第54話

 今日の予定、というか今後の予定を伝え終わり、俺たちは討伐に向かう準備を始めた。


 準備と言っても、装備の点検などをして、ホロ付きトラックに乗り込むだけなんだが。


「みんなー、準備できたー?良いなら出勤するよー?」


「準備オッケーだ。進んでくれ」


 新庄の呼びかけに対し、そう伝えると幌付きトラックはゆっくりと進み始めた。


 しばらく走ると安全地帯を抜けたのか、ところどころモンスターを見かけた。

 見つけ次第討伐に向かい、討伐が完了すると再び移動するという形だった。

 討伐の時間もあり、最初の目的地の資材センターに着いたのは1時間後のことだった。


「隊長!何を持っていけば良いんでしょうか?」


「とりあえず、鉄と木材、それから炭を積めるだけ積んでくれ。積み終わったら一旦また奥多摩まで戻るぞー」


 到着後、すぐに資材を幌付きトラックに運び込んだ。隊員が立っていないと乗らないくらいの資材を積み込み、俺たちは再び奥多摩に戻ることになった。


 積み込みの最中、新庄は俺に話しかけてきた。


「省吾、ここに来るまでのモンスター少なすぎない?大型モンスターは相変わらず多いけど、都心のように馬鹿みたいに発生してるわけじゃ無いのかな?」


「この辺は畑や森もまだ多いからなのかもしれないな。ここより東に向かうにつれてモンスターの数も増えるんだろうけどな」


 俺たちはここに来るまでモンスターの討伐を続けていたが、正直全員が討伐に参加しなければならないような状況にならなかった。大型モンスターが1体だけで移動していたり、普通のモンスターが10体程度の群れを作っていることが多く、その程度であれば10人ほどの隊員で十分ではあった。


「まあ油断はできないからな。数が多いに越したことはないさ」


 俺と新庄が話していると積み込みが完全に終わったようだった。

 それから俺たちはトラックに乗り込み、奥多摩に向かった。




 俺たちが奥多摩に着いたのは12時をすぎた頃だった。

 しかし、安全地帯である奥多摩の様子は俺たちが出発する前と大きく異なっていた。


「……何が起きたんだ?」


 俺たちが奥多摩に着くと、なぜか白い幕に『我らがMDU』や『アイディールズ』と書かれた幕が木々に掲げられていた。

 

「隊長……な、なにが起きたんでしょうか?」


「いや、俺にも分からん」


 岡が俺にこの状況を尋ねたきたが、俺も誰かに聞きたいくらいだ。


 安全地帯で生活する人からは「ありがとう〜」なんて声も聞こえてきて、本当に何が起こったの変わらず困惑してしまった。


 MDUの拠点に着くと、弓部隊の隊員達が出迎えてくれた。


 俺はこの状況がどういうことなのか早瀬に尋ねることにした。


「早瀬、一体これは……?」


「中野区の『解放』の件がネットニュースやラジオで流れたようで……それを聞いた人たちがMDUを称えてくれているようで、この状況になっています……。拠点に来る人もいたんですが、その人達は追い返しました。大変だったんですよ?」


「そういうことかよ……悪いな、俺たちが討伐に行っている間にこんな状況になっているなんて知らなかったよ」


 でも中野区を『解放』しただけでそうも対応が変わるものか?もともとMDUがモンスターを討伐しているのは知っていただろうに。

 それだけ早く他の地域も『解放』しろということなんだろうか……。


「気にしないでください。ところで、またすぐ討伐に行くんですか?」


「ああ、次は食料を確保しに行かないといけないからな。昼食は……乾パンや携帯食料で済ませるよ。それほどきつい討伐でもないからな」


 午後は時間の許す限り往復して、食料、主に飲料水を確保しなければならなかった。

 食料は節約したとしても、水は飲まないと脱水症状になる可能性が高い。


 こうして、資材センターから持ってきた物を拠点に置き、俺たちは再びトラックに乗り込み、東に向かって走り出した。


 次の目的地はある食品会社の倉庫だ。モンスターが発生した現在でも、保存食などを生産していたがそこで働く従業員も安全地帯へ避難してしまったらしい。その倉庫から安全地帯である奥多摩へ食料、飲料を運ぶ予定だ。


「隊長、このトラックにどれだけ積めますかね?」


「それなりに積めるはずだぞ?さっきの資材の鉄なんかはあまり纏まっていなくて綺麗に積めなかったが、食料は段ボールに入っているらしい。天井ギリギリまで積み込めば数百箱は積めるだろう」


「……また私たちは立ちながら帰らないといけないんですね?」


 岡が少し不満そうな顔をしてそう言った。

 こいつでも嫌な顔をする時あるんだな。


「そうしないとたくさん積めないだろう?トラック1台に積める量は限られているんだし、俺たちのスペースなんて確保していられないぞ」


「それは理解してますが……トラックに乗っている間、討伐するより疲れませんか?モンスターがいると気分転換もできて良いなあなんて思ってしまいますよ……」


 岡はそう言ったが、他の隊員も同様の意見のようだった。彼が言ったことに頷いて賛同している様子だった。


「他にトラックがあれば良いんだけどな。あ、奥多摩に逃げた人の中にトラックが何台か見えたよな?それを借りるっていうのはどう思う?」


「……良いかもしれません!何人かはトラックを運転したことがある隊員もいますし、こんなご時世、免許がないからなんて言ってられませんよね」


 岡は俺の意見に賛成してくれた。

 まあ、問題は簡単にトラックを貸してくれるかどうかなんだけど……。


 仮に、トラックが何台か借りられると言うのであれば、弓部隊の隊員達にトラックを運転してもらおうと考えた。

 運転したことがなくても、それなりに広い道を選んで進めばなんとか運転できるのではないかと思ったからだ。


 食品会社の倉庫に着くまで、俺と岡、そして他の隊員と共にトラック増台計画を進めていることを、運転している新庄は気がついていないようだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る