第55話

 食品会社についた俺たちは、早速2リットルの水が入ったペットボトルの段ボールをトラックに積み込んでいた。


 積み込みの最中、周りの見張りをしている俺と新庄だったが、新庄は移動中にやけに後ろが騒がしいことを気にしていたらしい。


「移動中みんなで何話してたの?いつもと違ってすごく騒がしかったんだけど?」


「そんなに騒がしかったか、悪いな。話し合ってたのは、このトラック1台で食料なんかを運搬するのは効率が悪いんじゃないかって岡から指摘があってな。それなら奥多摩の安全地帯に逃げてきた人の中にトラックで避難してきた人もいるみたいだから、トラックを借りてうちの支部総動員で食料の運搬と討伐を進められるんじゃないかって案が出た」


「もしそれができるとするなら良い案かもね。できるのなら、の話だけど。そもそもトラック貸してくれるか分からないじゃないか」


「そうなんだよな……」


 そうやすやすと自分の移動手段を貸し出すかと言われると、少し不安ではある。

 

「そうなんだよなって……貸してくれるかどうか聞いてからそういう計画立ててよね」


「まあなんとかなるだろう。そのトラックがないと自分自身も脱水症状で死ぬと考えてくれたら嫌でも貸すだろう?」


「脅しに近いよそれ……」


 新庄は俺の考えを聞いてかなり引いていた。

 しかしそんなことは言っていられない。トラック1台だと、俺たちはただの食料運搬会社になってしまう。討伐が少しずつしか進まないよりは、少し人を脅してでもトラックを借りるべきだと考えた。


 もちろんそういうのは最終手段だ。もしトラックを貸してくれる人がいるなら、そんなことはしなくても良いのだから。


「どうせあの地域から早急に移動したがる人はいないと思うし、何より自分達の食料を運んでくれるっていう人にトラックを貸さないなんて、周りにバレたら何をされるか分かったもんじゃないからな」


「省吾ってそんなに性格悪かったっけ……」


「ほっとけ。綺麗事だけじゃどうにもならないんだ。それくらいの覚悟は持っておいてくれよ?」


 俺たちがそんな話をしている間に、トラックには隊員がギリギリ乗れるくらいまでに、水の入った段ボールが積み重ねられていた。


「……省吾たちまた立って移動するんだね?」


 もちろん人が座るようなスペースがない荷台を見て、新庄は呆れるようにそう言った。


「トラックを借りられたらこんな苦労をしなくて済むだろ?前向きに考えてくれ」


 そうして、俺たちは奥多摩の安全地帯に再び移動することになった。




 奥多摩についた俺たちは、安全地帯に設営された配給所に水を届けに向かった。

 配給所はこの数日で自衛隊が設営したもので、少ない人数であるがすでに食料を受け取りに並んでいた。

 今ここに集まっている人々はおそらく、ほとんど食料を持たずにここへ避難してきた人なのだろう。


 俺は自衛隊員に水を届けにきたことを伝え、荷台に積み込んだ段ボールを下ろすことにした。


「外の様子はどうなんでしょうか……」

 

 俺たちが段ボールを下ろしていると、自衛隊員がそう尋ねてきた。


「俺たちはここからあまり離れた場所に行っていませんから、正直よくわかりません。討伐よりもこうやって食料を運搬する方を優先しないといけませんし」


「そう、ですよね。正直、ここに集まった人はかなり多いです。自分達で食料を持ってきている人がほとんどのようですが、それもいつまでもつかわかりませんからね……」


 自衛隊員は不安そうな表情を浮かべそう言った。やはり、ここで一番問題になりそうなのは食料不足のようだな。


 俺たちがダンボールを全て下ろすと、自衛隊が水の配給を始めたと放送した。


 しばらくすると、そこそこな人数が水を受け取りに配給所にやってきた。食料は持ってきても、水を持ってきている人は少ないのかもしれないな。


 もちろん、俺はそれを黙ってみているわけじゃない。

 配給作業が行われる横で、紙にメッセージを書いて声がかけられるのを待っていた。



『食料運搬のため、MDUにトラックを貸してください』



 俺は、今回の配給に訪れる人の中にトラックを貸してくれるような人がいないか探していた。

 もし配給に訪れる人の中にはいないとしても、俺がこうやって紙を持って立っていることが口コミで広がり、やがてトラックを貸してくれる人がここを訪れるのではないかと考えた。


 しかし、配給が始まって30分も経ったが、未だにトラックを貸すと申し出てくる人物は現れなかった。


「さすがにそう簡単に貸してくれる人は現れないんだな」


「ここに何百万人っているんでしょ?少しくらいいても良い気がするけどね」


 俺と新庄はいくら待ってもトラックを貸し出すと言ってくれる人物が現れないことに少し焦っていた。

 このままでは東京支部が運送会社になってしまうかもしれない……毎日こんな感じだとモンスターを討伐する暇なんてなくなるからな。


「私たちの使うトラックをお貸しできたら良いんですけど……私たちも物資の調達で毎日使っていますから難しいですし……」


 配給作業を行なっていた自衛隊員は俺たちが気の毒だと思ったのか、そう声をかけて気遣ってくれた。


「いえ、大丈夫ですよ。自衛隊の皆さんもモンスターと遭遇する危険性があるのに毎日物資調達なんて大変でしょうに」


「それはお互い様でしょう……私たちは比較的モンスターが少ない道を選んで行動していますが、MDUは討伐も並行していると聞いています。私たちとは仕事の難易度も違いますよ。尊敬します」


 自衛隊員は微笑みながら俺たちを讃えてくれた。 


 それからしばらく、俺たちが配給作業が行われているテントで立ち尽くしていると、配給所に訪れたガタイの良い1人の男性が声をかけてきた。



「なんだ、MDUがトラックを貸して欲しいって話は本当だったんだな。それなら俺たちのトラックを貸してやるよ」

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