまってかなり邪魔になるんじゃないか。
俺がそう考えたのは中野区解放のニュースを見てからだった。
ほとんどの人が気にしていないのかもしれないが、もし日本からモンスターが消えた後、緑地や木々などは残しておかないといけないことになる。元の生活に戻ろうとして伐採し始めたら、それこそルーチェはバカみたいに怒鳴り散らすだろう。
中野区の写真を見ると、街中はまるで山奥のような見た目だった。かなり背の高い木々が生い茂っていたし、車で移動できるような道ではなくなってしまった。
「なあ、青梅駅からこっち側ってしばらく経つと通れる道って少なくなるかもしれないよな?」
「ええ、おそらく。私も特に考えずに大型モンスターを討伐してますし、道のど真ん中に立派な大木が生えてくると思います」
俺と岡はモンスター討伐後の緑化について話すことにした。
いくら街の『解放』が進むとは言え、以前の生活からはかなり不便な生活になる可能性もある。
「少しモンスターを倒す位置を調整しないといけないのかもな……」
「駐屯地にいた頃は無我夢中で倒し続けていましたから、あまり気にしませんでしたけど。気がつくのが遅かったですかね?」
「それについては上に確認しないと分からないな。今までは特に何も言われていないから、問題はないと思うんだが……」
俺と岡は奥多摩に着くまで、トラックの中で頭を悩ませていた。
◇
拠点へと無事に戻ることができた俺たちは、すでに日が暮れていたので夕飯を食べることになった。
隊員達と共に和気藹々と夕飯を楽しんでいると、俺たちの拠点に北山さんが訪れた。
「おっと、悪いな。飯の途中か」
「いえいえ大丈夫ですよ。それより何か問題でもありました?」
北山さんがここに訪れたということは何かあったのかもしれないと思い、俺は内心ヒヤヒヤしていた。
もしかしてトラックを貸してくれないとか……?
「いやいや、そんな大層なことじゃねえよ。うちのトラックをこの拠点に持ってきてもいいんだが、初めてトラックを運転する奴もいるんだろう?それなら奥多摩の出口にトラックを集めておいた方がいいかと思ってよ。どう思う?」
「それは大変ありがたいですけど……いいんですか?何から何まで申し訳ないですよ」
「何言ってんだ。初めて運転するのに山道を通すわけにもいかないだろう?最初は練習の気持ちで街に向かった方がいいに決まってる」
色々やってもらうことにだんだん申し訳なくなってきた。北山さんいい人すぎるだろ。
「……じゃあお言葉に甘えさせていただきますよ。でも色々やってもらって何も返せないのは悪いので、必要なものがあれば街から取ってきますよ?」
「お前らはモンスターを討伐してくれてるんだ。それだけで十分なんだよ。もしそれでも何かしてくれるって言うなら、タバコを持ってきてくれないか?俺は吸わないんだが、うちの職員のほとんどがヘビースモーカーでな。ちまちま吸ってるのを見ると可哀想なんだよ」
「それくらいであれば可能ですよ。本部に連絡して特別に持って来られるように説得しますよ」
しかし、もうちょっと無理難題を言うべきじゃないのか?俺たちに優先して食料を分けろとか……。タバコの力はそれだけ偉大なのだろうか?
「ああ、頼むぞ。明日の朝8時にはトラックを準備しておく。その頃には街に行くんだろう?」
「ええ、では8時頃に現地で落ち合いましょう」
こうして俺と北山さんは明日の予定を確認を終えた。
ついでと言ってはなんだが、隊員達にも紹介することにした。
「みんな!この方がトラックを用意してくれる北山運輸の北山さんだ。俺たちが明日から討伐に専念できる時間が増えるのも、北山さんがトラックを貸してくれるからだ。その分俺たちは1日でも早く街を『解放』していかなければならない。そのことを肝に命じて討伐に向かうようにしよう。北山さんからも自己紹介してもらっていいですか?」
「北山運輸の北山だ。MDUへ力を貸すことができてこちらも嬉しい。君たちにここに住む人たちの生活がかかってるんだ。期待してるからな?ガハハハ!」
北山さんはそう言って豪快に笑った。
隊員達は北山さんに頭を下げ、その表情はやる気に満ち溢れるようだった。
北山さんに煽られることで、隊員達の士気も上がったのかもな。
俺たちは多くの人々の命を預かっていると言ってもいい。なるべく多くの食料を運び、多くのモンスターを討伐していかないといけない。
北山さんはそのあとすぐに拠点を離れていった。
俺たちは次の日の食料運搬と討伐に備え、早めに休むことにした。
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