第57話
「一応運転免許は持っていますが、トラックを運転できる免許ではありませんよ?」
「そうなのか。弓部隊の隊員の中に中型以上の運転免許を持っている隊員はいるか?」
俺は隊員達にそう尋ねた。しかし、誰も名乗りを上げることは無かった。
……誰もいないのは少しまずくない?
「新庄、いきなりトラックって運転できるものなのか?」
「まっすぐ走るなら誰でもできるよ。オートマ限定の免許じゃなければの話だけどね?」
……そうだった。トラックってほとんどがマニュアルでギアを操作しないといけないものなんだっけ。
「えーと、オートマ限定の免許の隊員はいるのか……?」
俺がそう尋ねると、先ほどとは打って変わって半分くらいの隊員が手を挙げてしまった。
俺は手を挙げた隊員の数を数える。
「……11、12。ほぼ半分じゃねえかよ」
マニュアル免許を持っているのは13人。
北山さんが貸してくれると言った15台には届かなかった。
「トラックが余ってしまうな……」
「まあ、最近はオートマ限定免許の取得率が高いっていう話だし、こういうものなんじゃない?」
「まあ、うちのトラックに加えて13台ってことは単純計算で食料を運搬する量も14倍になるからな。今よりはずいぶん良くなるか」
このまま1台で食料の運搬と討伐を続けるよりは遥かに効率が良くなる。あまり贅沢も言っていられないしな。
「じゃあ13台借りることにするか。北山さんにはあとで電話しておくことにするよ。今日は日が暮れるまで討伐に行こうか。最近討伐が少なくて、腕が鈍ってるかも知れないから気合入れて準備しておいてくれ」
俺は刀、槍部隊の隊員に討伐へ向かう準備をしてもらった。とはいえ、先ほど食料の運搬に出ていたから、装備は大体整えてあるだろう。
すぐに出発できそうなので、俺は早めに北山さんに借りるトラックの台数を伝えることにした。
電話をかけると、北山さんはすぐに出てくれた。
「もしもし、松藤です」
「おお、兄ちゃんか。なんかあったのか?」
「借りるトラックの台数に少し変更がありまして、13台貸してもらえます?うちにトラックを運転できそうな隊員があまりいなくて、台数を減らしたいんです」
俺はマニュアル免許を持っている隊員が少ないと説明すると、北山さんは大きな声で笑っていた。
「まあ、今はマニュアル免許を取る奴もいなくなってきたからな!うちのトラックも全部マニュアルだし……わかった。その台数は用意しておく。ちょっと荷物を下ろすのに時間がかかるから、明日の朝には使えるようにしておくぞ」
「ありがとうございます!俺たちは今から討伐に向かうことになりました。何かあれば親の携帯にかけてきてください。それでは失礼します」
俺は北山さんとの電話を切り、すぐに討伐に向かう用意を始めた。今回は帰る時も食料を持ってくるつもりはないので、隊員達も帰りはゆっくりできるだろう。
こうして、俺たちは短時間のモンスター討伐に向かうことになった。
◇
安全地帯の奥多摩から街に向かう俺達だったが、今向かっている場所の説明もせずに来てしまったことに俺は途中で気がついた。
「そういえば討伐を進める場所はみんなに伝えてなかったな。今日は、というか明日からしばらくは青梅市周辺のモンスター討伐を行う。モンスターが少ないとは言え、それは新宿などの都心に比べて少ないということだからな。早めに討伐を進めて青梅市を『解放』できるように頑張ろう」
青梅市は奥多摩に一番近い街だ。
俺たちが討伐を行なってきた中野や新宿と比べると、モンスターの数は少ない方だ。
トラックが借りられるとは言え、食料の運搬にも時間を割かないといけないので、討伐はかなり急ぎ足で行う必要がある。
しばらく走ると、モンスターの数が少しずつ増えてきた。
俺たちはとりあえず、青梅駅に向かうことにした。青梅駅周辺もそれほどモンスターは多くはないので、そこから少しずつ東に向かって討伐を進める予定だ。
「そろそろ着くからな。武器の確認は忘れずにしておけよ」
目的地である青梅駅が近づいてきたので、俺は隊員達にそう声をかけた。
隊員達は気合を入れるように、肩を回したりしていた。
この前、隊員達が亡くなってから俺を含め、隊員の討伐に対する意識は少し変わったかもしれない。
討伐の直前はみんなあまり声を発さず、自分と向き合うように目を閉じる。そういった精神統一のような時間を設けるようになった。
特段、誰がやろうといったわけでもないが、自然とこれをやるようになっていた。
食料の運搬中はモンスターともあまり遭遇しなかったが、今からはモンスターを討伐することだけが目的だ。
俺は部隊を率いる隊長として、もうあのような犠牲者は絶対に出さない。そう心に決めて討伐に向かうことにした。
青梅駅に着いた俺たちはトラックから降りて戦闘準備に入る。
「よし、それじゃあ始めようか。ここから東に進みつつモンスター討伐を行う。日が暮れるまでの短い間だが、最後まで気を抜かず集中して討伐を続けよう」
こうして、俺たちは青梅駅周辺に発生しているモンスターから討伐を始めた。
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